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第7話「初めての信頼」
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玉座の間に戻ったカイルは、息を切らしながらレイルの前に立った。
「レイルさん、見つけました! あなたの呪いを解く方法が!」
カイルは興奮気味に、古文書に書かれていた「三つの遺物」について説明した。その場所がどれほど危険で、集めることがいかに困難かも包み隠さず話した。
全てを聞き終えたレイルは、しかし、冷めた表情で一言だけ返した。
「……馬鹿げたことを」
「馬鹿げてなんかいません! 可能性が少しでもあるなら、俺は……」
「なぜだ」
レイルはカイルの言葉を遮った。その赤い瞳が、探るようにカイルを見つめる。
「なぜ、貴様はそこまでして俺を助けようとする? 何の得にもなるまい。むしろ、危険を冒すだけだ。我は魔王だぞ。貴様たち人間にとっては、敵であるはずの存在だ」
それは、レイルがずっと抱いていた疑問だった。カイルの行動は、彼の理解を完全に超えていた。
カイルは一瞬言葉に詰まった。なぜ、と問われると、明確な答えを探すのは難しかった。損得勘定ではない。義務感だけでもない。もっと、心の深いところから湧き上がってくる感情だった。
彼は真っ直ぐにレイルの目を見て、飾らない言葉で答えた。
「あなたを、放っておけないからです」
「……なに?」
「初めて会った時、あなたはすごく苦しそうだった。俺のスキルで、その呪いが本当は悲しい呪いなんだって知った時……あなたの孤独を思ったら、涙が止まらなかった。俺にできることがあるなら、何でもしたい。理屈じゃないんです。ただ、そう思うんです」
何の計算も嘘もない、あまりにも純粋なカイルの言葉。
その言葉は、レイルが永い孤独の中で凍らせていた心の奥深くに、じんわりと染み込んでいくようだった。これまで誰も自分に向けてくれなかった、ただ純粋な善意。
レイルはしばらく黙り込んでいたが、やがて、ふっと息を漏らした。それは、自嘲のようでもあり、安堵のため息のようでもあった。
「……面白い。貴様のような人間は初めてだ」
そう言うと、レイルはゆっくりと右手をカイルの前に差し出した。
「貴様のその戯言に、少しだけ乗ってやろう。だが、今の貴様では森を出ることすらできん。我が力を分け与えてやる。我の守護があれば、並の魔物や人間では貴様に傷一つつけられまい」
レイルの手のひらに、凝縮された魔力が黒い宝玉のように現れる。
「ただし、条件がある。必ず、我が元へ戻ってこい。もし途中で投げ出すようなことがあれば、地の果てまで追いかけ、その魂ごと喰らってやる」
それは脅しのはずなのに、カイルにはどこか不器用な願いのように聞こえた。
「はい、必ず戻ってきます。約束します」
カイルは迷わず、レイルの手に自分の手を重ねた。
その瞬間、温かい魔力がカイルの体へと流れ込んでくる。それはレイルの魂の一部であり、二人が確かに繋がった証だった。
永い孤独の中で忘れていた温かい感情。レイルは、それを「信頼」と呼ぶのだと、数百年ぶりに思い出していた。
「レイルさん、見つけました! あなたの呪いを解く方法が!」
カイルは興奮気味に、古文書に書かれていた「三つの遺物」について説明した。その場所がどれほど危険で、集めることがいかに困難かも包み隠さず話した。
全てを聞き終えたレイルは、しかし、冷めた表情で一言だけ返した。
「……馬鹿げたことを」
「馬鹿げてなんかいません! 可能性が少しでもあるなら、俺は……」
「なぜだ」
レイルはカイルの言葉を遮った。その赤い瞳が、探るようにカイルを見つめる。
「なぜ、貴様はそこまでして俺を助けようとする? 何の得にもなるまい。むしろ、危険を冒すだけだ。我は魔王だぞ。貴様たち人間にとっては、敵であるはずの存在だ」
それは、レイルがずっと抱いていた疑問だった。カイルの行動は、彼の理解を完全に超えていた。
カイルは一瞬言葉に詰まった。なぜ、と問われると、明確な答えを探すのは難しかった。損得勘定ではない。義務感だけでもない。もっと、心の深いところから湧き上がってくる感情だった。
彼は真っ直ぐにレイルの目を見て、飾らない言葉で答えた。
「あなたを、放っておけないからです」
「……なに?」
「初めて会った時、あなたはすごく苦しそうだった。俺のスキルで、その呪いが本当は悲しい呪いなんだって知った時……あなたの孤独を思ったら、涙が止まらなかった。俺にできることがあるなら、何でもしたい。理屈じゃないんです。ただ、そう思うんです」
何の計算も嘘もない、あまりにも純粋なカイルの言葉。
その言葉は、レイルが永い孤独の中で凍らせていた心の奥深くに、じんわりと染み込んでいくようだった。これまで誰も自分に向けてくれなかった、ただ純粋な善意。
レイルはしばらく黙り込んでいたが、やがて、ふっと息を漏らした。それは、自嘲のようでもあり、安堵のため息のようでもあった。
「……面白い。貴様のような人間は初めてだ」
そう言うと、レイルはゆっくりと右手をカイルの前に差し出した。
「貴様のその戯言に、少しだけ乗ってやろう。だが、今の貴様では森を出ることすらできん。我が力を分け与えてやる。我の守護があれば、並の魔物や人間では貴様に傷一つつけられまい」
レイルの手のひらに、凝縮された魔力が黒い宝玉のように現れる。
「ただし、条件がある。必ず、我が元へ戻ってこい。もし途中で投げ出すようなことがあれば、地の果てまで追いかけ、その魂ごと喰らってやる」
それは脅しのはずなのに、カイルにはどこか不器用な願いのように聞こえた。
「はい、必ず戻ってきます。約束します」
カイルは迷わず、レイルの手に自分の手を重ねた。
その瞬間、温かい魔力がカイルの体へと流れ込んでくる。それはレイルの魂の一部であり、二人が確かに繋がった証だった。
永い孤独の中で忘れていた温かい感情。レイルは、それを「信頼」と呼ぶのだと、数百年ぶりに思い出していた。
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