追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん

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第9話「泉の試練」

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 数日間の旅を経て、カイルは目的地である「浄化の泉」が眠るという深い森にたどり着いた。

 空気は清浄で、優しい光が木々の間から差し込んでいる。魔の森とは対照的な、神聖な場所だった。

 森の奥に進むと、開けた場所にエメラルドグリーンに輝く泉があった。水面は鏡のように静かで、見ているだけで心が洗われるようだ。ここが「浄化の泉」に違いない。

 カイルが泉に近づこうとした、その時。

「お待ちなさい、人間の子」

 水面から、透き通るような声が響いた。見ると、水の精霊と思われる美しい女性が姿を現していた。彼女は優しげな顔立ちをしているが、その瞳はカイルの心の奥底まで見透かすように鋭い。

「ここは聖なる場所。穢れた心を持つ者は入ることを許しません。あなたは何を求めに来たのですか?」

「俺は……いえ、私は、大切な人を救うために、泉の聖杯をいただきに参りました」

 カイルは精霊に対し、礼儀正しく頭を下げた。レイルの名前を出すのは憚られたため、言葉を濁す。

 精霊はふむ、と頷くと、静かに言った。

「あなたの心に嘘はないようです。ですが、聖杯は試練を乗り越えた者にしか与えられません。力で私を屈服させることは、誰にもできませんよ」

 そう言うと、精霊は悲しそうな表情で、自らの胸元を飾る水の結晶のネックレスに触れた。

「私の悩み……この悲しみの原因を取り除けたなら、聖杯を授けましょう」

 試練の内容は、武力ではなく、精霊の悩みを解決すること。カイルは一瞬戸惑ったが、すぐにやるべきことを理解した。

「失礼ですが、そのネックレスに触れてもよろしいでしょうか?」

「……ええ、構いませんが」

 精霊は訝しげに思いながらも、カイルが泉に手を入れることを許可した。カイルはそっと、彼女が身に着けるネックレスに指先で触れる。

 その瞬間、カイルの『呪物鑑定』スキルが発動した。

【名称:恋慕の涙晶】
【種類:呪具(束縛系)】
【製作者:過去に泉を訪れた人間の魔術師】
【効果:対象(泉の精霊)の心を製作者に縛り付け、この地から離れられなくする】
【解呪条件:第三者が、精霊の真の想いを代弁すること】
【備考:製作者は精霊に恋をしたが、彼女が自分のもとへ来てくれないことを嘆き、この呪具を作ってしまった。彼の歪んだ愛情が、精霊を縛る呪いとなっている】

「……そうだったんですね」

 全ての情報を読み取ったカイルは、同情するように精霊を見つめた。

「あなたは、かつてここを訪れた人間の魔術師を愛していた。しかし、精霊であるあなたは、この泉から離れることができなかった。彼はそのことを理解できず、あなたを独り占めするために、このネックレスにあなたを縛り付ける呪いをかけたのですね」

 カイルの言葉に、精霊は驚きで目を見開いた。

「な……なぜ、あなたがそのことを……!」

「あなたの本当の気持ちは、彼を憎むことじゃない。ただ、彼に自分の気持ちを理解してほしかった。そして、叶うなら、この泉のそばで、ずっと彼と共にいたかった……そうでしょう?」

 カイルがそう語りかけると、精霊の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。それは、誰にも理解してもらえなかった、永い間の悲しみと孤独の涙だった。

「……はい。その通りです……」

 彼女が自らの真の想いを認めた瞬間、ネックレスは淡い光を放ち、パリンと音を立てて砕け散った。長きにわたる呪いが解けたのだ。

「ああ……体が、軽い……」

 呪縛から解放された精霊は、心からの笑顔をカイルに向けた。

「ありがとう、人間の子。あなたのおかげで、私は自由になれました。約束通り、これをあなたに授けましょう」

 泉の中心が輝き、一つの美しい聖杯が浮かび上がってくる。カイルは慎重にそれを受け取った。

 一つ目の遺物、「浄化の泉の聖杯」を手に入れた瞬間だった。
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