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第6話「悪夢と懺悔」
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ヒート騒動の後、レオの過保護ぶりには拍車がかかった。
GPS付きの高級時計を持たされ、どこへ行くにも相馬か護衛が付くようになった。
普通なら息苦しい束縛だが、復讐者としての私にとっては好都合だった。彼の監視下にあるふりをしていれば、彼はこちらの行動を疑わない。私はその隙に、水面下で会社の資金の流れを洗い出し、彼の叔父である剛造の不正の証拠を集め始めていた。
敵の内部崩壊を誘う。まずは外堀から埋める作戦だ。
ある嵐の夜のことだった。
雷鳴が轟き、屋敷が時折激しく揺れる。
私は自分の部屋で資料を読んでいたが、隣の部屋――レオの寝室から、うなされるような声が聞こえてきた。
気になって壁に耳を当てる。
「……やめろ、やめてくれ……旭……!」
彼の悲痛な叫び声。
私は躊躇ったが、様子を見ることにした。これは彼の弱みを探るチャンスかもしれない。
そっとドアを開け、彼の寝室に入る。
部屋は闇に包まれていたが、稲光が室内を一瞬照らし出した。
キングサイズのベッドの上で、レオがシーツを握りしめ、脂汗を流してもがいていた。
「死ぬな……頼む、死なないでくれ……っ!」
彼は悪夢を見ていた。
それも、私が死ぬ夢を。
私はベッドサイドに近づいた。
無防備な寝顔。このまま枕を押しつければ、復讐は終わるかもしれない。
そう思った瞬間、レオがガバッと起き上がった。
目が合った。
彼の瞳孔は開いていて、現実と夢の区別がついていないようだった。
「あ、さひ……?」
彼は震える手で私の腕を掴んだ。
「生きている……のか?」
「……はい、生きていますよ。ただの夢です」
私が冷静に答えると、彼は糸が切れたように私を引き寄せ、強く抱きしめた。
濡れたシャツ越しに、彼の早鐘のような心音が伝わってくる。
「怖かった……君が、血まみれで……俺のことを恨んで、死んでいく夢を……」
私の体が硬直した。
それは夢ではない。私が経験した、前回の現実だ。
やはり、彼は知っている。
レオは私の肩に顔を埋め、子供のように泣きじゃくり始めた。
「すまなかった。俺が弱かったせいで。俺が、君を信じきれなかったせいで……」
嗚咽混じりの懺悔。
「あの時、突き放せば君を守れると思ったんだ。俺のそばにいれば、君は狙われる。だから……わざと冷たくして、離婚して、遠くへ逃がそうとした」
――なに?
私は耳を疑った。
冷たくしたのは、守るため?
「だが、あいつらは、それすら利用した。俺が目を離した隙に、君を……」
レオの腕に力がこもる。
「許さない。俺たちを陥れた連中を。そして、君を守れなかった俺自身を」
雷鳴が再び轟き、彼の顔を照らした。
そこにあったのは、凄絶なまでの後悔と、底知れぬ孤独だった。
私は言葉を失った。
もし、彼の言葉が真実だとしたら。
一度目の人生で私が受けていた仕打ちは、すべて彼なりの不器用で愚かな「守護」だったというのか?
突き放すことでしか守れないほど、彼は追い詰められていたのか?
だとしたら、私を殺した真犯人は誰だ?
バルコニーの上で私を見下ろしていた彼のあの冷たい目は、演技だったのか? それとも、あの場にいたのは彼ではなかった?
思考が混乱する。
憎むべき対象が、揺らぎ始めている。
「……レオさん」
私は無意識に、彼の手を握り返していた。
今はまだ、真実は分からない。
けれど、この震える男を突き放すことは、どうしてもできなかった。
その夜、彼は私の手を握ったまま、ようやく浅い眠りについた。
私は彼が目覚めるまで、その複雑な寝顔を見つめ続けた。
復讐の刃が鈍っていくのを感じながら。
GPS付きの高級時計を持たされ、どこへ行くにも相馬か護衛が付くようになった。
普通なら息苦しい束縛だが、復讐者としての私にとっては好都合だった。彼の監視下にあるふりをしていれば、彼はこちらの行動を疑わない。私はその隙に、水面下で会社の資金の流れを洗い出し、彼の叔父である剛造の不正の証拠を集め始めていた。
敵の内部崩壊を誘う。まずは外堀から埋める作戦だ。
ある嵐の夜のことだった。
雷鳴が轟き、屋敷が時折激しく揺れる。
私は自分の部屋で資料を読んでいたが、隣の部屋――レオの寝室から、うなされるような声が聞こえてきた。
気になって壁に耳を当てる。
「……やめろ、やめてくれ……旭……!」
彼の悲痛な叫び声。
私は躊躇ったが、様子を見ることにした。これは彼の弱みを探るチャンスかもしれない。
そっとドアを開け、彼の寝室に入る。
部屋は闇に包まれていたが、稲光が室内を一瞬照らし出した。
キングサイズのベッドの上で、レオがシーツを握りしめ、脂汗を流してもがいていた。
「死ぬな……頼む、死なないでくれ……っ!」
彼は悪夢を見ていた。
それも、私が死ぬ夢を。
私はベッドサイドに近づいた。
無防備な寝顔。このまま枕を押しつければ、復讐は終わるかもしれない。
そう思った瞬間、レオがガバッと起き上がった。
目が合った。
彼の瞳孔は開いていて、現実と夢の区別がついていないようだった。
「あ、さひ……?」
彼は震える手で私の腕を掴んだ。
「生きている……のか?」
「……はい、生きていますよ。ただの夢です」
私が冷静に答えると、彼は糸が切れたように私を引き寄せ、強く抱きしめた。
濡れたシャツ越しに、彼の早鐘のような心音が伝わってくる。
「怖かった……君が、血まみれで……俺のことを恨んで、死んでいく夢を……」
私の体が硬直した。
それは夢ではない。私が経験した、前回の現実だ。
やはり、彼は知っている。
レオは私の肩に顔を埋め、子供のように泣きじゃくり始めた。
「すまなかった。俺が弱かったせいで。俺が、君を信じきれなかったせいで……」
嗚咽混じりの懺悔。
「あの時、突き放せば君を守れると思ったんだ。俺のそばにいれば、君は狙われる。だから……わざと冷たくして、離婚して、遠くへ逃がそうとした」
――なに?
私は耳を疑った。
冷たくしたのは、守るため?
「だが、あいつらは、それすら利用した。俺が目を離した隙に、君を……」
レオの腕に力がこもる。
「許さない。俺たちを陥れた連中を。そして、君を守れなかった俺自身を」
雷鳴が再び轟き、彼の顔を照らした。
そこにあったのは、凄絶なまでの後悔と、底知れぬ孤独だった。
私は言葉を失った。
もし、彼の言葉が真実だとしたら。
一度目の人生で私が受けていた仕打ちは、すべて彼なりの不器用で愚かな「守護」だったというのか?
突き放すことでしか守れないほど、彼は追い詰められていたのか?
だとしたら、私を殺した真犯人は誰だ?
バルコニーの上で私を見下ろしていた彼のあの冷たい目は、演技だったのか? それとも、あの場にいたのは彼ではなかった?
思考が混乱する。
憎むべき対象が、揺らぎ始めている。
「……レオさん」
私は無意識に、彼の手を握り返していた。
今はまだ、真実は分からない。
けれど、この震える男を突き放すことは、どうしてもできなかった。
その夜、彼は私の手を握ったまま、ようやく浅い眠りについた。
私は彼が目覚めるまで、その複雑な寝顔を見つめ続けた。
復讐の刃が鈍っていくのを感じながら。
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