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第8話「氷の檻と贖罪の真実」
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床に散らばった写真は、私とレオの間に横たわる決定的な亀裂であり、同時に唯一の架け橋でもあった。
レオは、魂が抜け落ちたような顔で床を見つめている。その姿は、日本経済を動かす鷹司の若き帝王ではなく、ただの怯えた子供のように見えた。
私はゆっくりと息を吐き、動揺を抑え込む。ここで感情的になれば、真実は永遠に闇の中だ。
「説明してください、レオさん。隠すために殺した、とはどういう意味ですか?」
私の静かな問いかけに、レオの肩が震える。彼は長い沈黙の後、意を決したように顔を上げた。その瞳は赤く充血し、苦渋に満ちていた。
「……あの日、俺には二つの選択肢しかなかったんだ」
レオが語り始めた真実は、私の想像を絶する凄惨なものだった。
鷹司家の背後には、表向きには引退したはずの祖父・源十郎(げんじゅうろう)という絶対的な支配者が存在していた。彼は「完璧な遺伝子」を残すことに執着する怪物であり、オメガである私を、鷹司の血を引く子供を産ませるための「母体」として、屋敷の奥深くにある実験的な施設へ収容することを決定していたのだという。
「あの施設に行けば、君は人としての尊厳をすべて奪われる。薬漬けにされ、意識のないまま……」
レオは言葉を詰まらせ、拳を握りしめた。
「俺には力がなかった。源十郎に逆らえば、君の家族ごと消されると脅されていた。だから、君を救う方法は一つしかなかった」
――死による解放。
レオは私を、その地獄から逃がすために、自らの手で葬る道を選んだのだ。
『役立たずの、虫けらが』
あの時、彼がバルコニーから私に投げつけた言葉。それは私に向けられたものではなく、私を守れなかった自分自身と、私たちを追い詰めた一族への呪詛だったのだ。
「君を殺した後、俺は源十郎に報告した。『商品は壊れてしまいました』と。そうすることでしか、君の魂を守れなかった」
レオの声が震え、涙が頬を伝う。
「だが、間違いだった。君がいない世界で生きていることなど、俺には耐えられなかった。俺は、君の後を追って死ぬつもりだった。……気づいたら、結婚式の朝に戻っていたんだ」
全ての点と線が繋がった。
彼の冷酷さも、異常なまでの過保護さも、そして悪夢も。
すべては、歪んだ愛と絶望の裏返しだったのだ。
私は彼に近づき、その前に膝をついた。
憎しみは消えていた。代わりに胸を満たすのは、あまりにも深く、重い哀れみと共感だった。
「……馬鹿な人ですね」
私は彼の手を取り、自分の頬に押し当てた。
「なぜ、相談してくれなかったんですか。私だって、一緒に戦えたのに」
「君を巻き込みたくなかった。汚い世界を見せたくなかったんだ」
「その結果が、あれですか?」
私は苦笑する。
「レオさん。一つだけ、秘密を教えます」
彼の目を真っすぐに見つめる。
「私も、戻ってきたんです」
レオの目が大きく見開かれた。
「……え?」
「私は、あなたに殺された記憶を持って戻ってきました。あなたに復讐するために。あなたを破滅させ、捨ててやるために」
レオは凍りついたように動かなくなった。
私は構わず続ける。
「でも、やめました。あなたがただの加害者ではないと分かったから。……そして何より、今のあなたが、私を誰よりも大切に思ってくれていることを知ってしまったから」
私は彼の手のひらに口づけを落とす。
「もう一人で抱え込まないでください。源十郎だろうが何だろうが、二人で立ち向かいましょう。私は、あなたが思っているほどか弱いオメガじゃありません」
レオの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼は私を強く抱きしめ、子供のように声を上げて泣いた。
私はその背中を優しく撫でながら、窓の外の暗闇を睨み据えた。
真の敵は、鷹司源十郎。
復讐のシナリオは書き換えられた。
私たちを弄んだ老害を、今度こそ地獄へ突き落とすために。
レオは、魂が抜け落ちたような顔で床を見つめている。その姿は、日本経済を動かす鷹司の若き帝王ではなく、ただの怯えた子供のように見えた。
私はゆっくりと息を吐き、動揺を抑え込む。ここで感情的になれば、真実は永遠に闇の中だ。
「説明してください、レオさん。隠すために殺した、とはどういう意味ですか?」
私の静かな問いかけに、レオの肩が震える。彼は長い沈黙の後、意を決したように顔を上げた。その瞳は赤く充血し、苦渋に満ちていた。
「……あの日、俺には二つの選択肢しかなかったんだ」
レオが語り始めた真実は、私の想像を絶する凄惨なものだった。
鷹司家の背後には、表向きには引退したはずの祖父・源十郎(げんじゅうろう)という絶対的な支配者が存在していた。彼は「完璧な遺伝子」を残すことに執着する怪物であり、オメガである私を、鷹司の血を引く子供を産ませるための「母体」として、屋敷の奥深くにある実験的な施設へ収容することを決定していたのだという。
「あの施設に行けば、君は人としての尊厳をすべて奪われる。薬漬けにされ、意識のないまま……」
レオは言葉を詰まらせ、拳を握りしめた。
「俺には力がなかった。源十郎に逆らえば、君の家族ごと消されると脅されていた。だから、君を救う方法は一つしかなかった」
――死による解放。
レオは私を、その地獄から逃がすために、自らの手で葬る道を選んだのだ。
『役立たずの、虫けらが』
あの時、彼がバルコニーから私に投げつけた言葉。それは私に向けられたものではなく、私を守れなかった自分自身と、私たちを追い詰めた一族への呪詛だったのだ。
「君を殺した後、俺は源十郎に報告した。『商品は壊れてしまいました』と。そうすることでしか、君の魂を守れなかった」
レオの声が震え、涙が頬を伝う。
「だが、間違いだった。君がいない世界で生きていることなど、俺には耐えられなかった。俺は、君の後を追って死ぬつもりだった。……気づいたら、結婚式の朝に戻っていたんだ」
全ての点と線が繋がった。
彼の冷酷さも、異常なまでの過保護さも、そして悪夢も。
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私は彼に近づき、その前に膝をついた。
憎しみは消えていた。代わりに胸を満たすのは、あまりにも深く、重い哀れみと共感だった。
「……馬鹿な人ですね」
私は彼の手を取り、自分の頬に押し当てた。
「なぜ、相談してくれなかったんですか。私だって、一緒に戦えたのに」
「君を巻き込みたくなかった。汚い世界を見せたくなかったんだ」
「その結果が、あれですか?」
私は苦笑する。
「レオさん。一つだけ、秘密を教えます」
彼の目を真っすぐに見つめる。
「私も、戻ってきたんです」
レオの目が大きく見開かれた。
「……え?」
「私は、あなたに殺された記憶を持って戻ってきました。あなたに復讐するために。あなたを破滅させ、捨ててやるために」
レオは凍りついたように動かなくなった。
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「でも、やめました。あなたがただの加害者ではないと分かったから。……そして何より、今のあなたが、私を誰よりも大切に思ってくれていることを知ってしまったから」
私は彼の手のひらに口づけを落とす。
「もう一人で抱え込まないでください。源十郎だろうが何だろうが、二人で立ち向かいましょう。私は、あなたが思っているほどか弱いオメガじゃありません」
レオの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼は私を強く抱きしめ、子供のように声を上げて泣いた。
私はその背中を優しく撫でながら、窓の外の暗闇を睨み据えた。
真の敵は、鷹司源十郎。
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私たちを弄んだ老害を、今度こそ地獄へ突き落とすために。
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