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第9話「反撃の狼煙と契約の口づけ」
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共闘関係を結んだその夜から、私たちの関係は劇的に変化した。
これまでの「守る者」と「守られる者」という一方的な関係から、互いの背中を預け合う「共犯者」へと進化したのだ。
レオの書斎で、私たちは源十郎を追い詰めるための作戦会議を開いていた。
「爺様の力の源泉は、政財界に張り巡らされた非公式の人脈と、裏帳簿だ。これを暴けば、さすがの彼も失脚する」
レオが広げた組織図を指差す。
私は頷き、持参したタブレットを操作した。
「私は広告代理店の強みを活かします。メディアを操作して、鷹司グループの不透明な資金の流れを世論の目に触れさせる。ただし、グループ全体の株価が大暴落しないよう、あなたの推進するクリーンエネルギー事業を隠れ蓑にして、旧体制の腐敗だけを炙り出します」
「……すごいな。君に経営の才があるとは知っていたが、ここまでとは」
レオが感嘆の声を漏らす。
「前世での経験がありますから。それに、伊達に『完璧な妻』を演じるために勉強していたわけじゃありません」
私が不敵に微笑むと、レオは少し複雑そうな顔をした後、愛おしそうに目を細めた。
「頼もしいよ。……だが、危険な役回りは俺がやる。君は決して表に出ないでくれ」
「またそうやって私を蚊帳の外に置くつもりですか?」
「違う。切り札は最後まで隠しておくべきだという意味だ」
レオは真剣な眼差しで私を見る。
「今度こそ、君を失うわけにはいかない。そのためなら、俺は悪魔にでもなる」
その言葉に嘘はない。
けれど、不安要素が一つあった。
昨夜現れた、桐島カイトだ。
彼は源十郎の手先なのか、それとも独自の思惑で動いているのか。
「カイトのことは心配ない。あいつは愉快犯だが、爺様の操り人形になるようなタマじゃない。むしろ、上手く使えばこちらの武器になる」
レオの言葉を信じよう。
そして、作戦決行の日が近づいてきた。
源十郎が主催する、一族の定例会合。通称「古き血の宴」。
そこで源十郎は、レオを正式な後継者として指名すると同時に、私をあの「施設」へ送るための布石を打ってくるはずだ。
その直前、レオは私に小さな小瓶を渡した。
「これは?」
「特製のフェロモン中和剤だ。市場には出回っていない、軍用のものだ」
レオは私の首筋に手を添え、親指で頸動脈をなぞった。
「あの場には、特殊なフェロモンを放つアルファたちが集まる。君のヒートを強制的に誘発させるために。……これを飲んでおけば、奴らの影響を受けずに済む」
前回の人生で、私が判断力を失い、レオに憎悪を募らせた一因も、もしかしたら薬物やフェロモンによる操作があったのかもしれない。
私は小瓶を受け取り、しっかりと握りしめた。
「飲みます。……でも、その前にお願いがあります」
「なんだ?」
私は一歩近づき、レオのネクタイを引き寄せた。
「私に、あなたの匂いをつけてください」
レオが息を飲む。
「マーキング……という意味か?」
「ええ。首筋を噛むのはまだ早いですけど、あなたの匂いを纏っていれば、他のアルファへの牽制になります。それに……」
私は上目遣いで彼を見つめる。
「私が安心できるんです。あなたの匂いが一番、落ち着くから」
それは復讐のための演技でも計算でもなく、心からの本音だった。
レオの瞳が揺らぎ、熱を帯びる。
彼は私の腰を強く引き寄せ、首筋に顔を埋めた。
「……旭。愛している」
深く、熱い吐息と共に、彼のフェロモンが私を包み込む。
それは森のような、雨上がりの土のような、深く静かな香りだった。
恐怖など微塵もない。
私たちは今、本当の意味で結ばれた気がした。番の契約よりも強く、深い、信頼という絆で。
これまでの「守る者」と「守られる者」という一方的な関係から、互いの背中を預け合う「共犯者」へと進化したのだ。
レオの書斎で、私たちは源十郎を追い詰めるための作戦会議を開いていた。
「爺様の力の源泉は、政財界に張り巡らされた非公式の人脈と、裏帳簿だ。これを暴けば、さすがの彼も失脚する」
レオが広げた組織図を指差す。
私は頷き、持参したタブレットを操作した。
「私は広告代理店の強みを活かします。メディアを操作して、鷹司グループの不透明な資金の流れを世論の目に触れさせる。ただし、グループ全体の株価が大暴落しないよう、あなたの推進するクリーンエネルギー事業を隠れ蓑にして、旧体制の腐敗だけを炙り出します」
「……すごいな。君に経営の才があるとは知っていたが、ここまでとは」
レオが感嘆の声を漏らす。
「前世での経験がありますから。それに、伊達に『完璧な妻』を演じるために勉強していたわけじゃありません」
私が不敵に微笑むと、レオは少し複雑そうな顔をした後、愛おしそうに目を細めた。
「頼もしいよ。……だが、危険な役回りは俺がやる。君は決して表に出ないでくれ」
「またそうやって私を蚊帳の外に置くつもりですか?」
「違う。切り札は最後まで隠しておくべきだという意味だ」
レオは真剣な眼差しで私を見る。
「今度こそ、君を失うわけにはいかない。そのためなら、俺は悪魔にでもなる」
その言葉に嘘はない。
けれど、不安要素が一つあった。
昨夜現れた、桐島カイトだ。
彼は源十郎の手先なのか、それとも独自の思惑で動いているのか。
「カイトのことは心配ない。あいつは愉快犯だが、爺様の操り人形になるようなタマじゃない。むしろ、上手く使えばこちらの武器になる」
レオの言葉を信じよう。
そして、作戦決行の日が近づいてきた。
源十郎が主催する、一族の定例会合。通称「古き血の宴」。
そこで源十郎は、レオを正式な後継者として指名すると同時に、私をあの「施設」へ送るための布石を打ってくるはずだ。
その直前、レオは私に小さな小瓶を渡した。
「これは?」
「特製のフェロモン中和剤だ。市場には出回っていない、軍用のものだ」
レオは私の首筋に手を添え、親指で頸動脈をなぞった。
「あの場には、特殊なフェロモンを放つアルファたちが集まる。君のヒートを強制的に誘発させるために。……これを飲んでおけば、奴らの影響を受けずに済む」
前回の人生で、私が判断力を失い、レオに憎悪を募らせた一因も、もしかしたら薬物やフェロモンによる操作があったのかもしれない。
私は小瓶を受け取り、しっかりと握りしめた。
「飲みます。……でも、その前にお願いがあります」
「なんだ?」
私は一歩近づき、レオのネクタイを引き寄せた。
「私に、あなたの匂いをつけてください」
レオが息を飲む。
「マーキング……という意味か?」
「ええ。首筋を噛むのはまだ早いですけど、あなたの匂いを纏っていれば、他のアルファへの牽制になります。それに……」
私は上目遣いで彼を見つめる。
「私が安心できるんです。あなたの匂いが一番、落ち着くから」
それは復讐のための演技でも計算でもなく、心からの本音だった。
レオの瞳が揺らぎ、熱を帯びる。
彼は私の腰を強く引き寄せ、首筋に顔を埋めた。
「……旭。愛している」
深く、熱い吐息と共に、彼のフェロモンが私を包み込む。
それは森のような、雨上がりの土のような、深く静かな香りだった。
恐怖など微塵もない。
私たちは今、本当の意味で結ばれた気がした。番の契約よりも強く、深い、信頼という絆で。
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