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第13話「明かされた真実と告白」
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ヴォルフが意識を失い床に倒れ伏したことで全ては終わった。
クロードの部下である黒装束の集団はヴォルフと彼の配下たちを素早く拘束し、まるでゴミでも運ぶかのように店の外へと運び出していく。その手際はあまりに鮮やかで俺はただ呆然とその光景を眺めていることしかできなかった。
嵐が過ぎ去った店内はひどい有様だった。割れた窓、破壊されたテーブルと椅子、床に散らばる食器の破片。俺が大切に築き上げてきた穏やかな空間は見るも無残な姿に成り果てていた。
だがそんなことよりも俺の心は目の前の男のことでいっぱいだった。
クロード。
いや彼がただのクロードではないことはもう分かっている。
情報屋ギルドのマスター。そしておそらくは王子。
俺が毎日コーヒーを淹れていた相手は雲の上どころか、天の遥か上にいるような存在だったのだ。
驚きと混乱で声も出ない。何が現実で何が夢なのか頭が全く追いつかなかった。
静けさを取り戻した店の中でクロードはゆっくりと俺の方へ向き直った。
その顔には先ほどまでの冷徹な王者の表情はなく、いつもの彼とも違う少し不安げな傷ついたような色が浮かんでいた。
「……レン、怪我は……」
彼は俺の腕の傷に気づくと痛ましそうに眉をひそめ駆け寄ってきた。
「すまない、私がもっと早く来ていれば……君をこんな危険な目に遭わせずに済んだのに……」
「クロード、さん……あなた、は……」
ようやく絞り出した俺の声は自分でも驚くほど震えていた。
「黙っていて、すまなかった」
クロードは俺の目の前で静かにひざまずいた。それは王族が決してしてはならない行為のはずだ。
「君に嫌われるのが怖かったんだ」
彼はそう言ってうつむいた。その姿はまるで叱られるのを待つ子供のようで、先ほどまでの威厳に満ちた姿とは結びつかない。
「私の本当の身分を知れば君はきっと私を拒絶するだろうと思った。壁を作って遠ざけようとするだろうと……それが何よりも恐ろしかった」
彼はゆっくりと顔を上げた。その紫の瞳がまっすぐに俺を射抜く。
「私はクロード・フォン・アルフレイム。この国の第二王子だ。だが堅苦しい宮廷での暮らしが性に合わず、市井に下りて情報屋ギルドを立ち上げ自由に生きてきた。権力も地位も私にとっては退屈なだけのおもちゃに過ぎなかった」
彼は一度言葉を切りそして続けた。
「――君と、出会うまでは」
「初めて君の淹れたコーヒーを飲んだ時、本当に天国を見つけたと思った。だがそれだけじゃなかった。私は日に日に君という人間そのものに惹かれていったんだ」
彼の声は熱っぽくそして真摯だった。
「君の持つ静かで優しい空気。誰にも媚びず自分の世界を大切にしているところ。不器用だけど本当はとても温かい心を持っていること。そしていざという時に見せるその凛とした芯の強さ……その全てが私にとっては何物にも代えがたい宝物になった」
告白。
それは紛れもない愛の告白だった。
俺は彼の言葉をただ黙って聞いていた。
理不尽にギルドをクビにされ誰にも必要とされていないと思っていた。社会の片隅で影のようにひっそりと生きていくしかないのだとそう思っていた。
そんな俺の存在を心の底から肯定し求めてくれる人がここにいる。
彼はただのコーヒー好きの客ではなかった。
ずっと俺のことを見守りそして密かに守ってくれていた。俺が知らなかったところで俺の平穏が脅かされないようにその力を使ってくれていた。
チンピラが消えたのも悪徳商会が潰れたのも全ては彼の仕業だったのだ。
込み上げてくる温かい感情に胸が詰まる。目の奥がじんと熱くなった。
俺はひざまずいているクロードの肩にそっと手を置いた。
「……立ってください、クロードさん。床が汚れていますから」
俺がそう言うとクロードは驚いたように顔を上げた。
「レン……?」
「俺はあなたの身分なんて気にしません。王子だろうと情報屋のマスターだろうと……俺の知っているクロードさんは毎日俺の店に来て、美味しそうにコーヒーを飲んでくれる少し変わった常連さんですから」
そして俺は続けた。
「それに……俺もあなたに会えるのを毎日楽しみに、していましたから」
最後の方はほとんど声にならなかった。恥ずかしくて顔が燃えるように熱い。
俺の言葉を聞いたクロードの紫の瞳がみるみるうちに潤んでいく。
彼はゆっくりと立ち上がると壊れ物にでも触れるかのように優しく俺を抱きしめた。
「……ああ、レン。君は……本当に私の女神だ」
彼の腕の中で俺は静かにうなずいた。
それが俺の答えだった。
外ではいつの間にか激しい雨は止み、雲の切れ間から静かな月が俺たち二人を照らしていた。
クロードの部下である黒装束の集団はヴォルフと彼の配下たちを素早く拘束し、まるでゴミでも運ぶかのように店の外へと運び出していく。その手際はあまりに鮮やかで俺はただ呆然とその光景を眺めていることしかできなかった。
嵐が過ぎ去った店内はひどい有様だった。割れた窓、破壊されたテーブルと椅子、床に散らばる食器の破片。俺が大切に築き上げてきた穏やかな空間は見るも無残な姿に成り果てていた。
だがそんなことよりも俺の心は目の前の男のことでいっぱいだった。
クロード。
いや彼がただのクロードではないことはもう分かっている。
情報屋ギルドのマスター。そしておそらくは王子。
俺が毎日コーヒーを淹れていた相手は雲の上どころか、天の遥か上にいるような存在だったのだ。
驚きと混乱で声も出ない。何が現実で何が夢なのか頭が全く追いつかなかった。
静けさを取り戻した店の中でクロードはゆっくりと俺の方へ向き直った。
その顔には先ほどまでの冷徹な王者の表情はなく、いつもの彼とも違う少し不安げな傷ついたような色が浮かんでいた。
「……レン、怪我は……」
彼は俺の腕の傷に気づくと痛ましそうに眉をひそめ駆け寄ってきた。
「すまない、私がもっと早く来ていれば……君をこんな危険な目に遭わせずに済んだのに……」
「クロード、さん……あなた、は……」
ようやく絞り出した俺の声は自分でも驚くほど震えていた。
「黙っていて、すまなかった」
クロードは俺の目の前で静かにひざまずいた。それは王族が決してしてはならない行為のはずだ。
「君に嫌われるのが怖かったんだ」
彼はそう言ってうつむいた。その姿はまるで叱られるのを待つ子供のようで、先ほどまでの威厳に満ちた姿とは結びつかない。
「私の本当の身分を知れば君はきっと私を拒絶するだろうと思った。壁を作って遠ざけようとするだろうと……それが何よりも恐ろしかった」
彼はゆっくりと顔を上げた。その紫の瞳がまっすぐに俺を射抜く。
「私はクロード・フォン・アルフレイム。この国の第二王子だ。だが堅苦しい宮廷での暮らしが性に合わず、市井に下りて情報屋ギルドを立ち上げ自由に生きてきた。権力も地位も私にとっては退屈なだけのおもちゃに過ぎなかった」
彼は一度言葉を切りそして続けた。
「――君と、出会うまでは」
「初めて君の淹れたコーヒーを飲んだ時、本当に天国を見つけたと思った。だがそれだけじゃなかった。私は日に日に君という人間そのものに惹かれていったんだ」
彼の声は熱っぽくそして真摯だった。
「君の持つ静かで優しい空気。誰にも媚びず自分の世界を大切にしているところ。不器用だけど本当はとても温かい心を持っていること。そしていざという時に見せるその凛とした芯の強さ……その全てが私にとっては何物にも代えがたい宝物になった」
告白。
それは紛れもない愛の告白だった。
俺は彼の言葉をただ黙って聞いていた。
理不尽にギルドをクビにされ誰にも必要とされていないと思っていた。社会の片隅で影のようにひっそりと生きていくしかないのだとそう思っていた。
そんな俺の存在を心の底から肯定し求めてくれる人がここにいる。
彼はただのコーヒー好きの客ではなかった。
ずっと俺のことを見守りそして密かに守ってくれていた。俺が知らなかったところで俺の平穏が脅かされないようにその力を使ってくれていた。
チンピラが消えたのも悪徳商会が潰れたのも全ては彼の仕業だったのだ。
込み上げてくる温かい感情に胸が詰まる。目の奥がじんと熱くなった。
俺はひざまずいているクロードの肩にそっと手を置いた。
「……立ってください、クロードさん。床が汚れていますから」
俺がそう言うとクロードは驚いたように顔を上げた。
「レン……?」
「俺はあなたの身分なんて気にしません。王子だろうと情報屋のマスターだろうと……俺の知っているクロードさんは毎日俺の店に来て、美味しそうにコーヒーを飲んでくれる少し変わった常連さんですから」
そして俺は続けた。
「それに……俺もあなたに会えるのを毎日楽しみに、していましたから」
最後の方はほとんど声にならなかった。恥ずかしくて顔が燃えるように熱い。
俺の言葉を聞いたクロードの紫の瞳がみるみるうちに潤んでいく。
彼はゆっくりと立ち上がると壊れ物にでも触れるかのように優しく俺を抱きしめた。
「……ああ、レン。君は……本当に私の女神だ」
彼の腕の中で俺は静かにうなずいた。
それが俺の答えだった。
外ではいつの間にか激しい雨は止み、雲の切れ間から静かな月が俺たち二人を照らしていた。
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