「地味すぎる」と暗殺ギルドをクビになった俺。夢だった喫茶店を開いたら、謎の銀髪美青年に毎日通われ口説かれ、気づけば溺愛される

水凪しおん

文字の大きさ
14 / 23

第13話「明かされた真実と告白」

しおりを挟む
 ヴォルフが意識を失い床に倒れ伏したことで全ては終わった。
 クロードの部下である黒装束の集団はヴォルフと彼の配下たちを素早く拘束し、まるでゴミでも運ぶかのように店の外へと運び出していく。その手際はあまりに鮮やかで俺はただ呆然とその光景を眺めていることしかできなかった。
 嵐が過ぎ去った店内はひどい有様だった。割れた窓、破壊されたテーブルと椅子、床に散らばる食器の破片。俺が大切に築き上げてきた穏やかな空間は見るも無残な姿に成り果てていた。

 だがそんなことよりも俺の心は目の前の男のことでいっぱいだった。
 クロード。
 いや彼がただのクロードではないことはもう分かっている。
 情報屋ギルドのマスター。そしておそらくは王子。
 俺が毎日コーヒーを淹れていた相手は雲の上どころか、天の遥か上にいるような存在だったのだ。
 驚きと混乱で声も出ない。何が現実で何が夢なのか頭が全く追いつかなかった。

 静けさを取り戻した店の中でクロードはゆっくりと俺の方へ向き直った。
 その顔には先ほどまでの冷徹な王者の表情はなく、いつもの彼とも違う少し不安げな傷ついたような色が浮かんでいた。

「……レン、怪我は……」

 彼は俺の腕の傷に気づくと痛ましそうに眉をひそめ駆け寄ってきた。

「すまない、私がもっと早く来ていれば……君をこんな危険な目に遭わせずに済んだのに……」

「クロード、さん……あなた、は……」

 ようやく絞り出した俺の声は自分でも驚くほど震えていた。

「黙っていて、すまなかった」

 クロードは俺の目の前で静かにひざまずいた。それは王族が決してしてはならない行為のはずだ。

「君に嫌われるのが怖かったんだ」

 彼はそう言ってうつむいた。その姿はまるで叱られるのを待つ子供のようで、先ほどまでの威厳に満ちた姿とは結びつかない。

「私の本当の身分を知れば君はきっと私を拒絶するだろうと思った。壁を作って遠ざけようとするだろうと……それが何よりも恐ろしかった」

 彼はゆっくりと顔を上げた。その紫の瞳がまっすぐに俺を射抜く。

「私はクロード・フォン・アルフレイム。この国の第二王子だ。だが堅苦しい宮廷での暮らしが性に合わず、市井に下りて情報屋ギルドを立ち上げ自由に生きてきた。権力も地位も私にとっては退屈なだけのおもちゃに過ぎなかった」

 彼は一度言葉を切りそして続けた。

「――君と、出会うまでは」

「初めて君の淹れたコーヒーを飲んだ時、本当に天国を見つけたと思った。だがそれだけじゃなかった。私は日に日に君という人間そのものに惹かれていったんだ」

 彼の声は熱っぽくそして真摯だった。

「君の持つ静かで優しい空気。誰にも媚びず自分の世界を大切にしているところ。不器用だけど本当はとても温かい心を持っていること。そしていざという時に見せるその凛とした芯の強さ……その全てが私にとっては何物にも代えがたい宝物になった」

 告白。
 それは紛れもない愛の告白だった。
 俺は彼の言葉をただ黙って聞いていた。
 理不尽にギルドをクビにされ誰にも必要とされていないと思っていた。社会の片隅で影のようにひっそりと生きていくしかないのだとそう思っていた。
 そんな俺の存在を心の底から肯定し求めてくれる人がここにいる。

 彼はただのコーヒー好きの客ではなかった。
 ずっと俺のことを見守りそして密かに守ってくれていた。俺が知らなかったところで俺の平穏が脅かされないようにその力を使ってくれていた。
 チンピラが消えたのも悪徳商会が潰れたのも全ては彼の仕業だったのだ。

 込み上げてくる温かい感情に胸が詰まる。目の奥がじんと熱くなった。
 俺はひざまずいているクロードの肩にそっと手を置いた。

「……立ってください、クロードさん。床が汚れていますから」

 俺がそう言うとクロードは驚いたように顔を上げた。

「レン……?」

「俺はあなたの身分なんて気にしません。王子だろうと情報屋のマスターだろうと……俺の知っているクロードさんは毎日俺の店に来て、美味しそうにコーヒーを飲んでくれる少し変わった常連さんですから」

 そして俺は続けた。

「それに……俺もあなたに会えるのを毎日楽しみに、していましたから」

 最後の方はほとんど声にならなかった。恥ずかしくて顔が燃えるように熱い。

 俺の言葉を聞いたクロードの紫の瞳がみるみるうちに潤んでいく。
 彼はゆっくりと立ち上がると壊れ物にでも触れるかのように優しく俺を抱きしめた。

「……ああ、レン。君は……本当に私の女神だ」

 彼の腕の中で俺は静かにうなずいた。
 それが俺の答えだった。
 外ではいつの間にか激しい雨は止み、雲の切れ間から静かな月が俺たち二人を照らしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

親友と一緒に異世界転生したら俺だけ神獣だった件 ~伝説の召喚術師になったあいつの溺愛が物理的に重すぎます~

たら昆布
BL
親友と異世界転生したら召喚獣になっていた話 一部完結

処理中です...