「地味すぎる」と暗殺ギルドをクビになった俺。夢だった喫茶店を開いたら、謎の銀髪美青年に毎日通われ口説かれ、気づけば溺愛される

水凪しおん

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第14話「悪党どもの末路」

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 翌日王都には一つの衝撃的なニュースが駆け巡った。
 王都の裏社会に長年根を張っていた暗殺ギルド「黒曜の牙」が、一夜にして壊滅した、と。
 表向きの理由は国家転覆を企てたマルティン公爵との共謀、そして王家に対する反逆罪ということになっていた。拘束されたマスターのヴォルフとギルド員たちの前には「天秤の銀匙」によって集められた動かぬ証拠の山が突きつけられたという。

 ヴォルフはもはや抵抗する気力もなかった。
 彼の前に現れたのは第二王子クロード本人だった。王子は冷たい瞳でヴォルフを見下ろし静かに言い放った。

「貴様の余罪は山ほどある。ギルド設立以来貴様が私利私欲のために行ってきた不正の数々、部下たちへの劣悪な待遇、そしてレンに対して行った不当な解雇とその後の襲撃。その全てをこれから時間をかけて償ってもらう」

 ヴォルフはその時初めて悟った。
 クロード王子は最初から全てを知っていたのだ。レンが「黒曜の牙」に所属していたこともその類まれなる能力も、そして彼が不当に扱われていたことも。
 王子はレンという存在をギルドにいた頃から認識しおそらくは監視していた。そして彼が解放されるのをずっと待っていたのかもしれない。
 全ては王子の手のひらの上だったのだ。

 ヴォルフとギルドの幹部たちは法の裁きを受けることとなった。王家への反逆罪に加え数えきれないほどの余罪を暴かれ、彼らに下された判決は当然ながら極刑だった。
 まさに自業自得の末路と言えた。

 ギルド「黒曜の牙」は情報操作によって悪評が王都中に広まり依頼する者もいなくなり、完全に解体された。その跡地には後日王立の孤児院が建てられることになったという。

「……そうですか」

 クロードから事の顛末を聞いた俺はただ静かにうなずいた。
 ヴォルフたちに対して同情はなかった。だが喜びもなかった。ただ俺を縛り付けていた過去がこれで完全に断ち切られたのだという、一抹の寂しさと安堵が入り混じったような不思議な気持ちだった。
 俺たちのいる場所は一夜にして修繕された喫茶店「木漏れ日」のカウンターの中だ。
 クロードが彼の手配で腕利きの職人たちを呼び寄せ、一晩で元通り……いや以前よりも素敵に直してくれたのだ。傷ひとつないカウンターも新調されたテーブルと椅子も全てが輝いて見える。

「これで君を過去から縛り付けるものは何もなくなったわけだ」

 クロードは俺の淹れたコーヒーを一口飲み満足げに微笑んだ。

「……クロードさん」

「ん? なんだい、レン?」

「ありがとうございました」

 俺は頭を下げた。彼がいなければ俺は今頃どうなっていたか分からない。店も俺自身の命も失っていたかもしれない。

「礼を言われるようなことは何もしていないさ。私はただ自分の宝物を守っただけだ」

 クロードはこともなげに言うとカウンター越しに身を乗り出し、俺の頬にそっとキスをした。

「ひゃっ!?」

 突然のことに俺は素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。顔が一気に熱くなるのが分かる。

「ちょっ、何を……!」

「お礼だよ。君の美味しいコーヒーと君の無事に対する私からの心ばかりのね」

 彼は楽しそうに笑っている。その顔は王子でもギルドマスターでもなく、俺のよく知っている少し意地悪で甘いことが好きな常連客の顔だった。

「他のお客様もいますから……!」

 慌てて辺りを見回すが幸いまだ開店したばかりで客はいない。

「おや、いないじゃないか。それに仮にいたとしても私は気にしないが?」

「俺が気にします!」

 俺たちのやり取りを見てクロードの後ろに控えていた護衛らしき黒装束の男が、肩を震わせているのが見えた。きっと笑いをこらえているのだろう。
 やりにくいことこの上ない。

 この日から俺の喫茶店「木漏れ日」の日常は少しだけ形を変えた。
 変わったことといえばカウンターの特等席に毎日甲斐甲斐しく俺の世話を焼こうとする、とびきり美形な恋人がいること。そして店の隅の目立たない席にその恋人を護衛する黒装束の影が、常に二つほど控えていることくらいだ。
 俺の平穏な日常は少しだけ騒がしく、そして格段に甘くなったのだった。
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