「地味すぎる」と暗殺ギルドをクビになった俺。夢だった喫茶店を開いたら、謎の銀髪美青年に毎日通われ口説かれ、気づけば溺愛される

水凪しおん

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第19話「木漏れ日の下で、未来の話を」

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 初めての喧嘩を乗り越えてから俺とクロードの関係は以前にも増して穏やかで満ち足りたものになった。
 クロードは約束通り俺の自由を尊重してくれるようになった。他の客と俺が楽しそうに話していても少しだけ寂しそうな顔はするけれど、以前のように嫉妬の炎を燃やすことはなくなった。彼なりに必死に感情をコントロールしようとしてくれているのが伝わってきて、それが何だか愛おしかった。

 俺も彼に対して素直に気持ちを伝えられるようになってきた。
「今日の服、素敵ですね」とか「その髪飾り、似合ってます」とか。そんな些細なことでも言葉にして伝えるとクロードは子どものようにはしゃいで喜んだ。その反応が嬉しくて俺はもっと色々なことを伝えたくなった。

 そんなある日の午後、店には俺とクロードしかいなかった。
 窓から差し込む木漏れ日が床にきらきらと揺れている。穏やかで眠たくなるような時間だった。
 クロードは珍しく本も読まずただぼんやりと外を眺めていた。その横顔がいつもより少しだけ大人びて見える。

「……レン」

 不意に彼が静かな声で俺を呼んだ。

「はい」

「いつか……君さえよければ、の話だが」

 彼は少しだけ言い淀んでそして続けた。

「この店を城の敷地内に移さないか?」

「え……?」

 思いがけない提案に俺は目を丸くした。

「どうして、ですか?」

「その方が私も毎日通いやすいし何より君の安全を完璧に保障できる。それに……兄上や城で働く者たちにも、君の素晴らしいコーヒーを飲ませてやりたいんだ」

 彼はそう言って少しだけはにかんだように笑った。

「もちろん今のこの店の雰囲気が好きなのも分かっている。君が嫌だと言うのなら無理強いはしない。ただの一つの可能性として考えてみてはくれないだろうか」

 城の敷地内に店を移す。
 それは俺の人生が完全に王家と結びつくことを意味していた。
 もうただの裏路地の喫茶店主ではいられなくなる。王子の恋人として多くの人の目に晒されることになるだろう。人付き合いが苦手な俺にとってそれは少し怖いことのようにも思えた。

 だがそれ以上に彼の提案は俺たちの未来を真剣に考えてくれている証のように感じられて、胸が温かくなった。
 彼は俺との関係を一時の遊びだなんて思っていない。ずっとこの先も一緒にいることを望んでくれている。
 その事実が何よりも嬉しかった。

「……そうですね」

 俺はしばらく考えてからゆっくりと口を開いた。

「この店のこの場所が好きです。ここであなたと出会えたから。だからもう少しだけここで店を続けていたいです」

 俺の言葉にクロードの表情が少しだけ曇る。
 俺は慌てて言葉を続けた。

「でも……いつかあなたの隣に立つ覚悟がちゃんとできたなら。その時はあなたの提案を喜んで受けさせてもらいます」

 俺の答えを聞いたクロードは一瞬驚いたように目を見開いた。そして次の瞬間、その顔に満開の花が咲いたようなまばゆい笑顔が広がった。

「……ああ、レン。君は本当に……」

 彼はカウンターから身を乗り出すと俺の手を両手で優しく包み込んだ。

「ありがとう。待っているよ。君の覚悟が決まる日を、いつまでも」

 その紫の瞳は未来への希望と俺への深い愛情で、きらきらと輝いていた。

 俺たちはまだ恋人同士になったばかりだ。
 この先どんな未来が待っているのか分からない。身分の違いという大きな壁もある。
 でもこの人と一緒ならきっと乗り越えていける。
 そう確信できた。

 木漏れ日が優しく降り注ぐ中で俺たちは言葉にはしない未来の約束を交わした。
 それは丁寧にハンドドリップで淹れたコーヒーのように温かくて甘くて、そしてほんの少しだけビターな大人の約束だった。
 店のドアベルがカランと風に揺れて鳴った。まるで俺たちの未来を祝福するかのように。
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