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第20話「香る日々と、二人のためのブレンド」
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季節は巡り王都の街路樹が黄金色に染まる秋が訪れた。
俺の喫茶店「木漏れ日」は相変わらず静かな裏路地でひっそりと営業を続けている。
変わったことと言えば客が少しだけ増えたことだろうか。クロードが連れてくる城の関係者や彼の護衛たちがこっそり通うようになり、口コミで評判が広がったらしい。
それでも店の穏やかな雰囲気は変わらなかった。俺はそのことに心から安堵していた。
そして俺とクロードの関係もあの秋の日の約束からまた一歩、先へ進んでいた。
俺は週に二度ほど城にあるクロードの私室を訪れるようになった。彼の部屋で彼のためだけにコーヒーを淹れる。それは俺たちにとって何よりも大切な時間になっていた。
「ん……美味しい。やはり君の淹れるコーヒーは世界一だ」
ソファにゆったりと腰掛けたクロードがカップを片手に至福の表情を浮かべる。
彼の部屋は広くそして趣味の良い調度品で整えられているが、どこか殺風景だった。だが俺がここに通うようになってから少しずつ生活感が出てきたように思う。俺が贈った小さな観葉植物や俺が選んだコーヒーカップがその部屋に彩りを添えている。
「買いかぶりすぎですよ」
俺はそう言いながら彼の隣に腰を下ろした。もう彼の隣に座ることに緊張はしない。むしろここが俺の定位置になりつつあった。
クロードは空いている方の手で俺の髪を優しく撫でた。
「そんなことはないさ。君のコーヒーは私の命の源だよ」
彼はそう言うと俺の肩にこてんと頭を乗せてくる。まるで大きな猫が甘えてくるようだ。俺は苦笑しながらもその重みが心地よかった。
「そういえば、レン。新しいブレンドを考えたと、言っていただろう?」
「ええ。あなたをイメージして作ってみたんです」
俺はそう言って持ってきた小さな袋を取り出した。
中に入っているのは深く艶やかな黒色のコーヒー豆だ。
「深煎りの豆をベースに隠し味に少しだけスパイシーな香りのする豆を混ぜてみました。甘くて濃厚ででも後味はすっきりしている……そんなイメージです」
俺の説明を聞きながらクロードは目を細めていた。
「私をイメージして、か。……それはぜひ味わってみたいものだね」
「今度店で淹れますよ」
「いや、ここで淹れてほしい。君が私のために淹れてくれる特別な一杯としてね」
彼は甘えるようにそう言った。
俺たちの毎日はこんな風に穏やかでそして甘い。
暗殺者だった頃の血と硝煙の匂いがした日々がまるで遠い昔の夢のようだ。
今の俺の周りにはいつもコーヒーの香ばしい匂いが満ちている。そしてその隣にはこの上なく俺を愛してくれる人がいる。
これ以上の幸せが他にあるだろうか。
俺はクロードの肩に寄りかかったまま静かに目を閉じた。
窓の外では秋の優しい風が黄金色の木の葉を揺らしている。
影が薄いと言われ誰にも必要とされていないと思っていた俺が、今こんなにも温かい場所にいる。
この幸せは彼がくれたものだ。
「クロードさん」
「なんだい?」
「……ありがとうございます。俺を見つけてくれて」
それはずっと言えなかった心の底からの感謝の言葉だった。
クロードは何も言わずただ俺を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
言葉はなくても彼の想いは十分に伝わってきた。
影が薄い元暗殺者と正体を明かした情報屋マスター兼王子様。
二人の甘く香ばしい日々はまだ始まったばかり。
この先どんなことがあろうとも二人で淹れるコーヒーの香りがあれば、きっと乗り越えていけるだろう。
店のドアベルが今日も軽やかに鳴り響く。
それは新たな幸せの訪れを告げる祝福の音色のように。
俺たちの物語はこれからもこのコーヒーの香りと共にゆっくりと続いていくのだ。
俺の喫茶店「木漏れ日」は相変わらず静かな裏路地でひっそりと営業を続けている。
変わったことと言えば客が少しだけ増えたことだろうか。クロードが連れてくる城の関係者や彼の護衛たちがこっそり通うようになり、口コミで評判が広がったらしい。
それでも店の穏やかな雰囲気は変わらなかった。俺はそのことに心から安堵していた。
そして俺とクロードの関係もあの秋の日の約束からまた一歩、先へ進んでいた。
俺は週に二度ほど城にあるクロードの私室を訪れるようになった。彼の部屋で彼のためだけにコーヒーを淹れる。それは俺たちにとって何よりも大切な時間になっていた。
「ん……美味しい。やはり君の淹れるコーヒーは世界一だ」
ソファにゆったりと腰掛けたクロードがカップを片手に至福の表情を浮かべる。
彼の部屋は広くそして趣味の良い調度品で整えられているが、どこか殺風景だった。だが俺がここに通うようになってから少しずつ生活感が出てきたように思う。俺が贈った小さな観葉植物や俺が選んだコーヒーカップがその部屋に彩りを添えている。
「買いかぶりすぎですよ」
俺はそう言いながら彼の隣に腰を下ろした。もう彼の隣に座ることに緊張はしない。むしろここが俺の定位置になりつつあった。
クロードは空いている方の手で俺の髪を優しく撫でた。
「そんなことはないさ。君のコーヒーは私の命の源だよ」
彼はそう言うと俺の肩にこてんと頭を乗せてくる。まるで大きな猫が甘えてくるようだ。俺は苦笑しながらもその重みが心地よかった。
「そういえば、レン。新しいブレンドを考えたと、言っていただろう?」
「ええ。あなたをイメージして作ってみたんです」
俺はそう言って持ってきた小さな袋を取り出した。
中に入っているのは深く艶やかな黒色のコーヒー豆だ。
「深煎りの豆をベースに隠し味に少しだけスパイシーな香りのする豆を混ぜてみました。甘くて濃厚ででも後味はすっきりしている……そんなイメージです」
俺の説明を聞きながらクロードは目を細めていた。
「私をイメージして、か。……それはぜひ味わってみたいものだね」
「今度店で淹れますよ」
「いや、ここで淹れてほしい。君が私のために淹れてくれる特別な一杯としてね」
彼は甘えるようにそう言った。
俺たちの毎日はこんな風に穏やかでそして甘い。
暗殺者だった頃の血と硝煙の匂いがした日々がまるで遠い昔の夢のようだ。
今の俺の周りにはいつもコーヒーの香ばしい匂いが満ちている。そしてその隣にはこの上なく俺を愛してくれる人がいる。
これ以上の幸せが他にあるだろうか。
俺はクロードの肩に寄りかかったまま静かに目を閉じた。
窓の外では秋の優しい風が黄金色の木の葉を揺らしている。
影が薄いと言われ誰にも必要とされていないと思っていた俺が、今こんなにも温かい場所にいる。
この幸せは彼がくれたものだ。
「クロードさん」
「なんだい?」
「……ありがとうございます。俺を見つけてくれて」
それはずっと言えなかった心の底からの感謝の言葉だった。
クロードは何も言わずただ俺を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
言葉はなくても彼の想いは十分に伝わってきた。
影が薄い元暗殺者と正体を明かした情報屋マスター兼王子様。
二人の甘く香ばしい日々はまだ始まったばかり。
この先どんなことがあろうとも二人で淹れるコーヒーの香りがあれば、きっと乗り越えていけるだろう。
店のドアベルが今日も軽やかに鳴り響く。
それは新たな幸せの訪れを告げる祝福の音色のように。
俺たちの物語はこれからもこのコーヒーの香りと共にゆっくりと続いていくのだ。
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