自己肯定感ゼロの駄菓子屋オメガですが、なぜか執着系スパダリαにロックオンされました

水凪しおん

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第9話「御曹司、駄菓子屋に住む」

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 あの一件以来、蓮さんの行動はエスカレートした。
 なんと、家に帰らなくなったのだ。

「ここから出勤する」

「ええっ!? 無理ですよ、ここ六畳一間だし、お風呂だって狭いし!」

「君がいるなら、そこが王宮だ」

 なんてキザなセリフを真顔で吐き、彼は強引に転がり込んできた。
 高級マンションにある服や生活用品を、部下に運ばせて。
 おかげで、昭和レトロな僕の部屋は、カオスなことになっている。ちゃぶ台の横に最高級のイタリア製スーツが吊るされ、煎餅の缶の隣にブランド物の腕時計が置かれているのだ。

「湊、醤油取ってくれ」

「はいはい」

 朝。
 蓮さんはスウェット姿でちゃぶ台に向かい、納豆を混ぜている。
 世界的な企業の役員が、築50年の木造アパートで納豆を混ぜる図。
 シュールすぎるが、見慣れると妙に馴染んでいるのが不思議だ。

「今日の味噌汁、具は何だ?」

「大根と油揚げです」

「最高だ」

 彼はしみじみと味噌汁を啜る。
 以前、高級フレンチに連れて行ってもらったことがあるけれど、その時よりも今のほうが幸せそうな顔をしている気がする。

「蓮さん、本当にここでいいんですか? 背中、痛くないですか?」

「布団が狭いおかげで、一晩中君と密着していられる。これ以上の贅沢はない」

 彼はニヤリと笑って、僕の腰を引き寄せた。
 朝からスキンシップが激しい。
 番になってから、彼の独占欲と性欲は天井知らずだ。隙あらばキスをしてくるし、匂いを嗅いでくる。

「……んっ、蓮さん、これから店を開ける準備が……」

「あと五分。いや、十分。エネルギーチャージさせろ」

 僕の首筋に顔を埋め、深く呼吸をする蓮さん。
 彼にとって、僕の匂いは精神安定剤のようなものらしい。
 最初は「できそこない」だと思っていた自分の匂いが、彼をこんなにも癒やしているのだと思うと、少しだけ自信が持てるようになった。

 ガラガラ、と玄関の戸が開く音がした。
 近所のお婆ちゃんだ。

「湊くーん、大根の煮物作ったから持ってきたわよー」

「あ、すみません今出ます!」

 慌てて蓮さんを引き剥がし、玄関へ走る。
 お婆ちゃんは、奥から出てきた長身のイケメンを見て目を丸くした。

「あらあ、旦那さん、今日もいらっしゃるの?」

「ああ、どうも。いつも湊が世話になってます」

 蓮さんは完璧な「良き夫」の笑顔で挨拶をした。
 ご近所公認の仲になりつつある。
 駄菓子屋の常連客である子供たちも、最近では蓮さんに懐いている。
「社長」というあだ名で呼ばれ、宿題を教えてあげたり、ベーゴマで本気で勝負して大人げなく勝ったりしているのだ。

 キラキラした社交界よりも、ここの生活のほうが彼には合っているのかもしれない。
 そんなことを思いながら、僕は幸せを噛み締めていた。
 この日常が、ずっと続けばいいのに。
 でも、心のどこかで分かっていた。
 彼は、いつまでもここに留まれる人ではないのだと。
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