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第9話「奪われる畑と、黒い野心」
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「畑を、接収する…?」
役人の言葉がすぐには理解できなかった。
僕が聞き返すと男は鼻で笑った。
「言葉の通りですよ、平民。この豊穣の土地は本日より王家の直轄地となる。速やかにここを立ち去りなさい。まあこれまでの功に免じて農奴としてここで働かせてやらんでもないがね」
侮辱的な言葉に僕の頭にカッと血が上る。
隣に立つカイの握りしめた拳がぎしりと音を立てた。
「ふざけるな。ここはミナトが一人で切り拓いた土地だ。お前たちにそんな権利はない」
カイが地を這うような低い声で言い放つ。
その声には普段の彼からは想像もできないほどの冷たい怒りがこもっていた。
役人の隣にいた騎士風の男――ロイドと名乗った――がカイを見て嘲るように唇を歪めた。
「これはこれは、カイ殿ではないか。こんな辺境で土いじりとはな。王国最強と謳われた元騎士団長殿も落ちぶれたものだ」
ロイドの言葉に僕は息を呑んだ。
元騎士団長?カイが?
カイはロイドの挑発には乗らずただ静かに燃えるような瞳で彼をにらみつけている。
「貴様…!」
「おっと、手出しは無用だぞ。俺は今や辺境伯の地位を賜った身。それに、お前はもうただの罪人。俺に逆らうことは王国に逆らうことと同じだと心得ろ」
ロイドは勝ち誇ったように笑う。
どうやらこのロイドという男はカイが王都を追われる原因になった人物らしい。
そして僕の畑の噂を聞きつけその利益を横取りしようとこうして乗り込んできたのだろう。
役人は僕たちの抵抗など意にも介さない様子で連れてきた兵士たちに命令した。
「何をぐずぐずしている!さっさとこの者たちを追い出し畑を管理下におけ!」
「はっ!」
兵士たちがぞろぞろと僕たちの畑へと踏み込んでくる。
彼らは僕が丹精込めて育ててきた野菜たちを土足で無慈悲に踏み荒らしていく。
「やめてください!」
僕は思わず叫んだ。
それは僕とカイが共に過ごしてきた大切な時間の結晶なんだ。
それをこんな風に踏みにじられるなんて絶対に許せない。
僕が飛び出そうとするのをカイが腕で制した。
「行くな、ミナト。今は分が悪い」
「でも…!」
「奴らの狙いは、お前のその力だ。お前さえいれば畑などいくらでも作り直せる。だがお前の身に何かあれば取り返しがつかない」
カイは僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
その瞳は悔しさに燃えながらも冷静さを失ってはいなかった。
僕たちの背後ではクロが唸り声をあげいつでも飛びかかれる体勢をとっている。
僕が命令すればクロはきっと兵士たちに襲い掛かるだろう。
でもそれで兵士たちを傷つけてしまったら僕たちは完全にお尋ね者になってしまう。
「…分かりました」
僕は唇を噛みしめながらうなずいた。
悔しい。
自分の無力さが腹立たしい。
でもカイの言う通りだ。
今ここで争っても勝ち目はない。
僕たちが抵抗しないのを見るとロイドは満足げにうなずいた。
「物分かりが良くて助かる。さあ、とっとと失せろ。お前たちが住んでいたその汚い小屋は我々がありがたく使ってやる」
その言葉が最後の引き金になった。
僕たちが住んでいたあの小さな小屋。
僕がこの世界に来て初めて自分の手で建てた大切な場所。
カイとクロと三人で笑い合った温かい思い出が詰まった僕たちの家。
それを「汚い小屋」と侮辱され奪われる。
僕の中で何かがぷつりと切れた。
『神の農具』
僕は無意識のうちにスキルを発動させていた。
僕の右手にはいつものクワではなく巨大なカマが握られていた。
その刃は月光のように冷たい光を放っている。
「ミナト!?」
カイの驚く声が聞こえる。
でももう僕には何も聞こえなかった。
「僕たちの家に…僕たちの畑に、手出しはさせない…!」
僕は巨大なカマを構え兵士たちをにらみつけた。
僕の体から自分でも驚くほどの怒りのオーラが立ち上っているのが分かる。
僕のただならぬ気配に兵士たちがたじろいだ。
ロイドは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嘲笑った。
「ほう、農夫がカマを振り回すか。面白い。だがそのお遊びもこれまでだ。やれ、殺しはするなよ。そいつにはこれから馬車馬のように働いてもらわねばならんからな」
ロイドの合図で兵士たちが一斉に僕に襲い掛かってきた。
もうどうなってもいい。
僕がカマを振り上げ迎え撃とうとしたその瞬間。
僕の前に黒い影が躍り出た。
カイだ。
彼はいつ抜いたのか腰の剣を抜き放ち僕をかばうように立ちはだかっていた。
「ミナトには、指一本触れさせん」
その背中は僕が今まで見たどの時の彼よりも大きくそして頼もしく見えた。
「カイさん…」
「言ったはずだ。お前は俺が守ると」
カイは僕を振り返ることなく言った。
一人で十数人の兵士を相手にする。
無謀だ。
そう思ったその時。
遠くから複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。
地響きを立てながらこちらに近づいてくる。
なんだろう?
ロイドの増援だろうか。
僕たちの顔に絶望の色が浮かぶ。
しかし現れた一団は僕たちの予想を裏切るものだった。
彼らはロイドの兵士たちとは違う精悍な顔つきの騎士たちだった。
そしてその先頭に立つ人物を見たロイドが信じられないといった表情で目を見開いた。
「なっ…なぜ、お前たちがここに…!?」
騎士たちは馬から降りるとカイの前に進み出て一斉に膝をついた。
「カイ団長!お待たせいたしました!」
彼らの言葉に今度は僕が目を見開く番だった。
カイは静かにうなずくと騎士たちに向かって言った。
「ああ。よく来てくれた」
そして再びロイドの方へと向き直る。
その顔には先ほどまでの焦りは微塵もなく絶対的な王者のような静かな自信が満ち溢れていた。
「ロイド。お遊びは、もう終わりだ」
形勢は一瞬にして逆転した。
僕たちの反撃が今始まろうとしていた。
役人の言葉がすぐには理解できなかった。
僕が聞き返すと男は鼻で笑った。
「言葉の通りですよ、平民。この豊穣の土地は本日より王家の直轄地となる。速やかにここを立ち去りなさい。まあこれまでの功に免じて農奴としてここで働かせてやらんでもないがね」
侮辱的な言葉に僕の頭にカッと血が上る。
隣に立つカイの握りしめた拳がぎしりと音を立てた。
「ふざけるな。ここはミナトが一人で切り拓いた土地だ。お前たちにそんな権利はない」
カイが地を這うような低い声で言い放つ。
その声には普段の彼からは想像もできないほどの冷たい怒りがこもっていた。
役人の隣にいた騎士風の男――ロイドと名乗った――がカイを見て嘲るように唇を歪めた。
「これはこれは、カイ殿ではないか。こんな辺境で土いじりとはな。王国最強と謳われた元騎士団長殿も落ちぶれたものだ」
ロイドの言葉に僕は息を呑んだ。
元騎士団長?カイが?
カイはロイドの挑発には乗らずただ静かに燃えるような瞳で彼をにらみつけている。
「貴様…!」
「おっと、手出しは無用だぞ。俺は今や辺境伯の地位を賜った身。それに、お前はもうただの罪人。俺に逆らうことは王国に逆らうことと同じだと心得ろ」
ロイドは勝ち誇ったように笑う。
どうやらこのロイドという男はカイが王都を追われる原因になった人物らしい。
そして僕の畑の噂を聞きつけその利益を横取りしようとこうして乗り込んできたのだろう。
役人は僕たちの抵抗など意にも介さない様子で連れてきた兵士たちに命令した。
「何をぐずぐずしている!さっさとこの者たちを追い出し畑を管理下におけ!」
「はっ!」
兵士たちがぞろぞろと僕たちの畑へと踏み込んでくる。
彼らは僕が丹精込めて育ててきた野菜たちを土足で無慈悲に踏み荒らしていく。
「やめてください!」
僕は思わず叫んだ。
それは僕とカイが共に過ごしてきた大切な時間の結晶なんだ。
それをこんな風に踏みにじられるなんて絶対に許せない。
僕が飛び出そうとするのをカイが腕で制した。
「行くな、ミナト。今は分が悪い」
「でも…!」
「奴らの狙いは、お前のその力だ。お前さえいれば畑などいくらでも作り直せる。だがお前の身に何かあれば取り返しがつかない」
カイは僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
その瞳は悔しさに燃えながらも冷静さを失ってはいなかった。
僕たちの背後ではクロが唸り声をあげいつでも飛びかかれる体勢をとっている。
僕が命令すればクロはきっと兵士たちに襲い掛かるだろう。
でもそれで兵士たちを傷つけてしまったら僕たちは完全にお尋ね者になってしまう。
「…分かりました」
僕は唇を噛みしめながらうなずいた。
悔しい。
自分の無力さが腹立たしい。
でもカイの言う通りだ。
今ここで争っても勝ち目はない。
僕たちが抵抗しないのを見るとロイドは満足げにうなずいた。
「物分かりが良くて助かる。さあ、とっとと失せろ。お前たちが住んでいたその汚い小屋は我々がありがたく使ってやる」
その言葉が最後の引き金になった。
僕たちが住んでいたあの小さな小屋。
僕がこの世界に来て初めて自分の手で建てた大切な場所。
カイとクロと三人で笑い合った温かい思い出が詰まった僕たちの家。
それを「汚い小屋」と侮辱され奪われる。
僕の中で何かがぷつりと切れた。
『神の農具』
僕は無意識のうちにスキルを発動させていた。
僕の右手にはいつものクワではなく巨大なカマが握られていた。
その刃は月光のように冷たい光を放っている。
「ミナト!?」
カイの驚く声が聞こえる。
でももう僕には何も聞こえなかった。
「僕たちの家に…僕たちの畑に、手出しはさせない…!」
僕は巨大なカマを構え兵士たちをにらみつけた。
僕の体から自分でも驚くほどの怒りのオーラが立ち上っているのが分かる。
僕のただならぬ気配に兵士たちがたじろいだ。
ロイドは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嘲笑った。
「ほう、農夫がカマを振り回すか。面白い。だがそのお遊びもこれまでだ。やれ、殺しはするなよ。そいつにはこれから馬車馬のように働いてもらわねばならんからな」
ロイドの合図で兵士たちが一斉に僕に襲い掛かってきた。
もうどうなってもいい。
僕がカマを振り上げ迎え撃とうとしたその瞬間。
僕の前に黒い影が躍り出た。
カイだ。
彼はいつ抜いたのか腰の剣を抜き放ち僕をかばうように立ちはだかっていた。
「ミナトには、指一本触れさせん」
その背中は僕が今まで見たどの時の彼よりも大きくそして頼もしく見えた。
「カイさん…」
「言ったはずだ。お前は俺が守ると」
カイは僕を振り返ることなく言った。
一人で十数人の兵士を相手にする。
無謀だ。
そう思ったその時。
遠くから複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。
地響きを立てながらこちらに近づいてくる。
なんだろう?
ロイドの増援だろうか。
僕たちの顔に絶望の色が浮かぶ。
しかし現れた一団は僕たちの予想を裏切るものだった。
彼らはロイドの兵士たちとは違う精悍な顔つきの騎士たちだった。
そしてその先頭に立つ人物を見たロイドが信じられないといった表情で目を見開いた。
「なっ…なぜ、お前たちがここに…!?」
騎士たちは馬から降りるとカイの前に進み出て一斉に膝をついた。
「カイ団長!お待たせいたしました!」
彼らの言葉に今度は僕が目を見開く番だった。
カイは静かにうなずくと騎士たちに向かって言った。
「ああ。よく来てくれた」
そして再びロイドの方へと向き直る。
その顔には先ほどまでの焦りは微塵もなく絶対的な王者のような静かな自信が満ち溢れていた。
「ロイド。お遊びは、もう終わりだ」
形勢は一瞬にして逆転した。
僕たちの反撃が今始まろうとしていた。
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