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第13話「勇者の苦悩、王の決断」
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翌日から、城内は慌ただしくなった。
魔王ベリアルと勇者レオが、人間界の王都へ向かうという報せは、瞬く間に魔界全土を駆け巡った。
「正気ですか、魔王様。罠に決まっています」
側近たちが口々に反対するが、ベリアルは聞く耳を持たなかった。
「罠ならば踏み潰すまで。余とお前たちの英雄であるレオが行くのだ。負ける道理がない」
その絶対的な自信に、最後には誰もが口を噤むしかなかった。
一方、レオは心の中に澱のような重さを抱えていた。
出発の準備をしながら、鏡に映る自分の顔を見つめる。
そこにあるのは、かつての「人類の希望」としての顔か、それとも「魔王の愛人」としての顔か。
「……裏切り者、か」
人間界の民衆は、今の自分をどう見ているだろうか。
魔王に洗脳された哀れな男か、それとも魂を売った汚らわしい罪人か。
故郷の村人たち、剣を教えてくれた師匠、共に戦った仲間たち。
彼らの顔が浮かんでは消える。
「レオ様、準備が整いました」
メイドの少女が控えめに声をかけてきた。
彼女は魔族だが、レオのことを恐れず、いつも笑顔で接してくれる。
「ありがとう。すぐ行くよ」
レオは剣を腰に差し、深呼吸をして部屋を出た。
***
廊下を歩いていると、中庭でガープ将軍が待っていた。
「レオ殿。少しよろしいですか」
「ガープ……昨日は悪かったな、無理やり鍵を使わせて」
「いえ、あれは私の独断です。それより……お顔色が優れませんな」
鋭いダークエルフの目は、レオの心の揺らぎを見透かしていた。
「……怖いんだ。魔王と戦うことは怖くない。でも、自分が守ってきた人々から石を投げられるかもしれないと思うと、足がすくむ」
レオは正直な気持ちを吐露した。
ガープは静かに頷き、空を見上げた。
「かつて、私も同胞から追放された身です。闇の魔力に染まったエルフなど、森の恥晒しだと」
「えっ、そうだったのか?」
「ええ。ですが、魔王様は私を受け入れてくださいました。『力に善悪はない。あるのは使い手の意志だけだ』と」
ガープはレオに向き直り、真摯な眼差しを向けた。
「あなたは変わってなどいません。勇者レオ。あなたの魂の輝きは、ここに来た時と少しも変わっていない。むしろ、愛を知り、真実を知ったことで、より強く輝いているように見えます」
「ガープ……」
「民衆は愚かですが、同時に真実を見抜く目も持っています。あなたの言葉と行動が本物ならば、きっと届くはずです」
その言葉は、レオの胸に深く染み渡った。
「……ありがとう。迷いが吹っ切れたよ」
「礼には及びません。どうか、魔王様を……そして、我々の未来をお願いします」
ガープが深々と頭を下げる。
レオは力強く頷き、ベリアルの待つ正門へと向かった。
そこには、数名の精鋭部隊と共に、巨大な黒竜に跨がったベリアルの姿があった。
「遅いぞ、レオ。待ちくたびれた」
「悪い悪い。ちょっと話し込んでてな」
レオは黒竜の背に飛び乗り、ベリアルの前に座った。
魔王の腕が後ろから回り込み、手綱ごとレオを抱き込む形になる。
「行くぞ。人間界へ」
ベリアルの号令と共に、黒竜が翼を広げた。
強烈な風圧と共に、身体が宙に浮く。
眼下に広がる魔界の大地。
群衆から次々と声援が上がり、二人の出立を温かく力強く見送った。
レオは彼らに向かって手を振り返した。
「見ろ、レオ。あれが、お前が守るべき民だ」
耳元でベリアルが囁く。
「ああ。わかってる。人間も魔族も関係ない。俺は、この世界に生きる全ての人々のために戦うんだ」
レオの中で、勇者としての覚悟が新たな形で定まった。
もはや「人間の勇者」ではない。「世界の勇者」として、愚かな王を正しに行くのだ。
黒竜は風を切り、雲を突き抜け、北の空へと飛翔した。
魔王ベリアルと勇者レオが、人間界の王都へ向かうという報せは、瞬く間に魔界全土を駆け巡った。
「正気ですか、魔王様。罠に決まっています」
側近たちが口々に反対するが、ベリアルは聞く耳を持たなかった。
「罠ならば踏み潰すまで。余とお前たちの英雄であるレオが行くのだ。負ける道理がない」
その絶対的な自信に、最後には誰もが口を噤むしかなかった。
一方、レオは心の中に澱のような重さを抱えていた。
出発の準備をしながら、鏡に映る自分の顔を見つめる。
そこにあるのは、かつての「人類の希望」としての顔か、それとも「魔王の愛人」としての顔か。
「……裏切り者、か」
人間界の民衆は、今の自分をどう見ているだろうか。
魔王に洗脳された哀れな男か、それとも魂を売った汚らわしい罪人か。
故郷の村人たち、剣を教えてくれた師匠、共に戦った仲間たち。
彼らの顔が浮かんでは消える。
「レオ様、準備が整いました」
メイドの少女が控えめに声をかけてきた。
彼女は魔族だが、レオのことを恐れず、いつも笑顔で接してくれる。
「ありがとう。すぐ行くよ」
レオは剣を腰に差し、深呼吸をして部屋を出た。
***
廊下を歩いていると、中庭でガープ将軍が待っていた。
「レオ殿。少しよろしいですか」
「ガープ……昨日は悪かったな、無理やり鍵を使わせて」
「いえ、あれは私の独断です。それより……お顔色が優れませんな」
鋭いダークエルフの目は、レオの心の揺らぎを見透かしていた。
「……怖いんだ。魔王と戦うことは怖くない。でも、自分が守ってきた人々から石を投げられるかもしれないと思うと、足がすくむ」
レオは正直な気持ちを吐露した。
ガープは静かに頷き、空を見上げた。
「かつて、私も同胞から追放された身です。闇の魔力に染まったエルフなど、森の恥晒しだと」
「えっ、そうだったのか?」
「ええ。ですが、魔王様は私を受け入れてくださいました。『力に善悪はない。あるのは使い手の意志だけだ』と」
ガープはレオに向き直り、真摯な眼差しを向けた。
「あなたは変わってなどいません。勇者レオ。あなたの魂の輝きは、ここに来た時と少しも変わっていない。むしろ、愛を知り、真実を知ったことで、より強く輝いているように見えます」
「ガープ……」
「民衆は愚かですが、同時に真実を見抜く目も持っています。あなたの言葉と行動が本物ならば、きっと届くはずです」
その言葉は、レオの胸に深く染み渡った。
「……ありがとう。迷いが吹っ切れたよ」
「礼には及びません。どうか、魔王様を……そして、我々の未来をお願いします」
ガープが深々と頭を下げる。
レオは力強く頷き、ベリアルの待つ正門へと向かった。
そこには、数名の精鋭部隊と共に、巨大な黒竜に跨がったベリアルの姿があった。
「遅いぞ、レオ。待ちくたびれた」
「悪い悪い。ちょっと話し込んでてな」
レオは黒竜の背に飛び乗り、ベリアルの前に座った。
魔王の腕が後ろから回り込み、手綱ごとレオを抱き込む形になる。
「行くぞ。人間界へ」
ベリアルの号令と共に、黒竜が翼を広げた。
強烈な風圧と共に、身体が宙に浮く。
眼下に広がる魔界の大地。
群衆から次々と声援が上がり、二人の出立を温かく力強く見送った。
レオは彼らに向かって手を振り返した。
「見ろ、レオ。あれが、お前が守るべき民だ」
耳元でベリアルが囁く。
「ああ。わかってる。人間も魔族も関係ない。俺は、この世界に生きる全ての人々のために戦うんだ」
レオの中で、勇者としての覚悟が新たな形で定まった。
もはや「人間の勇者」ではない。「世界の勇者」として、愚かな王を正しに行くのだ。
黒竜は風を切り、雲を突き抜け、北の空へと飛翔した。
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