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番外編 第2話「賢王の憂鬱と甘すぎる茶会」
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人間界の新しい王となったロイス公爵が、友好の証として魔王城を訪れたのは、レオの腹が目立ち始めた頃だった。
「ようこそ、義弟よ」
出迎えたベリアルは上機嫌だった。
彼にとってレオの身内は、すなわち自分の身内も同然である。
ロイスは、かつて兄が恐れ、禁呪兵器まで使って滅ぼそうとした「恐怖の魔王」の前に立ち、引きつった笑みを浮かべていた。
なぜなら、今の魔王の姿があまりにも衝撃的だったからだ。
「……あの、レオ兄上。その格好は……」
中庭に用意されたティーテーブル。
レオは椅子に座ってはいなかった。
ベリアルの太ももの上にちょこんと座り、魔王の腕にすっぽりと抱き込まれていたのだ。
「気にするな、ロイス。こいつが離さないんだ」
レオは諦めたような顔で紅茶をすすっている。
「当然だ。妊夫を冷たい椅子に座らせるわけにはいかない。余の膝が一番温かく、安全なのだ」
ベリアルはそう言って、レオのお腹に手を回し、愛おしげに撫でている。
その手つきは優しく、しかし独占欲に満ちていた。
ロイスは目のやり場に困り、手元のカップに視線を落とした。
「そ、そうですか……。お二人が仲睦まじいのは、何よりです」
「そうだ、ロイス。お前にも抱かせてやろうか?」
「は?」
「余とレオの結晶、この腹の中にいる次期魔王をだ」
ベリアルはニヤニヤしながら、レオの腹を指差した。
「い、いえ。滅相もありません。私のような人間が、魔王様のお子に触れるなど……」
「遠慮するな。叔父になるのだからな」
ベリアルは強引にロイスの手を取り、レオの腹へと導いた。
恐る恐る触れたその場所からは、ドクンドクンと力強い鼓動と、ピリピリとした魔力の気配が伝わってきた。
「……すごい。まだ生まれてもいないのに、これほどの力が」
「だろう? 余の自慢だ」
ベリアルは鼻高々だ。
レオは溜息をつき、ロイスに苦笑いを向けた。
「悪いな、ロイス。こいつ、最近こればっかりでさ。親馬鹿にも程がある」
「いえ……兄上が幸せそうで、安心しました」
ロイスは心からそう言った。
かつて孤独な戦士として剣を振るっていたレオ。その瞳には、常に悲壮な決意が宿っていた。
だが今のレオは、魔王の腕の中で、どこまでも穏やかな顔をしている。
「しかしベリアル殿。一つ忠告させていただきますが」
「なんだ?」
「あまり甘やかしすぎると、兄上は図に乗りますよ。昔から、褒められると調子に乗って無茶をする質ですから」
「ほほう? それは初耳だ。詳しく聞かせてもらおうか」
「おいロイス。変なこと吹き込むな」
レオが慌ててロイスの口を塞ごうとするが、ベリアルがそれを片手で制し、さらに面白そうに身を乗り出した。
「続けろ、義弟よ。我が妻の知られざる過去、余が全て買い取ろう」
そこから始まったのは、レオの幼少期の恥ずかしいエピソード暴露大会だった。
真っ赤になって抗議する勇者と、それを肴に楽しげに笑う魔王と人間の王。
種族の壁も、かつての戦争の傷跡も、甘い菓子の香りと笑い声の中に溶けていった。
「ようこそ、義弟よ」
出迎えたベリアルは上機嫌だった。
彼にとってレオの身内は、すなわち自分の身内も同然である。
ロイスは、かつて兄が恐れ、禁呪兵器まで使って滅ぼそうとした「恐怖の魔王」の前に立ち、引きつった笑みを浮かべていた。
なぜなら、今の魔王の姿があまりにも衝撃的だったからだ。
「……あの、レオ兄上。その格好は……」
中庭に用意されたティーテーブル。
レオは椅子に座ってはいなかった。
ベリアルの太ももの上にちょこんと座り、魔王の腕にすっぽりと抱き込まれていたのだ。
「気にするな、ロイス。こいつが離さないんだ」
レオは諦めたような顔で紅茶をすすっている。
「当然だ。妊夫を冷たい椅子に座らせるわけにはいかない。余の膝が一番温かく、安全なのだ」
ベリアルはそう言って、レオのお腹に手を回し、愛おしげに撫でている。
その手つきは優しく、しかし独占欲に満ちていた。
ロイスは目のやり場に困り、手元のカップに視線を落とした。
「そ、そうですか……。お二人が仲睦まじいのは、何よりです」
「そうだ、ロイス。お前にも抱かせてやろうか?」
「は?」
「余とレオの結晶、この腹の中にいる次期魔王をだ」
ベリアルはニヤニヤしながら、レオの腹を指差した。
「い、いえ。滅相もありません。私のような人間が、魔王様のお子に触れるなど……」
「遠慮するな。叔父になるのだからな」
ベリアルは強引にロイスの手を取り、レオの腹へと導いた。
恐る恐る触れたその場所からは、ドクンドクンと力強い鼓動と、ピリピリとした魔力の気配が伝わってきた。
「……すごい。まだ生まれてもいないのに、これほどの力が」
「だろう? 余の自慢だ」
ベリアルは鼻高々だ。
レオは溜息をつき、ロイスに苦笑いを向けた。
「悪いな、ロイス。こいつ、最近こればっかりでさ。親馬鹿にも程がある」
「いえ……兄上が幸せそうで、安心しました」
ロイスは心からそう言った。
かつて孤独な戦士として剣を振るっていたレオ。その瞳には、常に悲壮な決意が宿っていた。
だが今のレオは、魔王の腕の中で、どこまでも穏やかな顔をしている。
「しかしベリアル殿。一つ忠告させていただきますが」
「なんだ?」
「あまり甘やかしすぎると、兄上は図に乗りますよ。昔から、褒められると調子に乗って無茶をする質ですから」
「ほほう? それは初耳だ。詳しく聞かせてもらおうか」
「おいロイス。変なこと吹き込むな」
レオが慌ててロイスの口を塞ごうとするが、ベリアルがそれを片手で制し、さらに面白そうに身を乗り出した。
「続けろ、義弟よ。我が妻の知られざる過去、余が全て買い取ろう」
そこから始まったのは、レオの幼少期の恥ずかしいエピソード暴露大会だった。
真っ赤になって抗議する勇者と、それを肴に楽しげに笑う魔王と人間の王。
種族の壁も、かつての戦争の傷跡も、甘い菓子の香りと笑い声の中に溶けていった。
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