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第3話「運命の番、初めての熱」
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意識が浮上と沈降を繰り返す。身体は灼熱の炉の中にいるように熱く、それでいて心地よい冷たさに包まれているような、矛盾した感覚に囚われていた。
『ここは……どこだ……?』
フィンがうっすらと目を開けると、そこは見慣れた兵舎の殺風景な天井ではなかった。天蓋付きの豪奢なベッド、絹のように滑らかなシーツ、そして部屋に満ちる心を落ち着かせるような静謐な香り。それは先ほど自分を抱き上げた男から香っていた、冬の夜のような匂いだった。
「気がついたか」
頭上から、低く甘い声が降ってきた。フィンがゆっくりと視線を巡らせると、ベッドの脇に置かれた椅子に、あの瑠璃色の瞳の男が腰掛けていた。ゼイド・ヴァルモニカ。彼はフィンが目を覚ましたことに気づくと、まるで宝物を見るかのような優しい眼差しでその頬を撫でた。
「あ……」
声を出そうとしたが喉が渇ききっていて、掠れた音しか出ない。身体の熱は一向に引かず、むしろ先ほどよりも熱くなっている気がする。身体の芯がずきりと疼き、下腹部に熱が集まっていくのが分かった。
「水だ。飲めるか?」
ゼイドはそう言うと、サイドテーブルに置かれていた水差しからグラスに水を注ぎ、フィンの唇にそっと近づけた。フィンはごくごくと、夢中でその冷たい水を飲み干した。渇いた喉が潤い、少しだけ思考がはっきりしてくる。
そうだ、俺は、オメガに……。
その事実を思い出した途端、再び身体の熱がぶり返した。アルファのフェロモンを間近で浴びたせいか、発情の波がより一層激しくなっている。
「はっ……ぁ……くるし……」
「無理もない。初めての発情(ヒート)なのだろう。しかも、これほど強いとは……」
ゼイドは独り言のようにつぶやくと、フィンの額に浮かんだ汗を優しく拭った。その仕草はあまりに自然で、まるで長年連れ添った恋人に対するそれのようだった。
「なぜ、俺がここに……」
「俺の番だからだ。当然だろう?」
ゼイドはこともなげに言い放つ。その言葉の意味が理解できず、フィンは混乱した。番?俺が?この国の英雄と?ありえない。何かの間違いだ。
しかし、フィンの身体は正直だった。ゼイドが近づくたびに彼のフェロモンに反応して甘い香りが濃くなり、身体が疼くのだ。本能が、目の前のアルファを求めて叫んでいる。
「しっかりしろ。俺以外のアルファにその香りを嗅がせるわけにはいかないからな。お前はここで、俺と共に過ごすんだ」
ゼイドの言葉は、有無を言わさぬ響きを持っていた。彼はフィンの隣に腰を下ろすと、その華奢な身体を抱き寄せた。逞しい胸板に顔を埋める形になり、フィンはびくりと身を強張らせる。ゼイドの匂いが、より直接的に脳を揺さぶった。
「や……だめ……です……」
「何がだめなんだ?」
ゼイドは心底不思議そうに問いかける。彼の腕の中で、フィンの身体はさらに熱を帯びとろりと蕩けていくようだった。理性では抗わなければと思うのに、身体は正直に快感を求めている。
「お前は知らなかったのかもしれないが、俺はずっと番を探していた。どんなに美しいオメガに会っても、心が動くことはなかった。だがお前を見つけた瞬間、分かった。魂が震えるとは、このことなのだと」
瑠璃色の瞳が、熱っぽくフィンを見つめる。その瞳に映るのは、純粋なまでの渇望と独占欲だった。フィンは、その視線に射竦められたように動けなくなった。
「お前の発情は、俺が鎮めてやる。だから何も心配するな。全てを俺に委ねろ」
囁きと共に、ゼイドの唇がフィンのそれに重ねられた。最初は戸惑い身を固くしていたフィンだったが、流れ込んでくるゼイドのフェロモンと巧みな舌の動きに、次第に思考が麻痺していく。
『あつい……くるしい……でも、気持ちいい……』
初めての口づけは、フィンのなけなしの理性を吹き飛ばすには十分すぎた。ゼイドの手が服の上からゆっくりとフィンの身体をなぞる。そのたびに、びくびくと全身が震えた。脇腹にあったはずの傷は、不思議と全く痛まない。おそらく彼が高度な治癒魔法を使ったのだろう。
「いい香りだ……フィン」
ゼイドはうっとりとそう言うと、フィンの首筋に顔を埋め、その白い肌に吸い付いた。鋭い牙が、番の証を刻む項を優しく食む。
「ひっ……!」
フィンの背筋を、今まで感じたことのない種類の快感が駆け抜けた。発情の熱とゼイドによって与えられる快感で、頭の中がぐちゃぐちゃになる。もう、どうにでもなれ。そんな諦めにも似た感情が、フィンの心を支配し始めていた。
「大丈夫だ。優しくしてやる」
ゼイドはそう言うと、フィンの服の合わせに手をかけ、ゆっくりとそれをはだけさせていく。露わになった肌は、発情の熱でほんのりと上気していた。
これは夢だ。そうに違いない。過労死して転生して、今度は国の英雄に抱かれようとしている。なんて波乱万丈な人生だろうか。
どこか他人事のようにそう考えるフィンの思考を遮るように、ゼイドの熱い指が彼の秘密の場所に触れた。その瞬間、フィンの身体は大きく跳ね、甲高い声が漏れた。
氷の鬼神と呼ばれた男の、蕩けるように甘い愛撫が、その夜始まった。
『ここは……どこだ……?』
フィンがうっすらと目を開けると、そこは見慣れた兵舎の殺風景な天井ではなかった。天蓋付きの豪奢なベッド、絹のように滑らかなシーツ、そして部屋に満ちる心を落ち着かせるような静謐な香り。それは先ほど自分を抱き上げた男から香っていた、冬の夜のような匂いだった。
「気がついたか」
頭上から、低く甘い声が降ってきた。フィンがゆっくりと視線を巡らせると、ベッドの脇に置かれた椅子に、あの瑠璃色の瞳の男が腰掛けていた。ゼイド・ヴァルモニカ。彼はフィンが目を覚ましたことに気づくと、まるで宝物を見るかのような優しい眼差しでその頬を撫でた。
「あ……」
声を出そうとしたが喉が渇ききっていて、掠れた音しか出ない。身体の熱は一向に引かず、むしろ先ほどよりも熱くなっている気がする。身体の芯がずきりと疼き、下腹部に熱が集まっていくのが分かった。
「水だ。飲めるか?」
ゼイドはそう言うと、サイドテーブルに置かれていた水差しからグラスに水を注ぎ、フィンの唇にそっと近づけた。フィンはごくごくと、夢中でその冷たい水を飲み干した。渇いた喉が潤い、少しだけ思考がはっきりしてくる。
そうだ、俺は、オメガに……。
その事実を思い出した途端、再び身体の熱がぶり返した。アルファのフェロモンを間近で浴びたせいか、発情の波がより一層激しくなっている。
「はっ……ぁ……くるし……」
「無理もない。初めての発情(ヒート)なのだろう。しかも、これほど強いとは……」
ゼイドは独り言のようにつぶやくと、フィンの額に浮かんだ汗を優しく拭った。その仕草はあまりに自然で、まるで長年連れ添った恋人に対するそれのようだった。
「なぜ、俺がここに……」
「俺の番だからだ。当然だろう?」
ゼイドはこともなげに言い放つ。その言葉の意味が理解できず、フィンは混乱した。番?俺が?この国の英雄と?ありえない。何かの間違いだ。
しかし、フィンの身体は正直だった。ゼイドが近づくたびに彼のフェロモンに反応して甘い香りが濃くなり、身体が疼くのだ。本能が、目の前のアルファを求めて叫んでいる。
「しっかりしろ。俺以外のアルファにその香りを嗅がせるわけにはいかないからな。お前はここで、俺と共に過ごすんだ」
ゼイドの言葉は、有無を言わさぬ響きを持っていた。彼はフィンの隣に腰を下ろすと、その華奢な身体を抱き寄せた。逞しい胸板に顔を埋める形になり、フィンはびくりと身を強張らせる。ゼイドの匂いが、より直接的に脳を揺さぶった。
「や……だめ……です……」
「何がだめなんだ?」
ゼイドは心底不思議そうに問いかける。彼の腕の中で、フィンの身体はさらに熱を帯びとろりと蕩けていくようだった。理性では抗わなければと思うのに、身体は正直に快感を求めている。
「お前は知らなかったのかもしれないが、俺はずっと番を探していた。どんなに美しいオメガに会っても、心が動くことはなかった。だがお前を見つけた瞬間、分かった。魂が震えるとは、このことなのだと」
瑠璃色の瞳が、熱っぽくフィンを見つめる。その瞳に映るのは、純粋なまでの渇望と独占欲だった。フィンは、その視線に射竦められたように動けなくなった。
「お前の発情は、俺が鎮めてやる。だから何も心配するな。全てを俺に委ねろ」
囁きと共に、ゼイドの唇がフィンのそれに重ねられた。最初は戸惑い身を固くしていたフィンだったが、流れ込んでくるゼイドのフェロモンと巧みな舌の動きに、次第に思考が麻痺していく。
『あつい……くるしい……でも、気持ちいい……』
初めての口づけは、フィンのなけなしの理性を吹き飛ばすには十分すぎた。ゼイドの手が服の上からゆっくりとフィンの身体をなぞる。そのたびに、びくびくと全身が震えた。脇腹にあったはずの傷は、不思議と全く痛まない。おそらく彼が高度な治癒魔法を使ったのだろう。
「いい香りだ……フィン」
ゼイドはうっとりとそう言うと、フィンの首筋に顔を埋め、その白い肌に吸い付いた。鋭い牙が、番の証を刻む項を優しく食む。
「ひっ……!」
フィンの背筋を、今まで感じたことのない種類の快感が駆け抜けた。発情の熱とゼイドによって与えられる快感で、頭の中がぐちゃぐちゃになる。もう、どうにでもなれ。そんな諦めにも似た感情が、フィンの心を支配し始めていた。
「大丈夫だ。優しくしてやる」
ゼイドはそう言うと、フィンの服の合わせに手をかけ、ゆっくりとそれをはだけさせていく。露わになった肌は、発情の熱でほんのりと上気していた。
これは夢だ。そうに違いない。過労死して転生して、今度は国の英雄に抱かれようとしている。なんて波乱万丈な人生だろうか。
どこか他人事のようにそう考えるフィンの思考を遮るように、ゼイドの熱い指が彼の秘密の場所に触れた。その瞬間、フィンの身体は大きく跳ね、甲高い声が漏れた。
氷の鬼神と呼ばれた男の、蕩けるように甘い愛撫が、その夜始まった。
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