異世界転生した社畜、瀕死でオメガ覚醒。氷の鬼神な騎士団長に見初められ、執着溺愛ライフを送る

水凪しおん

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第9話「覚悟の証明、冴え渡る現代知識」

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 あの夜の事件以来、ゼイドの過保護と束縛はさらにエスカレートした。フィンが一人で部屋から出ることは固く禁じられ、トイレや風呂に行くときでさえゼイドが扉の外で見張っている有様だった。

「ゼイド様、さすがにこれは……」

「駄目だ。いつ、またお前を狙う輩が現れるか分からない。俺はもう、あんな思いはごめんだ」

 ゼイドは頑として譲らなかった。フィンは深いため息をついたが、彼の不安を取り除くには口で何を言っても無駄だということも分かっていた。行動で示すしかない。自分が彼の隣に立つに値する存在であり、無力なだけの人間ではないということを。

「ゼイド様、お願いがあります」

 ある日の朝食後、フィンは意を決して切り出した。

「なんだ、フィン。何でも言ってくれ」

「俺を、あなたの補佐官として、正式に軍務に就かせてください」

 その言葉に、ゼイドは目に見えて不機嫌な顔をした。

「軍務?なぜそんなことを。お前は俺のそばで、何もしなくていいんだ。俺がお前を守り、養う」

「守られているだけでは嫌なんです。俺も、あなたの力になりたい。あなたの隣で、あなたを支えたいんです」

 フィンの真剣な眼差しに、ゼイドは言葉を失った。番の、健気でひたむきな願い。それを無下にできるほど、彼は冷酷ではなかった。

「……分かった。だが、条件がある。決して、俺のそばを離れるな。危険な任務には就かせない。いいな?」

「はい。ありがとうございます、ゼイド様」

 こうしてフィンは平民、元ベータ、後天性オメガという異例の経歴ながら、第一騎士団長付きの特別補佐官という、前代未聞の地位に就くことになった。

 もちろん、周囲の反発は大きかった。騎士団の幹部たちはあからさまにフィンの存在を無視し、重要な会議にも彼を同席させようとしなかった。彼らにとってフィンは団長の寵愛を笠に着る、ただの愛玩具でしかなかったのだ。

 だが、フィンは焦らなかった。信頼は言葉ではなく、結果で勝ち取るものだ。彼はまず最も軽視されがちで、しかし最も重要な「兵站」の改革から着手した。

 フィンはまず、砦の食料庫と貯水槽を徹底的に調査した。そして前世の衛生管理の知識を総動員する。

「貯水槽は定期的に水を抜き、底に溜まった泥を浚渫してください。そして飲料水には、ごく微量の銀貨を数枚沈めておくんです。銀の力で、水の腐敗を遅らせることができます」

「食料庫の食糧は種類ごとに棚を分け、必ず古いものから使うように徹底してください。『先入れ先出し』です。それから、ネズミの糞尿は病気の元です。猫を数匹飼って、食料庫に放しましょう」

 フィンの指示は、この世界の人間にとっては奇妙に思えるものばかりだった。しかしゼイドの絶対的な支持を背景に、彼の改革案は次々と実行に移されていった。

 最初は半信半疑だった兵士たちも、すぐにその効果を実感することになる。今まで悩まされていた腹痛や食中毒が激減し、支給される食事の質も明らかに向上したのだ。特にフィンが考案した、乾燥野菜と干し肉を使った栄養バランスの良いスープは、「フィンスープ」と呼ばれ兵士たちの間で大評判となった。

 彼の功績は、それだけにとどまらない。負傷兵の治療法にも、フィンはメスを入れた。

「傷口の縫合に使う糸と針は、使用前に必ず煮沸消毒してください。それから負傷者の手当てをする前には、必ず石鹸で手を洗うこと。些細なことですが、これだけで化膿による死者を劇的に減らせます」

 近代的な衛生観念など、この世界には存在しない。フィンの提唱する「消毒」という概念は、軍医たちから猛反発を受けた。

「馬鹿な!傷口を水で洗うなど、治るものも治らなくなるわ!」

 しかし、フィンは諦めなかった。彼はゼイドに頼み、自分の管理下で治療を行う小さな隔離された治療棟を設置してもらった。そしてそこで自ら負傷兵の手当てを施した。結果は、一目瞭然だった。フィンの治療を受けた兵士は、誰一人として傷が化膿することなく驚異的な速さで回復していったのだ。

 この事実を前にしては、頑固な軍医たちも沈黙せざるを得なかった。

 フィンの功績は、瞬く間に砦中に知れ渡った。最初は彼を侮っていた騎士団の幹部たちも、次第にその有能さを認めざるを得なくなる。いつしか彼を見る目は、侮蔑から尊敬へと変わっていた。

 ゼイドはそんなフィンの活躍を、誇らしげに、そして少しだけ寂しげに見守っていた。

「お前は、本当にすごいな、フィン。もう、俺だけの鳥籠には収まりきらない」

 ある夜、ゼイドはフィンの髪を梳きながら、ぽつりとそうつぶやいた。

「俺は、どこへも行きませんよ。あなたの隣が、俺の居場所です」

 フィンがそう答えると、ゼイドは愛おしそうに目を細め、その額に優しい口づけを落とした。

「ああ、知っている。だが、お前が優秀すぎると、他の奴らもお前を欲しがるだろう。それが、俺は気に入らない」

 その言葉に、フィンは苦笑するしかなかった。この鬼神様の独占欲は、どうやら一生治りそうにない。

 だが、そんな彼が、フィンはたまらなく愛おしいと感じるようになっていた。
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