異世界転生した社畜、瀕死でオメガ覚醒。氷の鬼神な騎士団長に見初められ、執着溺愛ライフを送る

水凪しおん

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番外編「鬼神様の甘い嫉妬」

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 アレンが生まれて、一年が過ぎた。よちよちと歩き始めた息子は、屋敷中のアイドルだった。特に父親であるゼイドの溺愛ぶりは、とどまるところを知らない。

 しかし、最近のゼイドには一つ悩みがあった。

「……フィンは、最近俺よりアレンのことばかりだな」

 夜、寝室のベッドで、ゼイドは拗ねたように唇を尖らせて言った。その姿は国の英雄というより、恋人にかまってもらえない子供のようだ。

「当たり前でしょう?アレンはまだ赤ん坊なんですから、手がかかります」

 フィンは呆れながらも、その嫉妬が少し可愛く思えてくすりと笑った。

「だが、お前は俺の番だ。もっと俺にも構ってくれてもいいだろう」

 ゼイドはそう言うと、フィンの身体を背後から抱きしめその首筋に顔を埋めた。すん、とフィンの匂いを嗅ぎ、少しだけ安心したように息をつく。

「日中は、アレンがお前を独占している。だから、夜は俺だけのものだ」

 その声は甘く、そして強い独占欲を隠そうともしない。フィンはそんなゼイドに少し困りながらも、その腕の中に身を委ねた。

 事件が起きたのは、その数日後のことだった。

 その日、フィンはアレンを連れて王宮の庭を散歩していた。ゼイドは急な会議で留守にしている。穏やかな日差しの中、アレンは楽しそうに芝生の上をはいはいしていた。

 そこに、一人の若い騎士が通りかかった。彼は最近騎士団に配属されたばかりの、快活な青年だった。

「これは、フィン様と若様。こんにちは」

「こんにちは。いいお天気ですね」

 フィンがにこやかに挨拶を返すと、若い騎士はアレンの愛らしさに目を細めた。

「若様は、本当にかわいらしいですね。まるで、天使のようです」

 そう言って、彼はアレンの頭を優しく撫でた。アレンも人見知りをせず、きゃっきゃと声を上げて喜んでいる。その微笑ましい光景に、フィンも自然と笑顔になった。

 その、瞬間だった。

 どこからともなく、殺気にも似た冷たい空気が漂ってきた。フィンがはっとして顔を上げると、少し離れた場所に会議が終わったらしいゼイドが、氷のような表情で立っていた。

 彼の瑠璃色の瞳は、若い騎士がアレン──ではなく、フィンと親しげに話している一点にまっすぐに注がれていた。

 まずい。フィンは直感した。

「おい、貴様。誰の許可を得て、俺の妻に気安く話しかけているのだ?」

 地を這うような声に、若い騎士はびくりと肩を震わせ青ざめた顔でゼイドを見上げた。

「だ、団長閣下!も、申し訳ございません!俺はただ、若様がかわいらしくて……」

「言い訳は聞かぬ。俺の番に馴れ馴れしくした罪は重い。辺境の魔獣討伐任務、三ヶ月の単身赴任を命じる。不服か?」

「そ、そんな……!」

 若い騎士は絶望の表情を浮かべた。しかし鬼神の命令は絶対だ。彼は泣く泣くその場を走り去っていった。

 フィンは、そのあまりの理不尽さに呆れて言葉も出なかった。

「ゼイド様!いくらなんでも、あれはやりすぎです!彼はただ、アレンを褒めてくれただけで……」

「駄目だ。どんな理由があろうと、他の男がお前と親しく話すのは、俺が許さない」

 ゼイドは、まるで聞く耳を持たない。彼はフィンの元に大股で近づくとアレンを抱き上げ、そしてフィンの腰をぐいと引き寄せた。

「お前は、俺だけのものだということを、忘れたわけではあるまいな?」

 その瞳は、嫉妬の炎でぎらぎらと燃えている。息子相手ならまだしも、他の男がフィンに近づくことはたとえ挨拶程度であっても、彼には耐えられないのだ。

「忘れてませんよ……」

 フィンは深いため息をついた。この人の独占欲と嫉妬深さは、父親になっても全く変わらないらしい。

 その夜、ゼイドはまるでこれまでの鬱憤を晴らすかのように、激しくフィンを求めてきた。

「俺とアレン、どちらが大事なんだ」

 子供のような質問を、彼は真剣な顔で問いかけてくる。

「どちらも、同じくらい大事ですよ」

 フィンがそう答えると、ゼイドは少し不満そうな顔をしながらもフィンの唇を塞いだ。

「……ずるい答えだ。だが、今はそれで許してやる」

 愛する番と、愛する息子。その両方を手に入れた氷の鬼神の、甘くて厄介な嫉妬はこれからもずっと続いていくのだろう。

 フィンはそんな未来を想像し、愛おしさと少しの諦めと共に、ゼイドの腕の中で幸せな溜息をつくのだった。
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