9 / 14
第8話「反撃の狼煙」
しおりを挟む
旧北部離宮は、帝国の華やかな歴史から忘れ去られたように、静まり返っていた。しかし、その地下には、およそ似つかわしくない、最新鋭の研究施設が広がっていた。暁光団のアジトだ。ミカエルは部隊を離宮の周囲に待機させると、ただ一人、闇に紛れて施設内部への潜入を果たした。彼の研ぎ澄まされた五感と、軍で鍛え上げられた戦闘技術が、複雑な警備網をいとも容易く突破していく。
地下深く、最も厳重に警備された一室。ガラス張りの部屋の中央で、リオンは意識を取り戻した。身体は特殊な拘束具で椅子に固定され、頭には無数のケーブルが接続されている。彼の能力を、強制的に引き出そうというのだろう。
「目が覚めたかね、歌姫(ディーヴァ)」
部屋の外から、ねっとりとした声が聞こえた。そこに立っていたのは、暁光団のリーダーを名乗る、痩せぎすの男と、そして―――帝国の宰相だった。
「宰相閣下……!」
「久しいな、ミカエル部長の愛し子よ。いや、元気に育ったものだ。君のその稀有な才能は、我らが新しい帝国を築く上で、大いに役立ってもらう」
宰相は、ゆがんだ笑みを浮かべて言った。
「私の父も、私の夫も、帝国に全てを奪われた。先代皇帝……あの偽善者のせいで、私の家は没落し、路頭に迷ったのだ。この帝国への復讐こそが、我が悲願!」
リーダーの男が、憎しみに満ちた声で叫ぶ。彼の家は、かつて先代皇帝の政策によって、不正の罪を問われ、爵位を剥奪された貴族の末裔だった。逆恨みも甚だしい。
「君の能力で、帝国の防衛システムを無力化し、我らが開発したフェロモン兵器で、アルファ共を支配する。素晴らしい計画だと思わんかね?」
宰相が勝ち誇ったように言った、その時だった。
突如、施設の照明が明滅し、けたたましい警報が鳴り響いた。
「な、何事だ!」
「侵入者です! 警備システムが、次々と破られています!」
部下の報告に、宰相とリーダーの顔色が変わる。
次の瞬間、研究室の強化ガラスが、内側からの衝撃で凄まじい音を立てて砕け散った。ガラスの破片が舞う中、悠然と姿を現したのは、漆黒の戦闘服に身を包んだミカエルだった。その手には、特殊合金製のナイフが握られている。
「リオンッ!」
「ミカエルさん……!」
絶望の淵にいたリオンの目に、希望の光が宿る。ミカエルは、本当に助けに来てくれた。
「貴様、どうやってここに……!」
驚愕するリーダーを前に、ミカエルは冷たく言い放った。
「俺の番に、指一本でも触れた罪、その命で償ってもらう」
その言葉を皮切りに、ミカエルは獣のような速さで敵に襲いかかった。屈強な兵士たちが、彼の前では枯れ木を折るように、次々と無力化されていく。
しかし、敵の数も多い。宰相とリーダーは、兵士たちを盾にしながら、部屋の奥へと後退していく。
「ミカエルさん、気をつけて!」
椅子に拘束されたまま、リオンは叫んだ。このままでは、ミカエルが消耗してしまう。自分も、戦わなければ。
リオンは目を閉じ、意識を集中させた。頭に繋がれたケーブル。それは、彼の脳と、この施設のメインシステムを繋ぐ、インターフェースでもある。敵はそれを利用してリオンを操ろうとしたが、それは大きな間違いだった。
(僕の能力は、誰にも支配されない……!)
リオンは、自らの意思で、その類稀なる情報処理能力を解放した。膨大な情報が、彼の脳内を駆け巡る。施設のシステム構造、警備配置、動力源、その全てを、瞬時に把握する。
そして、彼は、システムの最も深い階層―――自爆装置の制御システムに、ハッキングを敢行した。
『……警告。当施設は、10分後に自動的に爆破されます。職員は、直ちに退避してください……』
無機質なアナウンスが、アジト全体に響き渡った。
「なっ……馬鹿な! システムが乗っ取られただと!?」
リーダーが絶叫する。宰相も、予想外の事態に狼狽を隠せない。
施設内が、大混乱に陥った。その隙を、ミカエルが見逃すはずがなかった。
彼は、混乱に乗じてリオンの元へと駆け寄ると、拘束具を一瞬で破壊し、彼をその腕に抱きしめた。
「よくやった、リオン。さすが、俺の番だ」
「ミカエルさんこそ、無茶しないでください……!」
短い再会を喜ぶ間もなく、ミカエルはリオンを背後に庇い、反撃の体勢を取った。
「さあ、第二ラウンドと行こうか」
ミカエルの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
一人は、帝国の誇る最強のアルファ。
もう一人は、世界最高の頭脳を持つオメガ。
最強の二人が、今、背中を合わせる。絶望的な状況は、反撃の狼煙によって、逆転の舞台へと変わった。帝国の闇を照らす光の反撃が、今、始まる。
地下深く、最も厳重に警備された一室。ガラス張りの部屋の中央で、リオンは意識を取り戻した。身体は特殊な拘束具で椅子に固定され、頭には無数のケーブルが接続されている。彼の能力を、強制的に引き出そうというのだろう。
「目が覚めたかね、歌姫(ディーヴァ)」
部屋の外から、ねっとりとした声が聞こえた。そこに立っていたのは、暁光団のリーダーを名乗る、痩せぎすの男と、そして―――帝国の宰相だった。
「宰相閣下……!」
「久しいな、ミカエル部長の愛し子よ。いや、元気に育ったものだ。君のその稀有な才能は、我らが新しい帝国を築く上で、大いに役立ってもらう」
宰相は、ゆがんだ笑みを浮かべて言った。
「私の父も、私の夫も、帝国に全てを奪われた。先代皇帝……あの偽善者のせいで、私の家は没落し、路頭に迷ったのだ。この帝国への復讐こそが、我が悲願!」
リーダーの男が、憎しみに満ちた声で叫ぶ。彼の家は、かつて先代皇帝の政策によって、不正の罪を問われ、爵位を剥奪された貴族の末裔だった。逆恨みも甚だしい。
「君の能力で、帝国の防衛システムを無力化し、我らが開発したフェロモン兵器で、アルファ共を支配する。素晴らしい計画だと思わんかね?」
宰相が勝ち誇ったように言った、その時だった。
突如、施設の照明が明滅し、けたたましい警報が鳴り響いた。
「な、何事だ!」
「侵入者です! 警備システムが、次々と破られています!」
部下の報告に、宰相とリーダーの顔色が変わる。
次の瞬間、研究室の強化ガラスが、内側からの衝撃で凄まじい音を立てて砕け散った。ガラスの破片が舞う中、悠然と姿を現したのは、漆黒の戦闘服に身を包んだミカエルだった。その手には、特殊合金製のナイフが握られている。
「リオンッ!」
「ミカエルさん……!」
絶望の淵にいたリオンの目に、希望の光が宿る。ミカエルは、本当に助けに来てくれた。
「貴様、どうやってここに……!」
驚愕するリーダーを前に、ミカエルは冷たく言い放った。
「俺の番に、指一本でも触れた罪、その命で償ってもらう」
その言葉を皮切りに、ミカエルは獣のような速さで敵に襲いかかった。屈強な兵士たちが、彼の前では枯れ木を折るように、次々と無力化されていく。
しかし、敵の数も多い。宰相とリーダーは、兵士たちを盾にしながら、部屋の奥へと後退していく。
「ミカエルさん、気をつけて!」
椅子に拘束されたまま、リオンは叫んだ。このままでは、ミカエルが消耗してしまう。自分も、戦わなければ。
リオンは目を閉じ、意識を集中させた。頭に繋がれたケーブル。それは、彼の脳と、この施設のメインシステムを繋ぐ、インターフェースでもある。敵はそれを利用してリオンを操ろうとしたが、それは大きな間違いだった。
(僕の能力は、誰にも支配されない……!)
リオンは、自らの意思で、その類稀なる情報処理能力を解放した。膨大な情報が、彼の脳内を駆け巡る。施設のシステム構造、警備配置、動力源、その全てを、瞬時に把握する。
そして、彼は、システムの最も深い階層―――自爆装置の制御システムに、ハッキングを敢行した。
『……警告。当施設は、10分後に自動的に爆破されます。職員は、直ちに退避してください……』
無機質なアナウンスが、アジト全体に響き渡った。
「なっ……馬鹿な! システムが乗っ取られただと!?」
リーダーが絶叫する。宰相も、予想外の事態に狼狽を隠せない。
施設内が、大混乱に陥った。その隙を、ミカエルが見逃すはずがなかった。
彼は、混乱に乗じてリオンの元へと駆け寄ると、拘束具を一瞬で破壊し、彼をその腕に抱きしめた。
「よくやった、リオン。さすが、俺の番だ」
「ミカエルさんこそ、無茶しないでください……!」
短い再会を喜ぶ間もなく、ミカエルはリオンを背後に庇い、反撃の体勢を取った。
「さあ、第二ラウンドと行こうか」
ミカエルの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
一人は、帝国の誇る最強のアルファ。
もう一人は、世界最高の頭脳を持つオメガ。
最強の二人が、今、背中を合わせる。絶望的な状況は、反撃の狼煙によって、逆転の舞台へと変わった。帝国の闇を照らす光の反撃が、今、始まる。
37
あなたにおすすめの小説
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
起きたらオメガバースの世界になっていました
さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。
しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる