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第10話「守るべきもののために」
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人間連合軍侵攻の知らせは、瞬く間に魔王領全土を駆け巡った。
しかし、領民である魔族たちの間に混乱や恐怖はほとんど見られなかった。
代わりに彼らの胸に燃え上がったのは、静かだが確固たる怒りの炎だった。
「人間どもめ、今更何の用だ!」
「我々の楽園を、荒らさせはしない!」
「ユキ様がもたらしてくれた、この豊かな生活を、絶対に守り抜くぞ!」
かつての彼らは、貧しさと無力感の中でただ耐え忍ぶだけの日々を送っていた。
だが、今は違う。
ユキがもたらしてくれた豊かさは彼らの生活だけでなく、心にも誇りと自信を与えていた。
そして何より、彼らには守るべき王と敬愛するもう一人の主がいた。
魔王城の玉座の間には、領内の主立った者たちが集結していた。
屈強なオークの族長、俊敏なゴブリンの頭目、魔術に長けたダークエルフの賢者。
誰もが、アシュトと、その隣に立つ俺に忠誠の眼差しを向けている。
「アシュト様、ユキ様。我らにお任せください。不埒な侵入者どもは、一匹残らず叩き返してみせます」
オークの族長が、巨大な戦斧を肩に担ぎながら力強く言った。
「そうだそうだ! ユキ様を傷つける奴らは、俺たちが許さねえ!」
ゴブリンたちも、口々に同意する。
彼らの言葉が、不安でいっぱいだった俺の心を温めてくれた。
「ありがとう、みんな」
俺が礼を言うと、アシュトが俺の肩をそっと抱き寄せた。
「聞いているな、ユキ。お前は、もはや一人ではない。お前を慕い、お前のために戦うことを誇りに思う者たちが、これだけいるのだ」
彼の言葉に、俺はこくりとうなずく。
そうだ、俺はもう無力な支援職プレイヤーじゃない。
この領地と、ここに住むみんなを守る領主代行なのだ。
「恐れることはない。お前は、私の隣で堂々としていればいい」
アシュトの静かな声には、絶対的な王としての自信が満ち溢れていた。
その存在が、何よりも俺を心強くさせた。
作戦会議が開かれ、迎撃の準備が着々と進められていく。
魔族たちは数では連合軍に劣るかもしれない。
しかし、ここは彼らの土地だ。地の利は完全にこちらにある。
さらに豊かな食料のおかげで、彼らの士気と体力は最高潮に達していた。
俺も、自分にできることをした。
兵士たちのためにステータスを一時的に向上させる特別な料理を大量に作り、傷ついた者たちのために最高級のポーションを準備した。
俺の【慈愛の奇跡】を込めたそれらは、市販のものとは比べ物にならないほどの効果を発揮するはずだ。
「ユキ様、ありがとうございます!」
「これで、百人力だ!」
兵士たちは、俺が作ったものをありがたそうに受け取っていく。
彼らの笑顔が、俺の力になった。
そして、ついに運命の日がやってきた。
人間連合軍は魔王城へと続く平原に陣を敷き、総攻撃の機会をうかがっていた。
対する俺たち魔王軍も、城門の前に布陣し静かに敵を待ち構える。
俺はアシュトと共に、城壁の最上階から戦場を見下ろしていた。
眼下に広がる、無数の人間の兵士たち。その先頭に、見覚えのある姿があった。
カイ。
彼の顔が見えた瞬間、心臓が嫌な音を立てて軋んだ。
トラウマが蘇りそうになる。
俺の手が、かすかに震えていることに気づいた。
「大丈夫だ」
隣のアシュトが、俺の震える手を大きな手で包み込んでくれた。
彼の体温が伝わってきて、少しだけ心が落ち着く。
「ユキ。もし、戦いたくないのなら城の奥にいてもいい。私が、全て片付けてくる」
「……いいえ」
俺は、首を横に振った。
「俺も、行きます。これは、俺自身の問題でもあるから。ちゃんと、自分の口で彼にさよならを言わなければならない」
もう、過去に怯えるのはやめだ。
俺は、アシュトの隣で自分の居場所を守る。
俺の決意を込めた瞳を見て、アシュトは満足そうにうなずいた。
「――ならば、行こうか。私の至宝を奪いに来た、愚かな虫たちを駆除しに」
彼の言葉を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。
人間連合軍が、ときの声を上げて突撃してくる。
それに対し、魔王軍は一糸乱れぬ動きで陣形を組み、冷静に迎え撃った。
戦いは、序盤から意外な展開を見せた。
数で勝るはずの連合軍が、魔王軍の組織的な連携の前に思うように前進できないのだ。
「な、なんだこいつら!? 魔族ってのは、もっと野蛮で、統率が取れていないんじゃなかったのか!?」
前線で指揮を執っていたカイが、焦りの声を上げる。
彼が知っている魔族は、貧しさと飢えで個々の力は強くても連携など皆無の烏合の衆だった。
しかし、今の魔王軍は違う。
ユキという共通の守るべき存在を得て、彼らはかつてないほどに団結していた。
「ユキ様のために!」
「俺たちの楽園は、俺たちが守る!」
その強固な意志が、彼らの力を何倍にも増幅させていた。
戦況が膠着する中、アシュトと俺はゆっくりと戦場の中心へと歩みを進めていく。
俺たちの登場に、両軍の兵士たちが一瞬動きを止めた。
そして、ついに。
俺は、カイと直接対峙することになった。
数ヶ月ぶりに間近で見る彼は以前の輝きを失い、その瞳には焦りと俺に対する醜い執着の色が浮かんでいた。
彼は俺の姿を認めると、信じられないものを見るような顔をした後、すぐに作り物の笑みを浮かべた。
「ユキ! 無事だったんだね! 心配したんだよ!」
その白々しい言葉に、俺の心はもう少しも揺れなかった。
しかし、領民である魔族たちの間に混乱や恐怖はほとんど見られなかった。
代わりに彼らの胸に燃え上がったのは、静かだが確固たる怒りの炎だった。
「人間どもめ、今更何の用だ!」
「我々の楽園を、荒らさせはしない!」
「ユキ様がもたらしてくれた、この豊かな生活を、絶対に守り抜くぞ!」
かつての彼らは、貧しさと無力感の中でただ耐え忍ぶだけの日々を送っていた。
だが、今は違う。
ユキがもたらしてくれた豊かさは彼らの生活だけでなく、心にも誇りと自信を与えていた。
そして何より、彼らには守るべき王と敬愛するもう一人の主がいた。
魔王城の玉座の間には、領内の主立った者たちが集結していた。
屈強なオークの族長、俊敏なゴブリンの頭目、魔術に長けたダークエルフの賢者。
誰もが、アシュトと、その隣に立つ俺に忠誠の眼差しを向けている。
「アシュト様、ユキ様。我らにお任せください。不埒な侵入者どもは、一匹残らず叩き返してみせます」
オークの族長が、巨大な戦斧を肩に担ぎながら力強く言った。
「そうだそうだ! ユキ様を傷つける奴らは、俺たちが許さねえ!」
ゴブリンたちも、口々に同意する。
彼らの言葉が、不安でいっぱいだった俺の心を温めてくれた。
「ありがとう、みんな」
俺が礼を言うと、アシュトが俺の肩をそっと抱き寄せた。
「聞いているな、ユキ。お前は、もはや一人ではない。お前を慕い、お前のために戦うことを誇りに思う者たちが、これだけいるのだ」
彼の言葉に、俺はこくりとうなずく。
そうだ、俺はもう無力な支援職プレイヤーじゃない。
この領地と、ここに住むみんなを守る領主代行なのだ。
「恐れることはない。お前は、私の隣で堂々としていればいい」
アシュトの静かな声には、絶対的な王としての自信が満ち溢れていた。
その存在が、何よりも俺を心強くさせた。
作戦会議が開かれ、迎撃の準備が着々と進められていく。
魔族たちは数では連合軍に劣るかもしれない。
しかし、ここは彼らの土地だ。地の利は完全にこちらにある。
さらに豊かな食料のおかげで、彼らの士気と体力は最高潮に達していた。
俺も、自分にできることをした。
兵士たちのためにステータスを一時的に向上させる特別な料理を大量に作り、傷ついた者たちのために最高級のポーションを準備した。
俺の【慈愛の奇跡】を込めたそれらは、市販のものとは比べ物にならないほどの効果を発揮するはずだ。
「ユキ様、ありがとうございます!」
「これで、百人力だ!」
兵士たちは、俺が作ったものをありがたそうに受け取っていく。
彼らの笑顔が、俺の力になった。
そして、ついに運命の日がやってきた。
人間連合軍は魔王城へと続く平原に陣を敷き、総攻撃の機会をうかがっていた。
対する俺たち魔王軍も、城門の前に布陣し静かに敵を待ち構える。
俺はアシュトと共に、城壁の最上階から戦場を見下ろしていた。
眼下に広がる、無数の人間の兵士たち。その先頭に、見覚えのある姿があった。
カイ。
彼の顔が見えた瞬間、心臓が嫌な音を立てて軋んだ。
トラウマが蘇りそうになる。
俺の手が、かすかに震えていることに気づいた。
「大丈夫だ」
隣のアシュトが、俺の震える手を大きな手で包み込んでくれた。
彼の体温が伝わってきて、少しだけ心が落ち着く。
「ユキ。もし、戦いたくないのなら城の奥にいてもいい。私が、全て片付けてくる」
「……いいえ」
俺は、首を横に振った。
「俺も、行きます。これは、俺自身の問題でもあるから。ちゃんと、自分の口で彼にさよならを言わなければならない」
もう、過去に怯えるのはやめだ。
俺は、アシュトの隣で自分の居場所を守る。
俺の決意を込めた瞳を見て、アシュトは満足そうにうなずいた。
「――ならば、行こうか。私の至宝を奪いに来た、愚かな虫たちを駆除しに」
彼の言葉を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。
人間連合軍が、ときの声を上げて突撃してくる。
それに対し、魔王軍は一糸乱れぬ動きで陣形を組み、冷静に迎え撃った。
戦いは、序盤から意外な展開を見せた。
数で勝るはずの連合軍が、魔王軍の組織的な連携の前に思うように前進できないのだ。
「な、なんだこいつら!? 魔族ってのは、もっと野蛮で、統率が取れていないんじゃなかったのか!?」
前線で指揮を執っていたカイが、焦りの声を上げる。
彼が知っている魔族は、貧しさと飢えで個々の力は強くても連携など皆無の烏合の衆だった。
しかし、今の魔王軍は違う。
ユキという共通の守るべき存在を得て、彼らはかつてないほどに団結していた。
「ユキ様のために!」
「俺たちの楽園は、俺たちが守る!」
その強固な意志が、彼らの力を何倍にも増幅させていた。
戦況が膠着する中、アシュトと俺はゆっくりと戦場の中心へと歩みを進めていく。
俺たちの登場に、両軍の兵士たちが一瞬動きを止めた。
そして、ついに。
俺は、カイと直接対峙することになった。
数ヶ月ぶりに間近で見る彼は以前の輝きを失い、その瞳には焦りと俺に対する醜い執着の色が浮かんでいた。
彼は俺の姿を認めると、信じられないものを見るような顔をした後、すぐに作り物の笑みを浮かべた。
「ユキ! 無事だったんだね! 心配したんだよ!」
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