VRMMOで追放された支援職、生贄にされた先で魔王様に拾われ世界一溺愛される

水凪しおん

文字の大きさ
12 / 15

第11話「決別と王の逆鱗」

しおりを挟む
「ユキ! 無事だったんだね! 心配したんだよ!」

 カイが、まるで感動の再会を果たしたかのように両手を広げてみせた。
 その芝居がかった態度に、俺の心は氷のように冷えていく。

「君がいないとダメなんだ。僕が悪かった。騙したことは、心から謝る。だから、帰ってきてくれ。僕の隣に」

 彼は、昔のように優しい声で甘い言葉をささやく。
 以前の俺なら、この言葉に心を揺さぶられ彼の胸に飛び込んでいたかもしれない。
 でも、今の俺は違う。

 俺は、隣に立つアシュトの手をぎゅっと握りしめた。
 彼の温かさが、俺に勇気をくれる。

「お断りします」

 俺は、はっきりと、そして毅然と言い放った。
 俺の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。

「俺の居場所は、ここです。アシュト様の隣です」

 俺の言葉に、カイの顔から笑顔が消えた。
 彼の瞳が、信じられないという色に見開かれる。

「……何を言ってるんだ、ユキ? 魔王に、何かされたのか? 洗脳でもされているのかい?」

「いいえ。俺は、自分の意志でここにいます。あなたは、俺を裏切って捨てた。でもアシュト様は、そんな俺を救い、居場所をくれました。どちらが俺にとって大切な人かなんて、言うまでもありません」

 俺の真っ直ぐな視線と揺るぎない言葉に、カイはついに本性を現した。
 彼の顔が、屈辱と怒りで醜く歪んでいく。

「……ふざけるなッ!」

 カイが、獣のような叫び声を上げた。

「お前は、ただの役立たずの支援職だったじゃないか! 俺が拾ってやったから、居場所があったんだろうが! それを、恩を仇で返す気か!」

「恩……? あなたが俺にしてくれたことって、ただ俺を利用して便利屋としてこき使っただけじゃないですか。最後の最後には、世界のためだなんて嘘をついて生贄にしようとした。そんなあなたに、何の恩があるっていうんですか」

 俺が冷ややかに事実を告げると、カイはぐうの音も出ないようだった。
 図星を突かれ、彼の怒りはさらに燃え上がる。

「うるさい! お前は俺の道具だ! 俺の言うことだけを聞いていればいいんだよ!」

 逆上したカイが剣を抜き、俺に向かって突進してきた。
 その動きは、もはや勇者のものではなくただの狂戦士のそれだった。

「ユキッ!」

 仲間だったはずのエレナやジンが悲鳴を上げる。
 だが、彼らはカイを止めることができない。

 俺は、迫り来るカイの姿をただ静かに見つめていた。
 恐怖はなかった。
 なぜなら、俺の隣には世界で一番頼もしい人がいるのだから。

 カイの剣が、俺に届く寸前。

「――私の至宝に、指一本触れるな」

 地を這うような、低く冷たい声が響き渡った。

 その瞬間、カイの体はまるで見えない壁に激突したかのように吹き飛ばされた。
 アシュトが、俺の前に立つ。
 彼の背中は、いつもよりずっと大きく見えた。

 アシュトの全身から、今まで感じたことのないほど禍々しく、そして強大な魔力が溢れ出していた。
 空は暗雲に覆われ、大地がびりびりと震える。
 絶対的な王が、その怒りを解放したのだ。

「貴様……よくも、私のユキをその汚らわしい欲望の目で見たな」

 アシュトの紫水晶の瞳は、怒りの炎で燃え上がっていた。
 その視線に射抜かれただけで、カイは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。

「ひっ……! な、なんだこの魔力は……!」

「貴様らが、彼にした仕打ちの数々。全て、許しがたい」

 アシュトは、ゆっくりとカイに歩み寄る。
 その一歩一歩が、まるで死刑執行の宣告のように戦場に重く響いた。

「だが、何よりも許せないのは」

 アシュトは、へたり込むカイの目の前で足を止め、その髪を鷲掴みにして無理やり顔を上げさせた。

「私のユキの、あの美しい心を、絶望の淵に突き落としたことだ」

「や、やめ……」

「貴様には、相応の罰を与えよう。ユキが味わった絶望の、万分の一にも満たないがな」

 アシュトが、カイの額に指を突きつける。
 その指先から、黒い稲妻のような魔力が迸った。

「ぎゃあああああああああっ!!」

 カイの絶叫が、戦場にこだまする。
 彼の体から勇者の証である聖なる力が急速に失われていくのが見えた。
 ステータス、スキル、称号。
 彼が今まで築き上げてきた全てが、アシュトの力によって無慈悲に剥奪されていく。

「やめろ! 私の力が……! 私の勇者の力がぁっ!」

「もはや、貴様にその資格はない」

 やがて魔力の奔流が収まった時、そこにいたのは全ての力を失い、ただのレベル1のプレイヤーに戻った哀れな男の姿だけだった。

 アシュトは、抜け殻のようになったカイをゴミのように投げ捨てると、今度は連合軍の兵士たちに向き直った。

「まだ、やるか? この男の戯言に乗り、私の楽園を荒らすというのなら容赦はせん」

 その圧倒的な威圧感の前に、人間連合軍の兵士たちは完全に戦意を喪失していた。
 彼らは武器を捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 ゴードン、エレナ、ジンもカイを見捨て、我先にと逃亡していった。
 彼らの間には、もはや仲間としての絆などひとかけらも残っていなかった。

 あっけない幕切れだった。

 戦いが終わった平原で、俺はアシュトの隣に立ち、逃げ惑う人間たちの背中をただ静かに見送っていた。
 これで、本当に終わったんだ。
 俺の過去との、決別。

 俺が顔を上げると、アシュトが心配そうな顔で俺を見つめていた。
 彼の纏う怒りのオーラは、すっかり消えている。

「……大丈夫か、ユキ」

「はい」

 俺は、彼の胸にそっと顔をうずめた。

「ありがとうございます、アシュト様。俺のために、怒ってくれて」

「当然だ。お前は、私の全てなのだから」

 アシュトは、優しく俺の頭を撫でてくれた。
 その温かい手に包まれながら、俺はもう二度とこの手を離さないと、心に強く誓ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

異世界転生した双子は今世でも双子で勇者側と悪魔側にわかれました

陽花紫
BL
異世界転生をした双子の兄弟は、今世でも双子であった。 しかし運命は二人を引き離し、一人は教会、もう一人は森へと捨てられた。 それぞれの場所で育った男たちは、やがて知ることとなる。 ここはBLゲームの中の世界であるのだということを。再会した双子は、どのようなエンディングを迎えるのであろうか。 小説家になろうにも掲載中です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

処理中です...