心を閉ざした元天才ピアニストのルームメイトの氷を、寮長の僕が絶対溶かしてみせる。

水凪しおん

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第14話: 壊れた心の告白

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 男はなおも何か言おうとしたが、晶が鬼のような形相で間に入ったことで、すごすごと仲間たちと去っていった。
 だが、もう遅かった。
 周囲の好奇と憐憫の入り混じった視線が、無数の針のように結に突き刺さる。
「雪村……」
 晶が声をかけるが、もう届いていなかった。結はふらりと体を揺らすと、人混みをかき分けるようにしてカフェから逃げ出した。
「雪村!」
 晶は後を追って店を飛び出す。結は一直線に寮へと向かっていた。その足取りは、今にも倒れてしまいそうなくらい、おぼつかない。
 302号室に駆け込むと、結はドアのすぐそばで床に崩れ落ちていた。
「はっ……ひゅっ……はっ、ぁ……」
 過呼吸。
 肩で必死に息をしようとしているが、うまく空気を吸い込めていない。その顔は真っ青で、見ているだけで胸が張り裂けそうだった。
「結! しっかりしろ!」
 晶は初めて、彼のことを苗字ではなく名前で呼んだ。
 彼のそばに駆け寄り、その背中を強く、しかし優しくさする。
「大丈夫だ、結。俺に合わせて、ゆっくり息をしろ。吸って……吐いて……」
 晶は必死に声をかけ続ける。自分の声が震えているのが分かった。
「結、息をしろ! 俺を見ろ!」
 その言葉に、結は虚ろな瞳で、ようやく晶の顔を見た。その瞳から、堰を切ったように大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
 それは、嵐の夜に見せた涙とは全く違う、魂の叫びのような涙だった。
「……ぁ、きら……っ」
 途切れ途切れに、結が晶の名前を呼ぶ。
「……弾けないんだ……ピアノが、もう……弾けない……っ」
 嗚咽と共に絞り出された言葉。
 それは、彼がずっと一人で抱え込んできた、最も重く、暗い秘密の告白だった。
 晶は何も言えず、ただ、泣きじゃくる結の体を強く抱きしめた。まるで、そうでもしないと、彼の心がバラバラに壊れてしまいそうだったから。
 大丈夫だ。もう一人じゃない。
 言葉には出さずに、ただただ、その温もりだけで伝えようとした。
 302号室には、結の悲痛な泣き声だけが、いつまでも響いていた。
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