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第15話: あの日のステージ
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どれくらいの時間が経っただろうか。結の嗚咽が少しずつ収まってきた頃、晶は彼をベッドに座らせ、温かいお茶を差し出した。
結は震える手でそれを受け取ると、ぽつり、ぽつりと、途切れ途切れに過去を語り始めた。
「……俺、小さい頃から、ピアノだけが全てだった」
神童と呼ばれ、将来を嘱望されていたこと。両親の期待を一身に背負い、ピアノ漬けの毎日を送っていたこと。それは彼にとって、喜びであり、同時に重圧でもあった。
問題のコンクールは、海外留学がかかった、彼にとって最も大事なステージだった。
「……周りは、敵だらけだった」
彼の才能を妬むライバルたちからの、執拗な嫌がらせが始まったのは、コンクールの数週間前からだったという。
靴に画鋲を入れられる。持ち物を隠される。そんな子供じみたものから、次第にエスカレートしていった。
「コンクールの直前……楽屋に置いてあった俺の楽譜が、ビリビリに破られてたんだ」
それは、彼がその日のために、何か月もかけて練習してきた曲だった。
「お前なんかが優勝できると思うなよ、って……陰で笑う声が聞こえた」
精神的に、完全に追い詰められていた。それでも、ステージに上がらなければならなかった。両親の顔、先生の顔、応援してくれる人たちの顔が、次々に浮かんでくる。
「みんなの期待に応えなきゃって……それしか、頭になかった」
満員の聴衆。降り注ぐスポットライト。目の前にある、大きなグランドピアノ。
彼はピアノの前に座った。
けれど、鍵盤に指を置いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
破られた楽譜、ライバルたちの嘲笑、期待の眼差しで自分を見る観客たち。その全てがごちゃ混ぜになって、彼に襲いかかってきた。
指が、動かない。一本も。
どんなに動かそうとしても、鉛のように重く、言うことを聞かない。
「……何も、弾けなかった」
時間だけが、無情に過ぎていく。会場のざわめきが、波のように彼を打ちのめす。
「みんなの期待を、裏切った……」
その罪悪感と、ステージの上で無様に立ち尽くしたという屈辱的な記憶。それが、今も呪いのように彼を縛り付け、ピアノから遠ざけていた。
語り終えた結の顔には、もう涙はなかった。ただ、全てを諦めきったような、深い虚無だけが浮かんでいた。
彼の痛ましい告白を聞き終えた晶は、かけるべき言葉が見つからず、ただ固く拳を握りしめていた。
結は震える手でそれを受け取ると、ぽつり、ぽつりと、途切れ途切れに過去を語り始めた。
「……俺、小さい頃から、ピアノだけが全てだった」
神童と呼ばれ、将来を嘱望されていたこと。両親の期待を一身に背負い、ピアノ漬けの毎日を送っていたこと。それは彼にとって、喜びであり、同時に重圧でもあった。
問題のコンクールは、海外留学がかかった、彼にとって最も大事なステージだった。
「……周りは、敵だらけだった」
彼の才能を妬むライバルたちからの、執拗な嫌がらせが始まったのは、コンクールの数週間前からだったという。
靴に画鋲を入れられる。持ち物を隠される。そんな子供じみたものから、次第にエスカレートしていった。
「コンクールの直前……楽屋に置いてあった俺の楽譜が、ビリビリに破られてたんだ」
それは、彼がその日のために、何か月もかけて練習してきた曲だった。
「お前なんかが優勝できると思うなよ、って……陰で笑う声が聞こえた」
精神的に、完全に追い詰められていた。それでも、ステージに上がらなければならなかった。両親の顔、先生の顔、応援してくれる人たちの顔が、次々に浮かんでくる。
「みんなの期待に応えなきゃって……それしか、頭になかった」
満員の聴衆。降り注ぐスポットライト。目の前にある、大きなグランドピアノ。
彼はピアノの前に座った。
けれど、鍵盤に指を置いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
破られた楽譜、ライバルたちの嘲笑、期待の眼差しで自分を見る観客たち。その全てがごちゃ混ぜになって、彼に襲いかかってきた。
指が、動かない。一本も。
どんなに動かそうとしても、鉛のように重く、言うことを聞かない。
「……何も、弾けなかった」
時間だけが、無情に過ぎていく。会場のざわめきが、波のように彼を打ちのめす。
「みんなの期待を、裏切った……」
その罪悪感と、ステージの上で無様に立ち尽くしたという屈辱的な記憶。それが、今も呪いのように彼を縛り付け、ピアノから遠ざけていた。
語り終えた結の顔には、もう涙はなかった。ただ、全てを諦めきったような、深い虚無だけが浮かんでいた。
彼の痛ましい告白を聞き終えた晶は、かけるべき言葉が見つからず、ただ固く拳を握りしめていた。
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