心を閉ざした元天才ピアニストのルームメイトの氷を、寮長の僕が絶対溶かしてみせる。

水凪しおん

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第17話: ふたりだけの同盟

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 互いの最も柔らかな、誰にも見せたことのない部分に触れた夜。
 二人の関係は、単なるルームメイトから、決定的に変わった。
 言葉にしなくても、隣にいるだけで互いの痛みがわかる。自分と同じように、見えない何かと戦っている存在。
 唯一の、理解者。
 その日から、302号室の空気は、まるで生まれ変わったかのように穏やかなものになった。
 結は、まだ人と積極的に関わろうとはしない。だが、晶の前でだけは、少しずつ表情が豊かになっていった。
 晶がくだらない冗談を言うと、ふっと口元を緩ませる。晶が課題に追われて唸っていると、呆れたような顔でヒントをくれる。
 それは、ほんの些細な変化だったが、晶にとっては、何物にも代えがたい宝物のように感じられた。
 結もまた、晶の変化を感じ取っていた。晶は、寮長としての完璧な笑顔ではなく、時には疲れた顔や、気の抜けた顔を、結の前でだけは見せるようになった。そのことが、結の心を不思議と安らがせた。
 ここは、仮面を脱いでもいい場所。
 302号室は、二人が世界の全てから身を守れる、唯一の聖域となった。

 ある晴れた日の午後、晶が部屋に戻ると、結が窓際でスケッチブックを広げていた。珍しいこともあるものだと、晶はそっとその後ろからのぞき込む。
 そこに描かれていたのは、鉛筆で描かれた、柔らかなタッチの風景画だった。窓から見える、学園の中庭。
「……上手いな、雪村」
 晶が感心して言うと、結はびくりと肩を震わせ、慌ててスケッチブックを閉じようとした。
「や、やめろ、見るな……!」
 顔を真っ赤にして抵抗する結の姿が、なんだか無性に愛おしくて、晶は思わず笑ってしまった。
「ははっ、ごめんごめん。でも、本当に綺麗だと思ったんだ。ピアノだけじゃなくて、絵も上手いんだな」
「……別に、上手くなんてない。ただの、暇つぶしだ」
 そっぽを向きながらも、その口元には、微かな、本当に微かな笑みが浮かんでいた。
 晶は、その笑顔を見れただけで、胸がいっぱいになった。
 この笑顔を、もっと見ていたい。この笑顔を、自分が守りたい。
 その時、晶は自分の心の中に芽生えた感情の正体に、はっきりと気づいてしまった。
 これは、友情や同情ではない。
 もっと特別で、温かくて、少しだけ切ない、恋という名前の感情なのだと。
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