「味がしない」と追放された僕の料理は、聖獣の力を覚醒させるチート能力でした。もふもふ達に溺愛されながら、世界一幸せなレストランを開きます

水凪しおん

文字の大きさ
8 / 24

第7話 増えるもふもふ家族と、小さな診療所

しおりを挟む
 リリが持ち帰った「森の聖人様」の噂は、村人たちの間に瞬く間に広まった。初めは半信半疑だった人々も、リリの母親がアルのくれたハーブティーでみるみる元気になったことで、その噂を信じるようになった。

 そして、最初の来訪者から数日後。村人たちが、恐る恐るという様子で、アルの住処を訪れるようになった。

「あ、あの……森の聖人様、でございますか?」

 最初にやってきたのは、一人の年老いた農夫だった。彼は腕の中に、ぐったりとした子ヤギを抱いていた。

「この子、もう何日も乳を飲まなくて……。村の獣医も、もうダメだと……。どうか、この子を助けてはいただけないでしょうか」

 アルは困惑した。自分はただの料理人であって、医者ではない。しかし、農夫の必死な目と、苦しそうに息をする子ヤギの姿を見過ごすことはできなかった。

「医者じゃないから、治せるかは分からないけど……。でも、元気が出るようなご飯なら、作ってあげられるかもしれない」

 アルは子ヤギの状態を注意深く観察した。体が冷え、胃腸が弱っているようだ。彼は、体を温め、消化に良いものをと考え、特別な薬膳スープを作ることにした。

 滋養強壮に効く根菜をすりおろし、温めたヤギの乳と混ぜ合わせる。そこに、フェンが採ってきてくれた、胃腸の働きを助けるという特殊な薬草をほんの少しだけ加えた。味付けはせず、素材の持つ自然な甘みと香りだけを活かしたスープだ。

 アルがそのスープを指につけて子ヤギの口元に運んでやると、初めは嫌がっていた子ヤギも、その優しい匂いに誘われて、ぺろりと舐めた。そして、まるで乾いた大地が水を吸うように、ごくごくとスープを飲み始めたのだ。

 スープを飲み干した子ヤギの体から、淡い光が放たれる。冷え切っていた体にはみるみる血の気が戻り、弱々しかった鳴き声は、元気な「メェー!」という声に変わった。

「お、おお……!立った!この子が自分の足で!」

 農夫は、奇跡を目の当たりにして涙を流して喜んだ。この出来事は、決定的なものとなった。

 噂は噂を呼び、アルの元には、病気のペットや家畜を連れた人々が次々と訪れるようになった。熱を出した犬には、解熱作用のある野草を使った冷たいジュレを。食欲のない猫には、匂いの強い魚を使ったリエットを。アルはそれぞれの症状に合わせ、知識と愛情を総動員して、特別な料理を振る舞った。

 すると、どうだろう。彼の料理を食べた動物たちは、まるで魔法にかかったかのように、たちまち元気を取り戻していくのだ。

 いつしか、アルの住処は「聖獣様のいる森の診療所」と呼ばれるようになり、人間も動物も、助けを求めて彼の元を訪れるようになった。彼は薬の代わりに料理を作り、患者(?)たちは皆、笑顔で帰っていく。

 最初は人間と深く関わることに戸惑いを覚えていたアルだった。王宮での辛い経験が、彼を臆病にさせていたのだ。しかし、村人たちの素朴な感謝の言葉や、元気になった動物たちの嬉しそうな姿に触れるうち、アルの心には温かい喜びが満ちていくのを感じていた。

「ありがとう、聖人様!」
「アルさんのおかげだ!」

 自分を「無能」と罵った王子とは違う、まっすぐな感謝の言葉。それは、アルが料理人として、ずっと求めていたものだった。

 今日も、アルの家の前には、もふもふした患者たちが列を作っている。フェンは少し呆れた顔をしながらも、訪れる人々を追い払うことはしない。グリフォンは上空から、診療所の平和を見守っている。

 アルは、この森で、新しい自分の居場所を見つけたのだ。人間と聖獣、そして動物たちが分け隔てなく集う、温かくて、美味しい匂いのする場所を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

銀狼様とのスローライフ

八百屋 成美
BL
激務に心身を病み、逃げるように田舎へ移り住んだ佐伯湊。 ある雨の日、彼は庭先で銀色に輝く巨大な狼を拾う。 それは、人間に追われ傷ついた神獣、リュカだった。 傷の手当てをきっかけに、湊の家に居座ることになったリュカ。 尊大で俺様な態度とは裏腹に、彼は湊が作ったご飯を美味しそうに食べ、寒い夜にはその温かい毛並みで湊を包み込んでくれる。 孤独だった湊の心は、リュカの無償の愛によって次第に満たされていく。 しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

スキル『農業』はゴミだと追放されたが、実は植物の遺伝子を書き換える神スキル【神農】でした。荒野を楽園に変えて異世界万博を開催します!

黒崎隼人
ファンタジー
「そのスキル『農業』?剣も魔法も使えないクズはいらん、失せろ!」 勇者召喚に巻き込まれて異世界へ転生した植物オタクの青年カイルは、地味なスキルを理由に王都を追放され、死の荒野へと捨てられた。 しかし、誰も知らなかったのだ。 彼のスキルが、ただの農業ではなく、植物の遺伝子さえ書き換え、不毛の大地を瞬く間に聖域に変える神の力【神農】であることを。 荒野を一瞬で緑豊かな楽園に変えたカイルは、伝説の魔獣フェンリルを餌付けして相棒にし、傷ついた亡国の美姫ソフィアを助け出し、自由気ままなスローライフを開始する。 やがて彼が育てた作物は「エリクサーより効く」と評判になり、その噂を聞きつけた商人によって、彼の領地で世界規模の祭典――『異世界万博』が開催されることに!? 一方、カイルを追放した王国は深刻な食糧難に陥り、没落の一途をたどっていた。 「今さら戻れと言われても、この野菜は全部、俺とソフィアのとフェンのものですから」 最強の農民が送る、世界を揺るがす大逆転・万博ファンタジー、ここに開幕!

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

処理中です...