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第8話 王子様の憂鬱と、届かぬ祈り
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アルが辺境の森で、人知れず多くの命を救い、穏やかな日々を送っている頃。王都では、暗い影が忍び寄っていた。
原因不明の病が、王宮を中心に流行り始めていたのだ。最初は軽い風邪のような症状だったものが、次第に悪化し、人々は活力を失い、寝たきりになっていく。高名な医者や薬師を国中から呼び寄せても、誰もその原因を突き止めることができなかった。
そして、その異変は、最も神聖な場所にも及んでいた。王家の守護聖獣として、代々王国を守ってきた神鳥(しんちょう)が、日に日に弱り始めていたのだ。太陽のように輝いていたはずの黄金の羽は色褪せ、その鳴き声はか細く、今にも消え入りそうだった。
守護聖獣の衰弱は、王の健康に直結する。神鳥の元気がなくなるのに呼応するように、国王の体調も悪化の一途をたどっていた。
「くそっ、なぜだ!なぜ誰も治せんのだ!」
玉座の間で、第一王子クラウスは苛立ちを隠さずに叫んだ。彼の前には、国中から集められた権威たちが、ただ頭を下げるばかりだ。
「申し訳ございません、王子殿下。神鳥様のお体には、毒も呪いも見当たりません。ただひたすらに、生命の力が失われていっているとしか……」
「言い訳は聞きたくない!父上が倒れ、神鳥様まで失えば、この国はどうなると思っている!何とかしろ!」
クラウスは、かつてないほどの焦りと恐怖に駆られていた。彼がどれだけ派手な宴を開こうとも、どれだけ贅沢な食事をしようとも、国の根幹を揺るがすこの事態の前では、全てが無意味だった。彼の舌は相変わらず強い刺激を求め続け、日々の食事はますます濃く、派手なものになっていたが、それが彼の心の焦燥感を紛らわすことはなかった。
彼は、国中の料理人にも命じた。神鳥様の食欲をそそる、最高の料理を作れ、と。しかし、どんな高級な食材を使おうと、どんなに腕を振るおうと、神鳥は差し出された餌に嘴をつけようともしなかった。
「役立たずめ!どいつもこいつも、役立たずばかりだ!」
クラウスは八つ当たりするように、料理人たちを罵倒する。
かつて、自分の気まぐれで、一人の見習い料理人を追放したことなど、クラウスはとうに忘却の彼方だった。素材の味を活かすなどという戯言を口にし、自分の機嫌を損ねた、あの顔も名前も思い出せない青年のことなど、彼の記憶には一片も残っていなかった。
もし、今アルがここにいたら。彼の作る、命の力に満ちた優しい料理があれば、神鳥も、国王も、救えたかもしれない。
しかし、その可能性に気づく者は、今の王宮には誰もいない。
クラウスは、日に日に衰弱していく父と神鳥を前に、ただ無力感に苛まれるばかりだった。国中が捧げる快癒への祈りも、天には届かない。王国は、指導者と守護者を同時に失うという、建国以来最大の危機に瀕していた。
そして、その危機を招いた遠因が、自分自身の愚かな行いにあることなど、王子クラウスは知る由もなかった。彼はただ、己のプライドと権威を守るためだけに、意味のない命令を叫び続ける。その声は、誰にも届かず、虚しく玉座の間に響き渡るだけだった。
原因不明の病が、王宮を中心に流行り始めていたのだ。最初は軽い風邪のような症状だったものが、次第に悪化し、人々は活力を失い、寝たきりになっていく。高名な医者や薬師を国中から呼び寄せても、誰もその原因を突き止めることができなかった。
そして、その異変は、最も神聖な場所にも及んでいた。王家の守護聖獣として、代々王国を守ってきた神鳥(しんちょう)が、日に日に弱り始めていたのだ。太陽のように輝いていたはずの黄金の羽は色褪せ、その鳴き声はか細く、今にも消え入りそうだった。
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「くそっ、なぜだ!なぜ誰も治せんのだ!」
玉座の間で、第一王子クラウスは苛立ちを隠さずに叫んだ。彼の前には、国中から集められた権威たちが、ただ頭を下げるばかりだ。
「申し訳ございません、王子殿下。神鳥様のお体には、毒も呪いも見当たりません。ただひたすらに、生命の力が失われていっているとしか……」
「言い訳は聞きたくない!父上が倒れ、神鳥様まで失えば、この国はどうなると思っている!何とかしろ!」
クラウスは、かつてないほどの焦りと恐怖に駆られていた。彼がどれだけ派手な宴を開こうとも、どれだけ贅沢な食事をしようとも、国の根幹を揺るがすこの事態の前では、全てが無意味だった。彼の舌は相変わらず強い刺激を求め続け、日々の食事はますます濃く、派手なものになっていたが、それが彼の心の焦燥感を紛らわすことはなかった。
彼は、国中の料理人にも命じた。神鳥様の食欲をそそる、最高の料理を作れ、と。しかし、どんな高級な食材を使おうと、どんなに腕を振るおうと、神鳥は差し出された餌に嘴をつけようともしなかった。
「役立たずめ!どいつもこいつも、役立たずばかりだ!」
クラウスは八つ当たりするように、料理人たちを罵倒する。
かつて、自分の気まぐれで、一人の見習い料理人を追放したことなど、クラウスはとうに忘却の彼方だった。素材の味を活かすなどという戯言を口にし、自分の機嫌を損ねた、あの顔も名前も思い出せない青年のことなど、彼の記憶には一片も残っていなかった。
もし、今アルがここにいたら。彼の作る、命の力に満ちた優しい料理があれば、神鳥も、国王も、救えたかもしれない。
しかし、その可能性に気づく者は、今の王宮には誰もいない。
クラウスは、日に日に衰弱していく父と神鳥を前に、ただ無力感に苛まれるばかりだった。国中が捧げる快癒への祈りも、天には届かない。王国は、指導者と守護者を同時に失うという、建国以来最大の危機に瀕していた。
そして、その危機を招いた遠因が、自分自身の愚かな行いにあることなど、王子クラウスは知る由もなかった。彼はただ、己のプライドと権威を守るためだけに、意味のない命令を叫び続ける。その声は、誰にも届かず、虚しく玉座の間に響き渡るだけだった。
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