「味がしない」と追放された僕の料理は、聖獣の力を覚醒させるチート能力でした。もふもふ達に溺愛されながら、世界一幸せなレストランを開きます

水凪しおん

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第18話 王子、初めての「味」

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 神鳥復活の知らせは、瞬く間に王宮中を駆け巡った。玉座の間で報告を待っていたクラウス王子は、その信じがたいニュースに、驚きと混乱の色を隠せない。

 そこへ、アルがフルコースの二皿目である「聖域のコンソメスープ」を携えて、静かに入室してきた。黄金色に輝く澄んだスープからは、言葉では表現できないほど、深く、優しい香りが立ち上っている。

「次は、あなた様の番です、王子」

 アルは、クラウスの前にスープの皿を置いた。クラウスは、目の前のスープと、アルの顔を交互に見つめる。その心には、嫉妬、疑念、そしてわずかな期待が入り混じっていた。

(こいつの料理が、神鳥様を……?馬鹿な、そんなことがあるはずがない)

 しかし、スープから立ち上る香りは、彼の麻痺したはずの嗅覚を確かに刺激していた。それは、今まで彼が求めてきた暴力的な香りとは全く違う、魂に直接語りかけてくるような、清らかな香りだった。

「……飲めと、言うのか」
「ええ。あなたの体と心を蝕む毒を、このスープが洗い流してくれるはずです」

 クラウスは、プライドと葛藤しながらも、震える手で銀のスプーンを握りしめた。そして、意を決したように、スープを一口、口に運んだ。

 液体が、彼の舌に触れた瞬間。

 クラウスの全身に、今まで感じたことのない衝撃が走った。

 それは、「味」だった。

 野菜の甘み、肉の旨味、ハーブの香り。それらが完璧な調和をもって、彼の舌の上で踊っている。何層にも重なった、複雑で、どこまでも深い味わい。

「あ……」

 クラウスの目から、一筋の涙が溢れ出た。

「味、が……する……」

 長年にわたって毒に蝕まれ、完全に麻痺していた彼の味覚が、アルのスープの持つ浄化の力によって、一瞬にして蘇ったのだ。それは、彼が生まれて初めて、本当の「味」というものを知った瞬間だった。

 次から次へと、涙が溢れて止まらない。彼は、自分が今まで口にしてきたものが、ただの塩と脂と香辛料の塊であり、本物の料理ではなかったことを、痛いほどに理解した。

 そして、同時に、自分が犯した過ちの大きさを悟った。

 こんなにも繊細で、こんなにも優しい味を作り出すこの青年を、自分は「味覚音痴」と罵り、死地へと追いやったのだ。自分が本当に失っていたのは、味覚だけではなかった。人を見る目、真実を見抜く心、その全てを、毒と共に失っていたのだ。

「う……ああ……っ」

 クラウスは、スプーンを取り落とし、両手で顔を覆った。嗚咽が、玉座の間に響き渡る。

「こんなに……こんなに美味しいものを、私は……私は、お前に……なんてことを……!」

 プライドも、王族としての威厳も、すべてが崩れ去った。彼は玉座から転がり落ちるように降りると、アルの前に膝をつき、額を床にこすりつけて泣きじゃくった。

「すまなかった……!アル君……!君を、この国を裏切ったのは、この私だ……!どうか、許してくれ……!」

 それは、心からの謝罪だった。一人の人間が、己の過ちを認め、許しを乞う、魂の叫びだった。

 アルは、そんなクラウスの姿を、静かに見下ろしていた。その目には、憎しみや侮蔑の色はなかった。ただ、深い憐憫と、そして、料理人としての確かな手応えだけが、そこにあった。

 一皿のスープが、王子の失われた味覚と、閉ざされた心を取り戻させた。アルの厨房での戦いは、今、完全なる勝利をもって、その幕を閉じようとしていた。
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