「味がしない」と追放された僕の料理は、聖獣の力を覚醒させるチート能力でした。もふもふ達に溺愛されながら、世界一幸せなレストランを開きます

水凪しおん

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第20話 英雄への報酬と、選んだ未来

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 国の危機を救ったアルは、一夜にして、ただの料理人から救国の英雄となった。

 完全に回復した国王と、過ちを悔い改め、心身ともに生まれ変わったクラウス王子は、アルを玉座の間に正式に招き、最大限の賛辞と感謝を述べた。

「アル殿。君がいなければ、この国は滅びていただろう。この大恩、言葉では言い尽くせぬ。……望むものを何でも言うが良い。望むままの地位を、望むままの富を、君に与えることを約束しよう」

 国王が、威厳に満ちた声でそう告げる。

 同席していた貴族たちは、固唾をのんでアルの答えを待った。宮廷料理長の座か、あるいは、一代限りの大貴族の地位か。国を救った英雄なのだ。それくらいの報酬は当然だと、誰もが思っていた。

 しかし、アルの口から出た言葉は、彼らの予想を遥かに超えるものだった。

「恐れながら、陛下。私には、地位も富も必要ありません」

 アルは、静かに、しかしはっきりとそう言った。

「私が望むのは、ただ一つ。……あの森で、私のかけがえのない家族たちと、また静かに暮らすことです」

 その場にいた誰もが、耳を疑った。栄華を極める王宮での生活を捨て、何もない辺境の森へ帰りたい、と。

 クラウス王子が、信じられないという顔でアルに歩み寄った。

「アル君……本気か?君ほどの腕があれば、この国の食文化を、いや、世界の料理界を変えることだってできるのだぞ!それを、こんなところで終わらせてしまうのか?」

 改心したクラウスは、アルの才能を心から認め、その力を国の発展のために使ってほしいと願っていた。

 アルは、そんなクラウスに、穏やかに微笑みかけた。

「僕にとっての幸せは、世界一の料理人になることじゃないんです。僕の作った料理を、『美味しい』って笑って食べてくれる人が、すぐそばにいてくれること。……僕にはもう、それを見つけましたから」

 アルの視線の先には、部屋の隅で控えていた人型のフェンがいた。フェンもまた、優しい眼差しでアルを見つめ返している。二人の間に流れる、誰にも邪魔することのできない、深く、穏やかな愛情。

 その姿を見て、クラウスも、国王も、すべてを悟った。

 彼が求めているのは、富でも名声でもない。愛する者と過ごす、穏やかで満ち足りた時間。それこそが、彼にとっての最高の報酬なのだと。

 国王は、深く頷いた。

「……分かった。君の意志、確かに受け取った。君の望みを尊重しよう。だが、何の礼も無しというわけにはいかぬ」

 国王は、こう宣言した。

「アル殿が暮らすあの森一帯を、王家直轄の『聖域』とし、何人たりともその平穏を乱すことを禁ずる。また、君たちが暮らす上で、何不自由ないよう、王家が全面的に支援することを約束しよう」

 それは、国王がアルに与えることのできる、最大限の配慮だった。

「ありがとうございます、陛下」

 アルは、深々と頭を下げた。

 こうして、救国の英雄アルは、人々からの喝采を浴びながらも、そのすべてを後にした。彼が選んだのは、華やかな王都の光ではなく、愛する家族の待つ、森の木漏れ日だったのだ。
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