22 / 24
第21話 ただいま、僕たちの家へ
しおりを挟む
王都での喧騒が、まるで遠い世界の出来事だったかのように、森は静かで、穏やかだった。
アルとフェン、そして仲間たちは、慣れ親しんだ森の道を通って、自分たちの家へと帰ってきた。
「……着いた」
目の前に広がる光景に、アルは小さく息をのんだ。
彼らが住んでいた洞窟は、そこにはなかった。代わりに、木の温もりを感じさせる、立派で可愛らしい一軒のロッジが建てられていたのだ。周りには、色とりどりの作物が実る豊かな畑が作られ、綺麗な水が引かれた井戸まであった。国王が約束した「支援」とは、このことだったらしい。
「すごい……僕たちの、家だ」
アルが感激していると、隣にいたフェンが、少し得意げに言った。
「ああ。俺たちの城だ」
二人が家の中に入ると、そこには、広々としたキッチンと、大きなテーブルのあるダイニング、そして暖炉のある温かいリビングが広がっていた。必要な家具や調理器具も、すべて揃えられている。
その日の夜、アルは早速、新しい家の、新しいキッチンに立った。
王宮でのような、国を救うための大げさな料理ではない。ただ、愛する人のために作る、心のこもった温かい夕食だ。
メニューは、森で採れた野菜をたっぷり使ったポトフと、焼きたてのパン。それは、アルが王宮を追放されるきっかけになった、因縁のメニューでもあった。しかし、今、彼の心には何のわだかまりもなかった。
ぐつぐつと煮える鍋の音。香ばしく焼き上がるパンの匂い。その一つ一つが、アルにとっては何よりも幸せな音楽であり、香りだった。
「できたよ、フェン」
テーブルに、湯気の立つポトフとパンが並べられる。人型になったフェンが、アルの向かいの席に座った。
「いただきます」
二人は、静かに食事を始めた。フェンは、アルが作ったポトフを一口食べると、満足そうに目を細めた。
「……美味い」
「よかった」
ただ、それだけの会話。しかし、その間には、どんな言葉よりも雄弁な愛情が満ちていた。
王宮での出来事、救国の英雄という称号、そんなものは、今の二人には関係なかった。ただ、こうして向かい合って、同じ食卓を囲む。この当たり前の日常こそが、彼らが戦い、手に入れた、かけがえのない宝物なのだ。
食事が終わり、暖炉の前に二人で並んで座る。パチパチと燃える炎が、二人の顔を優しく照らしていた。
アルは、フェンの肩にそっと頭をもたせかけた。
「……ただいま、フェン」
「……おかえり、アル」
フェンは、アルの体を優しく引き寄せると、その唇に、自分の唇を重ねた。それは、とても穏やかで、どこまでも優しい、愛に満ちたキスだった。
誰にも邪魔されることのない、二人だけの静かな夜。
追放された青年が見つけた、世界で一番幸せな食卓。アルとフェンの物語は、まだ始まったばかり。彼らの温かくて美味しい日々は、これからも、この森の家で、ずっと、ずっと続いていく。
アルとフェン、そして仲間たちは、慣れ親しんだ森の道を通って、自分たちの家へと帰ってきた。
「……着いた」
目の前に広がる光景に、アルは小さく息をのんだ。
彼らが住んでいた洞窟は、そこにはなかった。代わりに、木の温もりを感じさせる、立派で可愛らしい一軒のロッジが建てられていたのだ。周りには、色とりどりの作物が実る豊かな畑が作られ、綺麗な水が引かれた井戸まであった。国王が約束した「支援」とは、このことだったらしい。
「すごい……僕たちの、家だ」
アルが感激していると、隣にいたフェンが、少し得意げに言った。
「ああ。俺たちの城だ」
二人が家の中に入ると、そこには、広々としたキッチンと、大きなテーブルのあるダイニング、そして暖炉のある温かいリビングが広がっていた。必要な家具や調理器具も、すべて揃えられている。
その日の夜、アルは早速、新しい家の、新しいキッチンに立った。
王宮でのような、国を救うための大げさな料理ではない。ただ、愛する人のために作る、心のこもった温かい夕食だ。
メニューは、森で採れた野菜をたっぷり使ったポトフと、焼きたてのパン。それは、アルが王宮を追放されるきっかけになった、因縁のメニューでもあった。しかし、今、彼の心には何のわだかまりもなかった。
ぐつぐつと煮える鍋の音。香ばしく焼き上がるパンの匂い。その一つ一つが、アルにとっては何よりも幸せな音楽であり、香りだった。
「できたよ、フェン」
テーブルに、湯気の立つポトフとパンが並べられる。人型になったフェンが、アルの向かいの席に座った。
「いただきます」
二人は、静かに食事を始めた。フェンは、アルが作ったポトフを一口食べると、満足そうに目を細めた。
「……美味い」
「よかった」
ただ、それだけの会話。しかし、その間には、どんな言葉よりも雄弁な愛情が満ちていた。
王宮での出来事、救国の英雄という称号、そんなものは、今の二人には関係なかった。ただ、こうして向かい合って、同じ食卓を囲む。この当たり前の日常こそが、彼らが戦い、手に入れた、かけがえのない宝物なのだ。
食事が終わり、暖炉の前に二人で並んで座る。パチパチと燃える炎が、二人の顔を優しく照らしていた。
アルは、フェンの肩にそっと頭をもたせかけた。
「……ただいま、フェン」
「……おかえり、アル」
フェンは、アルの体を優しく引き寄せると、その唇に、自分の唇を重ねた。それは、とても穏やかで、どこまでも優しい、愛に満ちたキスだった。
誰にも邪魔されることのない、二人だけの静かな夜。
追放された青年が見つけた、世界で一番幸せな食卓。アルとフェンの物語は、まだ始まったばかり。彼らの温かくて美味しい日々は、これからも、この森の家で、ずっと、ずっと続いていく。
113
あなたにおすすめの小説
銀狼様とのスローライフ
八百屋 成美
BL
激務に心身を病み、逃げるように田舎へ移り住んだ佐伯湊。
ある雨の日、彼は庭先で銀色に輝く巨大な狼を拾う。
それは、人間に追われ傷ついた神獣、リュカだった。
傷の手当てをきっかけに、湊の家に居座ることになったリュカ。
尊大で俺様な態度とは裏腹に、彼は湊が作ったご飯を美味しそうに食べ、寒い夜にはその温かい毛並みで湊を包み込んでくれる。
孤独だった湊の心は、リュカの無償の愛によって次第に満たされていく。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
スキル『農業』はゴミだと追放されたが、実は植物の遺伝子を書き換える神スキル【神農】でした。荒野を楽園に変えて異世界万博を開催します!
黒崎隼人
ファンタジー
「そのスキル『農業』?剣も魔法も使えないクズはいらん、失せろ!」
勇者召喚に巻き込まれて異世界へ転生した植物オタクの青年カイルは、地味なスキルを理由に王都を追放され、死の荒野へと捨てられた。
しかし、誰も知らなかったのだ。
彼のスキルが、ただの農業ではなく、植物の遺伝子さえ書き換え、不毛の大地を瞬く間に聖域に変える神の力【神農】であることを。
荒野を一瞬で緑豊かな楽園に変えたカイルは、伝説の魔獣フェンリルを餌付けして相棒にし、傷ついた亡国の美姫ソフィアを助け出し、自由気ままなスローライフを開始する。
やがて彼が育てた作物は「エリクサーより効く」と評判になり、その噂を聞きつけた商人によって、彼の領地で世界規模の祭典――『異世界万博』が開催されることに!?
一方、カイルを追放した王国は深刻な食糧難に陥り、没落の一途をたどっていた。
「今さら戻れと言われても、この野菜は全部、俺とソフィアのとフェンのものですから」
最強の農民が送る、世界を揺るがす大逆転・万博ファンタジー、ここに開幕!
【完結】ただの狼です?神の使いです??
野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい?
司祭×白狼(人間の姿になります)
神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。
全15話+おまけ+番外編
!地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください!
番外編更新中です。土日に更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる