「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん

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第4話「魂を繋ぐ契約」

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 穏やかな日々が続く中で、俺は少しずつ月影城での暮らしに慣れていった。
 カイがくれる優しさを、以前より素直に受け止められるようになってきた自分がいることに気づく。
 それは、彼が俺の過去の傷に触れることなく、ただひたすらに辛抱強く寄り添ってくれたからだろう。

 ある満月の夜、カイは俺を城の最上階にある一室へと誘った。
 円形のその部屋は、壁がなく、代わりにガラスが張り巡されている。まるで空に浮かんでいるかのような不思議な空間だった。
 床から天井まで届く大きな窓からは、白夜の森を煌々と照らす満月が、手を伸ばせば届きそうなほど近くに見えた。

「綺麗な……」

 思わず息をのむ。村から見上げる月とは全く違う、神々しいまでの美しさだった。

「ここは『観月の間』。特別な儀式を行うための場所だ」

 隣に立ったカイが、静かな声で言った。
 彼の横顔は月光に照らされ、まるで彫刻のように美しかった。

「特別な、儀式?」

 俺が聞き返すと、カイは俺の方に向き直り、その赤い瞳でじっと俺を見つめた。

「ああ。『契約の儀』だ」

 その言葉に、俺は心臓が小さく跳ねるのを感じた。
 以前、彼が言っていた「番」になるための儀式。詳しいことは何も聞かされていなかったが、それが何か重大なものであることは、彼の真剣な表情から伝わってきた。
 カイは俺の手を取ると、部屋の中央に置かれた長椅子へと導いた。
 彼の手に引かれるまま隣に座ると、カイはゆっくりと口を開いた。

「俺とお前が真の『番』となるためには、互いの魂を深く結びつける必要がある。それが、契約の儀だ」
「魂を、結びつける……」
「そうだ。具体的に言えば……互いの体を交わらせ、魔力を循環させ、魂に互いの存在を刻み込む」

 体を、交わらせる。
 その言葉の意味を理解した瞬間、顔にカッと熱が集まるのを感じた。村の大人たちが、時折こそこそと口にしていた行為。
 俺にとっては、汚らわしくて、縁のない世界の言葉だった。
 俺の動揺を見て取ったのか、カイは諭すように続けた。

「怖がることはない。これは、神聖な儀式だ。番同士が互いを唯一の存在として認め、永遠の愛を誓うためのもの。お前の聖なる刻印を完全に覚醒させ、その力を正しく制御できるようになるためにも、必要なことなんだ」

 彼はそう言うと、俺の手を両手で優しく包み込んだ。

「だが、無理強いはしない。儀式には、お前の心からの同意が必要不可欠だ。お前がそれを望まないのなら、俺はいつまででも待つつもりでいる」

 その言葉に嘘がないことは、彼の真摯な瞳を見れば分かった。
 彼は本当に、俺の気持ちを尊重してくれている。その事実が、恐怖にこわばっていた心を少しだけ解きほぐしてくれた。
 俺はカイの手の中で、自分の手をぎゅっと握りしめた。
 カイと体を交わらせること。正直に言って、怖い。未知の行為への恐怖と、これまで自分を汚れたものだと思い込んできたことによる抵抗感が、胸の中で渦巻いていた。
 でも、それと同時に、カイともっと深く繋がりたい、という気持ちが芽生えているのも事実だった。
 彼は、俺を絶望の淵から救い出し、光を与えてくれた人だ。彼の唯一になりたい。彼の隣に、対等な存在として立ちたい。
 儀式を行えば、俺の聖なる刻印が覚醒する。そうすれば、俺もただ守られているだけの弱い存在ではなくなれるかもしれない。カイの力になれるかもしれない。

「……俺は」

 震える声で、俺は口を開いた。

「俺は、カイの番になりたい。あなたと、もっと深く繋がりたい」

 それは、紛れもない俺の本心だった。恐怖よりも、彼への想いが勝った瞬間だった。
 俺の言葉を聞いたカイは、赤い瞳をわずかに見開き、そして、これまで見たことのないほど優しい顔で微笑んだ。

「……アキ」

 彼は愛おしそうに俺の名前を呼ぶと、包んでいた俺の手に、そっと口づけを落とした。
 唇が触れた場所から、熱が全身に広がっていく。

「ありがとう。お前の気持ちが聞けて、嬉しい」

 カイは俺の体をゆっくりと引き寄せ、その胸に抱き寄せた。
 彼の逞しい腕の中で、俺は安堵のため息をつく。

「儀式は、次の満月の夜に行おう。それまでに、お互いのことをもっと知ろう。お前の心が完全に解き放たれるように、俺が導いてやる」
「……うん」

 カイの胸に顔をうずめたまま、俺は小さくうなずいた。

「アキ」

 カイは俺の髪を優しく撫でながら、囁くように言った。

「俺は、お前を愛している」

 愛している。
 その言葉は、まるで魔法のように、俺の心の奥深くにすとんと落ちてきた。
 生まれて初めて告げられた愛の言葉。それは、どんな高価な宝物よりも甘く、温かく、俺の全てを満たしていった。
 顔を上げると、カイの顔がすぐそこにあった。彼の赤い瞳が、熱っぽい光を宿して俺を見つめている。
 ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、俺は思わず目を閉じた。
 唇に、柔らかく温かいものが触れる。
 それは、とても優しくて、壊れ物を扱うかのような、初めての口づけだった。
 次の満月まで、あと一月。
 それは、俺がカイの本当の番になるまでの、甘く、そして少しだけ切ない猶予期間の始まりだった。
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