「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん

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第9話「覚醒する聖なる刻印」

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 翌朝、俺が目を覚ました時、体はまるで鉛のように重かった。
 昨夜の激しい交わりの記憶が蘇り、顔が熱くなる。体を動かそうとすると、腰を中心に全身が軋むように痛んだ。

「……目が覚めたか」

 すぐ隣から、愛おしげな声が聞こえた。
 見上げると、カイが俺の髪を優しく撫でながら、穏やかな表情でこちらを見つめていた。
 昨夜の獣のようなどう猛さは影を潜め、いつもの優しい彼に戻っている。

「カイ……」

 声が掠れていた。
 俺は体を起こそうとしたが、腰に走った鋭い痛みに顔をしかめる。

「無理に動くな。昨夜は随分と無茶をさせたからな」

 カイはそう言うと、俺の体を支えながらゆっくりと抱き起こしてくれた。
 彼の腕に身を預けると、不思議と痛みが和らぐような気がした。

「……体、大丈夫か」
「うん……。少し痛いけど、でも……」

 俺は言葉を濁した。痛い、けれど、それ以上に満たされた気持ちでいっぱいだった。
 カイと完全に一つになれたという事実が、体の痛みなど些細なものだと思わせてくれた。
 カイは俺の気持ちを察したように、優しく微笑んだ。

「そうか。……アキ、少し体の中を感じてみろ。何か変化があるはずだ」

 言われて、俺はそっと目を閉じ、自分の内側に意識を集中させてみた。
 すると、すぐに気づいた。体の奥深く、丹田のあたりに、温かく、そして力強いエネルギーの塊のようなものが渦巻いている。
 それはまるで、小さな太陽のようだった。

「これって……」
「お前の聖なる刻印が、完全に覚醒した証だ。それが、お前の魔力の源となる」

 カイはそう説明すると、俺の手を取り、彼の胸に当てさせた。

「今度は、俺の方を感じてみろ」

 言われるがままに、彼の体温を感じる。
 すると、彼の体内にも、俺と同じような、しかし比較にならないほど強大で荒々しいエネルギーが渦巻いているのが分かった。
 だが、その奔流の中心に、俺の魔力と同じ性質を持つ、穏やかで温かい流れが存在していた。
 それは、荒れ狂う嵐の中にある、凪いだ海のようだった。

「分かるか? お前の魔力が、俺の中で俺の力を中和し、安定させてくれている。逆もまた然りだ。俺の魔力がお前の魂を守り、その力を正しく制御する助けとなる。……これで、俺たちは名実ともに『番』となったわけだ」

 魂が、本当の意味で繋がった。もう、互いの存在なしでは生きていけない。
 その事実が、たまらない幸福感となって胸に広がった。
 俺はカイの胸に顔をうずめ、その温もりを確かめるようにすり寄った。

「ありがとう、カイ。俺を、あなたの番にしてくれて」
「礼を言うのは俺の方だ。俺の運命になってくれて、ありがとう、アキ」

 カイは俺を強く抱きしめ、額に優しい口づけを落としてくれた。

 その日から、俺の生活はまた少し変わった。
 一番の変化は、魔力が使えるようになったことだ。最初は、指先に小さな光を灯すことくらいしかできなかった。
 けれど、カイの指導のもとで練習を繰り返すうちに、少しずつ、様々なことができるようになっていった。
 軽いものを宙に浮かせたり、水を生み出したり。カイに言わせれば、俺の魔力は「生成」と「治癒」の属性に優れているらしい。
 ある日、俺が練習中に誤って指を切ってしまった時、カイが「自分の魔力で治してみろ」と言った。
 言われるがままに、傷口に手をかざし、治れ、と強く念じる。
 すると、聖なる刻印のある場所が温かくなり、そこから魔力が腕を伝って傷口に集まっていくのが分かった。
 淡い光が傷を包み込み、光が消えた時には、傷は跡形もなく消えていた。

「すごい……!」

 自分の力に、俺は目を見開いた。

「お前の治癒能力は、極めて強力だ。俺がこれまで見てきた中でも随一だろう」

 カイは満足そうにうなずく。

「これなら、俺が多少の怪我を負っても、お前がすぐに治してくれるな」
「カイが怪我なんてするの?」

 絶対的な強さを持つ彼が、傷つく姿など想像もできなかった。

「油断は禁物だ。それに、お前という弱点ができたからな」

 カイはそう言うと、悪戯っぽく笑い、俺の腰を抱き寄せて唇を奪った。
 番になってからというもの、彼は以前にも増して独占欲をあらわにするようになり、少しでも隙があればこうして体に触れてきたり、甘い言葉を囁いたりするようになった。
 その度に俺は顔を真っ赤にしていたが、そんな反応を楽しんでいる節もある。

 ただ、守られるだけの存在だった俺が、力を手に入れた。
 それは、大きな自信に繋がった。もちろん、カイの強さには到底及ばない。
 けれど、いつか彼の隣に立ち、彼を支えられる存在になりたい。その想いは、日ごとに強くなっていった。
 カイもまた、俺が力を手に入れたことを心から喜んでくれているようだった。彼は俺を一人の対等なパートナーとして扱い、森の統治に関わる話をしてくれることもあった。
 穏やかで、満ち足りた日々。
 俺は、この幸せが永遠に続くものだと、この時は信じて疑わなかった。
 しかし、聖なる刻印の覚醒は、俺たちに新たな力を与えると同時に、招かれざる客を呼び寄せるきっかけにもなることを、まだ知らなかった。
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