「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

第8話「魂の交歓」

　カイの体が、ゆっくりと俺の上に覆いかぶさってきた。
　獣の本能が色濃く浮かび上がった赤い瞳は、飢えた捕食者のようにギラギラと輝き、俺の全てを捕らえて離さない。
　彼の体重がずっしりとのしかかり、もうどこにも逃げられないのだと悟る。
　いや、逃げたいなどとは微塵も思わなかった。

「アキ……」

　熱に浮かされたような声で俺の名前を呼びながら、カイは俺の首筋に顔をうずめた。
　そして、まるでその匂いを確かめるかのように、深く息を吸い込む。
　ぞくり、と背筋が震えた。彼の唇が俺の肌に触れ、ちりちりと熱を帯びた感触が走る。

「ん……っ」

　彼の舌が耳朶を舐め上げた瞬間、びくりと体が跳ねた。
　脳の芯が痺れるような、未知の快感。俺はたまらず、シーツを強く握りしめた。

「良い声だ。もっと聞かせろ」

　カイは囁くと、今度は俺の唇を塞いだ。
　それは今までのような優しい口づけではなく、全てを奪い去るかのような、激しく貪欲なものだった。
　角度を変え、何度も深く啄まれる。彼の舌が口内を荒らし、俺はなすすべもなくそれを受け入れるしかなかった。
　息が苦しい。頭が真っ白になる。彼の唾液と自分の唾液が混じり合い、くちゅ、と卑猥な水音が響いた。

　唇が離れた時、俺は完全にカイのペースに呑まれていた。
　荒い息を繰り返す俺の様子を、カイは満足そうに見下ろしている。
　彼の大きな手が、俺の体をゆっくりと愛撫し始めた。白い衣装は既にはだけさせられ、俺の体は彼の前に無防備に晒されている。
　その指が、胸の突起に触れた。

「ひっ……！？」

　思わず声が漏れる。指先でころころと弄ばれ、きゅっと硬くなる。
　そこをさらに、親指と人差し指でつまむように刺激され、俺は弓なりに体をしならせた。

「こ、こんなとこ……っ、やだ……！」
「嫌か？　だが、体は正直だな。こんなに可愛らしく硬くなっている」

　カイは意地悪く笑いながら、執拗にそこを攻め続けた。
　快感と羞恥で、涙が滲む。彼の指が離れたかと思うと、今度は生温かい舌がそこに触れた。
　吸い付かれ、歯で軽く噛まれる。その度に、腹の底から突き上げるような、強烈な快感が俺を襲った。

「あ……あっ、ん、ぅ……！」

　もう、まともな声が出せない。完全に理性が麻痺していくのが分かった。

　カイの愛撫は、徐々に体の下の方へと降りていく。
　彼の指が、まだ誰にも触れられたことのない、体の中心にある秘めやかな場所に触れた。

「んんっ……！」

　びくん、と腰が大きく跳ねる。
　カイは躊躇なく、そこをゆっくりと指でなぞり始めた。経験したことのない刺激に、俺はただ喘ぐことしかできない。

「アキ。力を抜け。……これから、お前の中に俺を入れる」

　彼の低い声が、耳元で響く。
　俺はこくりとうなずくが、緊張で体に力が入ってしまう。

「大丈夫だ。痛くしない」

　カイはそう言うと、何かを取り出し、それを自身の指と俺の後ろの入り口にたっぷりと塗りつけた。
　それは、ひんやりとしたゼリーのようなもので、甘い花の香りがした。
　彼の指が、ゆっくりとそこを解きほぐすように侵入してくる。最初は一本、そして二本。
　異物が体の中に入ってくる感覚に、思わず眉をひそめた。

「……っ、ぅ」
「苦しいか」
「だい、じょうぶ……」

　俺が答えると、カイはさらに指を増やし、内部を広げるようにゆっくりと動かし始めた。
　時折、内壁の敏感な部分をわざとらしく擦られ、俺はくぐもった声を上げた。
　十分にそこが解されたと判断したのか、カイは指を抜き取ると、今度は自身の漲った熱の塊を、ゆっくりと入り口に押し当てた。

「……っ、おっきい……」

　想像を絶する大きさと熱さに、恐怖がこみ上げてくる。
　俺が身を強張らせたのを察し、カイは俺の額に口づけを落とした。

「リラックスしろ、アキ。俺を感じるんだ」

　諭すような声に、俺はゆっくりと深呼吸をする。
　カイを信じよう。彼に、全てを委ねよう。
　俺が体の力を抜いた瞬間、カイのそれが、ずぶりと音を立てて俺の体内に侵入してきた。

「……いっ……！」

　引き裂かれるような痛み。思わず涙が溢れ、俺はカイの背中に爪を立てた。

「すまない……っ、だが、すぐに気持ちよくなる」

　カイは俺をなだめるように、何度も口づけを繰り返しながら、ゆっくりと腰を動かし始めた。
　最初は痛みが勝っていたが、彼の動きに合わせて、内壁の敏感な部分が何度も擦られるうちに、痛みが徐々に快感へと変わっていくのを感じた。

「ん……ぁ、ふ……っ、ぁ……」
「そうだ、アキ……良い顔だ……」

　腰を揺らす動きが、次第に大きく、そして速くなっていく。
　寝台がぎしぎしと軋み、俺たちの肌がぶつかり合う生々しい音が部屋に響いた。

「カイ……っ、カイ……！」

　俺は彼の名前を、何度も、何度も呼んだ。
　それに応えるように、カイはさらに激しく腰を突き上げる。

「アキ、アキ……俺だけの、アキ……！」

　その時、俺の肩甲骨にある聖なる刻印が、カッと熱を持った。
　それに呼応するように、カイの体からも膨大な魔力が溢れ出し、俺の体の中へと流れ込んでくる。
　熱い。体が内側から燃えてしまうようだ。

「ああ……っ！」

　カイが、俺の奥深くに、自身の最も硬い部分を強く押し付けた。
　その瞬間、脳が真っ白になり、俺の体はけいれんするように大きく跳ねた。
　腹の底から熱いものがこみ上げてきて、俺は初めての絶頂を迎えた。
　それとほぼ同時に、カイもまた、獣のような低い唸り声を上げ、俺の体内に自身の全てを注ぎ込んだ。

　儀式は、まだ終わらない。
　魂が完全に結びつくまで、俺たちは何度も、何度も体を重ねた。
　月が空の最も高い位置に昇り、そして西へと傾くまで、俺たちは互いを求め続けた。
　それは、ただの情欲的な交わりではなかった。カイの魔力が俺の中に流れ込み、俺の魔力がカイへと流れ込む。
　互いの魂が溶け合い、一つになっていくのが分かった。聖なる刻印が、喜びに打ち震えるように熱く脈打っていた。
　遠のく意識の中、俺はカイの赤い瞳に見つめられていた。その瞳には、完全な所有の証と、果てしない愛情の色が浮かんでいた。

「お前は、完全に俺のものだ」

　その言葉を最後に、俺の意識は深い満足感と共に、闇の中へと沈んでいった。