「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす

水凪しおん

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第7話「満月の誓い」

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 悪夢を見た夜から数日後、ついに契約の儀を行う満月の夜がやってきた。
 昼間のうちから、城の中はどこか厳かで、静かな緊張感に包まれているようだった。
 カイは儀式の準備があると言って、自室にこもっていた。
 一人残された俺は、言いようのないそわそわとした気持ちを抱えたまま、窓の外を眺めて時間を過ごした。

 日が落ち、空が深い藍色に染まる頃、侍女が俺の部屋を訪れた。
 彼女たちは無言のまま、俺を湯浴みさせ、髪に香油をすり込み、そして純白の、絹でできたゆったりとした衣装に着替えさせた。
 それはまるで、花嫁衣裳のようだった。鏡に映った自分の姿は、村にいた頃とはまるで別人のように見えて、どこか落ち着かなかった。
 全ての準備が整うと、侍女たちは深々と頭を下げ、部屋を出て行った。
 入れ替わるようにして、カイが姿を現した。
 彼もまた、儀式用の衣装を身にまとっていた。銀糸で狼の紋様が刺繍された黒い衣は、彼の王者の風格を一層際立たせている。
 普段は無造作に下ろされている銀の髪は、後ろで一本にまとめられていた。その姿は、神々しいほどに美しかった。

「アキ」

 カイは俺の名前を呼ぶと、ゆっくりと歩み寄り、俺の前に跪いた。

「えっ、カイ!?」

 王である彼が膝をつくなど、考えられないことだった。
 俺が慌てて彼を立たせようとすると、カイはそれを制するように俺の手を取った。

「これは、誓いだ」

 彼はそう言うと、俺の手の甲に、敬虔な祈りを捧げるかのように口づけを落とした。

「これより、俺の全てを懸けてお前を守り、愛し、お前だけを生涯の番とすることを、月に誓う」

 真摯な赤い瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。その瞳に偽りは微塵も感じられなかった。
 彼は、この森を統べる絶対的な王であると同時に、今この瞬間、ただ一人の男として、俺に愛を誓ってくれていた。
 胸が熱くなる。込み上げてくる感情に、言葉が出なかった。俺はただ、こくりとうなずくことしかできない。
 俺の反応に、カイは満足そうに微笑むと、静かに立ち上がった。

「行こう。観月の間へ」

 カイに手を引かれ、俺たちはあのガラス張りの部屋へと向かった。
 観月の間は、昼間とは全く違う様相を見せていた。床には数えきれないほどの蝋燭が灯され、部屋全体が幻想的な光に満たされている。
 そして、ガラスの向こうには、今宵の主役である満月が、白銀の光を放って煌々と輝いていた。
 部屋の中央には、天蓋付きの大きな寝台が設えられている。その周りには、見たこともないような魔術的な文様が描かれ、淡い光を放っていた。

「綺麗……」

 思わず呟くと、カイは俺の肩を抱き寄せた。

「今宵、月は我々の証人となる」

 彼は俺を寝台へと導くと、二人でそこに腰掛けた。
 ガラスの天井の向こう、満月がまるで俺たちを見下ろしているかのようだ。
 緊張で、心臓が早鐘のように鳴っている。カイに繋がれた手は、汗でじっとりと湿っていた。
 そんな俺の様子に気づいたのか、カイは繋いだ手に力を込めた。

「怖いか」
「……少し。でも、それよりも……嬉しい」

 俺は正直な気持ちを伝えた。

「カイの、本当の番になれるんだって思ったら、嬉しい」
「アキ……」

 カイは愛おしげに俺の名前を呼ぶと、空いている方の手で俺の頬を包み込んだ。

「俺もだ。この日を、どれほど待ち望んだことか」

 彼の赤い瞳には、抑えきれないほどの情欲と、深い愛情が炎のように燃え盛っていた。
 その熱にあてられて、俺の体も熱を帯びていく。

「アキ。儀式が始まれば、俺は獣としての本能を解放する。人の姿は保つが、その力も、欲も、普段の比ではない。……お前を、激しく求めてしまうだろう。それでも、俺を受け入れてくれるか」

 それは、最後の確認だった。
 獣の本能を解放した彼が、どれほどのものなのか、俺には想像もつかない。
 けれど、もう迷いはなかった。

「受け入れる。あなたの全てを、俺にください」

 俺がそう答えると、カイの口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。

「……良い返事だ」

 彼はそう言うと、俺の頬を包んでいた手を滑らせ、白い衣装の合わせ目に指をかけた。
 そして、ゆっくりと、ためらうように、その衣をはだけさせていく。
 ひやりとした夜気が素肌に触れる。俺は恥ずかしさに身を縮こまらせたが、カイの視線から逃れることはできなかった。
 彼の赤い瞳が、まるで獲物を品定めするかのように、俺の体を舐めるように見つめる。
 やがて、左の肩甲骨にある聖なる刻印が、月光の下に晒された。
 それを見た瞬間、カイの瞳の色が、ぐっと深くなった。
 彼の喉が、グルル、と獣のように鳴る。

「ああ……なんと美しい。これこそが、俺が求め続けた魂の輝き……」

 カイは、まるで宝石に触れるかのように、その刻印にそっと指を這わせた。
 彼の指が触れた場所から、電気が走ったような快感が全身を貫く。

「んっ……!」

 思わず甘い声が漏れた。

「さあ、始めようか。アキ」

 カイはうっとりとした表情で囁くと、俺の体を寝台の上にゆっくりと押し倒した。
 ガラスの天井の向こう、満月が白銀の光を降り注ぐ。床に描かれた魔術の文様が、それに呼応するように、一層強く輝き始めた。
 これから始まる、魂の交歓。
 俺はカイの燃えるような赤い瞳に見つめられながら、静かにその時を待っていた。
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