不吉な『影』の力で追放された僕、流れ着いた砂漠の国では『聖なる天蓋』と呼ばれ、若き王に『我が国の至宝だ』と溺愛されています

水凪しおん

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第2話「砂塵の国のキャラバン」

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 追放されてから、何日が過ぎただろうか。

 握りしめていた金貨はとうの昔に宿代とわずかな食料に消え、僕は完全に無一文になっていた。雨風をしのげる場所もなく、空腹で倒れそうになりながら、ただひたすら南へと歩き続けていた。

 なぜ南だったのかはわからない。ただ、僕を虐げた故郷から一歩でも遠く離れたかった。冷たい雨が降りしきる北の国ではなく、暖かい場所へ行きたかったのかもしれない。

 意識が朦朧とし、足がもつれて道端に倒れ込んだ時だった。

「おい、大丈夫か、坊主!」

 地響きのような音と共に、しゃがれた声が頭上から降ってきた。ゆっくりと顔を上げると、大きな駱駝にまたがった、日に焼けた商人風の男が心配そうに僕を見下ろしていた。彼の背後には、同じような駱駝が何頭も連なり、荷物を満載した荷車を引いている。旅の商隊だった。

「……大丈夫……です」

 かすれた声で答えるのがやっとだった。だが、僕の体は正直で、立ち上がろうとしても膝が笑って力が入らない。

 男は駱駝からひらりと飛び降りると、「大丈夫なもんか」と呆れたように笑い、革袋を僕に差し出した。

「ほら、水だ。ゆっくり飲め」

 差し出された水は、乾ききった喉に命の水のように染み渡った。

「俺は隊商頭のガシムだ。見ての通り、旅の商人さ。坊主はこんなところで一人で何をしてるんだ?」

「……ノア、と、言います。……家を出て、行く宛てが……なくて」

 事情を詳しく話す気力はなかったが、ガシムさんは僕のやつれた姿を見て何かを察したようだった。

「そうかい。まあ、人には色々あるもんだ。このままじゃ野垂れ死ぬだけだぞ。よかったら、俺たちの目的地まで一緒に行くか?もちろん、タダでとは言わん。荷物の積み下ろしぐらいは手伝ってもらうがな」

 その提案は、地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸のように思えた。僕は何度も頷き、感謝の言葉を口にした。

 ガシムさんの商隊に拾われてから、僕の生活は一変した。

 最初は他の商人たちから警戒の目を向けられた。素性も知れない、汚れた身なりの若者だ。無理もない。僕は言われた通り、毎朝誰よりも早く起きて荷物の整理を手伝い、夜は遅くまで駱駝の世話をした。口数少なく、黙々と働く僕の姿に、彼らも少しずつ警戒を解いていった。

「ノアは真面目だな」

「大人しいけど、優しい子だよ」

 食事の輪に加えてもらえたり、他愛ない冗談を言って笑わせてくれたり。虐げられることしかなかった僕にとって、それは初めて経験する人の温かさだった。

 彼らが目指しているのは、「バシラ」という砂漠の国だという。

「バシラはな、太陽神の寵愛を受けすぎた国なのさ」

 ある夜、焚き火を囲みながら、ガシムさんが教えてくれた。

「空には雲ひとつなく、一年中太陽がぎらぎらと照りつけている。そのせいで日中の暑さは尋常じゃない。まともに外を歩けるのは、朝と夕方のほんのわずかな時間だけ。ほとんどの民は、日が高いうちは家や日陰で息を潜めてるしかねえのさ」

 強すぎる日差しが、人々の活動を著しく制限する過酷な土地。

 その話を聞いた時、僕の胸にちくりと小さな痛みが走った。光が強すぎることが、苦しみになる世界がある。僕が忌み嫌われ、追放される原因となったこの「影」の力が、もしかしたら、そんな場所では何かの役に立つのではないだろうか。

 例えば、日差しを遮る、大きな日陰を作ることができたら……。

 そんな考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。馬鹿なことを考えるな。この力は不吉な力だ。人に使えば、きっとまた気味悪がられて、石を投げられるに決まっている。

 それでも、淡い希望の種は、僕の心に確かに蒔かれた。

 商隊と共に旅を続けるうちに、風景は次第に緑を失い、乾いた大地へと変わっていった。空気は熱を帯び、吹き抜ける風が砂を運んでくる。

 やがて、地平線の先に、陽炎の向こうに揺らめく巨大な城壁が見えてきた。

「着いたぞ、ノア!あれが砂漠の国、バシラだ!」

 ガシムさんの声に顔を上げる。僕の運命を変えることになるその国は、燃えるような太陽の下で、堂々とその姿を現していた。
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