不吉な『影』の力で追放された僕、流れ着いた砂漠の国では『聖なる天蓋』と呼ばれ、若き王に『我が国の至宝だ』と溺愛されています

水凪しおん

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第3話「聖なる天蓋」

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 砂漠の国バシラは、噂に違わぬ灼熱の世界だった。

 城門をくぐった瞬間、肌を焼くような熱気と、目も開けていられないほどの強烈な日差しに襲われる。故郷の湿った冷たい空気とは何もかもが違った。人々は建物の軒下や、申し訳程度に張られた布の陰に身を寄せ、ぐったりと暑さに耐えている。活気があるはずの市場も、ほとんどの店が日よけの布を深く下ろし、閑散としていた。

 額から流れ落ちる汗を拭いながら、商隊の荷下ろしを手伝う。少し動いただけでも、息が上がり、眩暈がした。

「こりゃあ、たまらんな……」

 隣で荷物を運んでいた商人が、苦しげに呟く。子供たちは外で遊ぶこともできず、日陰でつまらなそうに地面に絵を描いていた。老人たちは家の戸口で、ただ黙って遠くの陽炎を見つめている。

 その光景に、僕の胸は締め付けられるように痛んだ。

(僕の力なら……)

 あの考えが、再び頭をもたげる。もし、この忌まわしい影の力で、あの人たちに涼しい日陰を作ってあげることができたなら。

 でも、怖い。この力を見せたら、きっとまた化け物扱いされる。優しくしてくれた商隊の人たちにも、気味悪がられて追い出されてしまうかもしれない。

 恐怖と、目の前の人々を助けたいという思いが、心の中で激しくせめぎ合う。

 その時、ふと、水を売っていた老婆が、強烈な日差しに耐えきれず、その場に崩れ落ちるのが見えた。

「おばあさん!」

 近くにいた人々が駆け寄る。その光景が、決意の最後の一押しとなった。

 もう、どうなってもいい。石を投げられても、追い出されても構わない。ただ、目の前で苦しんでいる人を、見て見ぬふりはできなかった。

 僕は荷物の陰に隠れるようにして、両手をそっと胸の前に構えた。心臓が早鐘のように鳴っている。深く息を吸い込み、意識を集中させる。

 僕の足元から、じわりと濃い影が滲み出した。それは僕自身の影ではない、僕が生み出した闇。それはゆっくりと広がり、僕の意思に応えるように、天へと向かって伸び上がっていく。

 それはまるで、巨大な黒い布だった。僕の手から伸びた影は、市場の中央広場の上空で大きく、大きく広がり、強烈な日差しを完全に遮断した。

 ふわりと、涼しい風が吹いた。

 今まで人々を照りつけていた太陽光が消え、広場の一角に、信じられないほど涼やかで心地よい日陰が生まれた。

「な……なんだ?」

「急に涼しくなったぞ!」

「太陽が……隠れた?」

 広場にいた人々は、突然の涼しさに驚き、一斉に空を見上げた。そこに広がっているのは、青空ではなく、すべてを優しく包み込むような、穏やかな闇。

 そして人々は、その影の中心で、呆然と立ち尽くす僕の存在に気がついた。

「あそこにいる少年だ……」

「あの坊主が、この影を……?」

 ざわめきが起こる。僕は、これから投げつけられるであろう罵声や非難を覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。

 だが、聞こえてきたのは予想していたものとは全く違う言葉だった。

「ああ……なんて涼しいんだ……」

 先ほど倒れた老婆が、誰かに支えられながら立ち上がり、僕が作った日陰に入ってきて、うっとりと目を細めた。

「涼しい!外なのに、家の中よりずっと過ごしやすいぞ!」

「すごい!まるで魔法だ!」

 子供たちが、歓声を上げて日陰の中を駆け回り始めた。今までぐったりしていた大人たちも、恐る恐る日陰に入ってくると、その心地よさに安堵の息を漏らす。

 そして、彼らの視線が再び僕に集まった。その目には、恐怖や嫌悪の色はなかった。そこにあるのは、純粋な驚きと、感謝、そして称賛の色。

「ありがとう、旅の方!」

「あなたは神の使いか……?」

 口々にかけられる感謝の言葉に、僕はどうしていいかわからず、ただ立ち尽くすばかりだった。

 僕の力は、呪いではなかった。人々を苦しめる日差しから守るための、「聖なる天蓋」だったのだ。

 生まれて初めて、自分の力が誰かの役に立った。その事実が、信じられないほどの温かい喜びとなって、凍てついていた僕の心をゆっくりと溶かし始めていた。
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