不吉な『影』の力で追放された僕、流れ着いた砂漠の国では『聖なる天蓋』と呼ばれ、若き王に『我が国の至宝だ』と溺愛されています

水凪しおん

文字の大きさ
21 / 24

第20話「奇跡の砂嵐」

しおりを挟む
 追い詰められたサルディス軍。しかし、彼らはまだ奥の手を隠し持っていた。

 敗色濃厚となったサルディス軍の将軍は、忌々しげに空を覆う影を睨みつけ、部下に命じた。

「あれを使え!古代の遺物、『砂塵の呼び笛』だ!」

 部下は恐れおののいた。

「し、しかし将軍!あれは、敵味方の区別なく、すべてを飲み込む禁断の兵器……!」

「ええい、黙れ!このままでは我らは全滅だ!やるしかない!」

 命令を受け、サルディスの陣地の奥から、不気味な文様が刻まれた巨大な角笛が運び出された。兵士がそれに息を吹き込むと、空気を震わすような、低く、おぞましい音が戦場に響き渡った。

 その瞬間、地平線の彼方から、天を突くほどの巨大な砂の壁が、轟音と共にバシラ軍に向かって迫ってきた。

 人工的に発生させられた、大規模な砂嵐。

 自然のそれとは比較にならない、すべてを飲み込み、破壊し尽くす、絶望的な砂の壁。

「うわああああ!」

「砂嵐だ!逃げろ!」

 優勢だったはずのバシラ軍に、動揺が走る。あれに飲み込まれれば、影の天蓋があろうと、ひとたまりもない。

 ジャファルも、迫り来る砂の壁を前に、唇を噛んだ。

(ここまでか……!)

 その絶望的な光景は、遠く王宮の塔にいるノアの目にも、はっきりと見えていた。

(あれは……!)

 体は既に限界を超えている。だが、あの砂嵐がジャファルたちを飲み込んでしまうのを、黙って見ているわけにはいかない。

 その時、ノアの脳裏に、ジャファルから聞いていた古文書の言葉が蘇った。

『影の力は、荒れ狂う砂嵐さえも、その前には頭を垂れ、静寂を取り戻す』

(これだ……!)

 ノアは、残された最後の力を振り絞った。天蓋を維持していた影の一部を、その意思の力で、巨大な手のように変形させる。

 そして、その影の手を、迫り来る砂嵐へと向かって伸ばした。

「鎮まれ……ッ!!」

 渾身の叫び。

 ノアの体から、眩いほどの蒼い光が放たれた。それは民の祈りと、ノアの愛が一つになって生まれた、奇跡の光。

 影の巨腕は、荒れ狂う砂の壁に、そっと触れた。

 すると、信じられないことが起こった。

 あれほど猛威を振るっていた砂の奔流が、まるで母親に撫でられた子供のように、その勢いを急速に弱めていく。轟音は消え、風は凪ぎ、天を覆っていた砂の壁は、さらさらと、ただの砂となって大地に落ちていった。

 ほんの数分前まで世界を終焉させようとしていた砂嵐が、完全に、消滅したのだ。

 人知を超えた奇跡。

 その光景を目の当たりにしたサルディスの兵士たちは、完全に戦意を喪失した。神の御業を見せつけられた彼らに、もはや戦う意思は残っていなかった。

 彼らは、次々と武器を捨て、その場に膝をついた。

 戦いは、終わった。

 そして、役目を終えたノアは、糸が切れた人形のように、その場に静かに倒れ込んだ。彼の意識は、深い闇の中へと沈んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 ※諸事情により、本編、番外編「嫁溺愛大将と幼馴染み達」「イザームさんとルーカスくん」のみ再掲します。 「羽化」 「案外、短気」 「飴と鞭」 は未公開のままで失礼いたします。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...