βの俺がΩに分化したら、病弱なはずのαの主君の本性が覚醒。執着と溺愛で主従が逆転しました

水凪しおん

文字の大きさ
14 / 15

番外編「初めての『お願い』」

しおりを挟む
 呪いが解けてからというもの、ラッセルはまるで別人のようだった。
 いや、これが彼の本来の姿なのだろう。
 彼は持ち前の明晰な頭脳と、健康な身体からあふれるエネルギーで公爵としての務めを完璧にこなしていた。

 その完璧さは、私生活、特に俺への愛情表現においても遺憾なく発揮されていた。

「レオン、疲れただろう。今日はもう休め。書類の整理は私がやっておく」

「レオン、少し痩せたのではないか?料理長にもっと滋養のあるものを作るよう言っておこう」

「レオン、愛している」

 一日、最低でも十回は「愛している」と言われる。
 その度に俺は顔を赤くするしかなく、そんな俺の反応を見てラッセルはさらに満足そうに笑うのだ。
 彼の過保護っぷりは、呪いが解けても、いやむしろ以前より増している気がした。

 そんなある日のことだ。

「レオン、明日は久しぶりに二人で街へ行かないか?」

 執務を終えたラッセルが、俺の肩を揉みながら提案してきた。

「街へ?いいけど、何か用事でもあるのか?」

「いや、ただのデートだ。お前に、贈りたいものがある」

 翌日、俺たちは護衛もつけずお忍びで城下の街を訪れた。
 活気に満ちた街並みを歩くだけで、気分が晴れやかになる。
 ラッセルは、俺の手を固く握って離さない。
 その堂々とした様に、最初は気恥ずかしかったが今はもう慣れたものだ。

 彼が俺を連れて行ったのは、一軒の洒落た宝飾店だった。

「好きな指輪を選ぶといい。私たちの、正式な結婚指輪だ」

 そう言って、彼はきらびやかな指輪が並ぶショーケースを指さした。
 どれも、目もくらむような見事な品ばかりだ。

「こ、こんな高価なもの……」

「遠慮するな。お前に一番似合うものを、私が選んでやる」

 ラッセルはそう言うと、店主と何やら話し込みやがて一つの指輪を手に取った。
 それは、大ぶりの青い宝石が埋め込まれた白銀の指輪だった。

「このサファイアは、私の瞳の色だ。そして、このプラチナは、お前の……いや、私たちと同じ銀の髪の色。お前のために作らせた、特別なものだ」

 彼は、跪くと俺の左手の薬指に、そっとその指輪をはめた。
 指にぴったりと収まる冷たい感触。
 青い宝石が、彼の深い愛情を物語っているようで胸が熱くなった。

「ありがとう、ラッセル。大切にする」

 店を出て、夕暮れの道を二人で歩く。
 指輪をはめた左手を、ラッセルが優しく握りしめる。

「レオン。私から、一つ、お願いがあるんだが」

「お願い?」

 あの、絶対君主のラッセルが「お願い」などと言うのは珍しい。
 俺は少し驚いて、彼の顔を見上げた。

「なんだ?言ってみろ」

 すると、彼は少し照れたように視線を逸らしそれから意を決したように、俺の耳元で囁いた。

「その……私のことを、『ラス』と、呼んでくれないか」

「……え?」

 ラス。
 それは、彼の幼い頃の愛称だ。
 昔、一度だけそう呼んだら、「なれなれしい」とむすっとされたことがある。

「どうして、急に……」

「お前だけに、そう呼ばれたいんだ。ダメか?」

 上目遣いで、少し不安そうに俺を見つめるラッセル。
 その表情は、公爵様でも冷徹な支配者でもなく、ただの恋する一人の男の顔だった。
 そのギャップに、俺の心臓は大きく跳ねた。

 俺は、込み上げてくる愛しさに思わず吹き出してしまった。

「ははっ、なんだよ、それ」

「なっ、笑うな!」

「分かった、分かったよ。じゃあ、その……」

 俺は、深呼吸を一つすると彼の瞳を真っ直ぐに見つめて、言った。

「……ラス。愛してる」

 その瞬間、ラッセルの顔が夕焼けよりも真っ赤に染まった。
 彼は、しばらく呆然と俺を見つめていたがやがて、感極まったように俺を強く抱きしめた。

「……反則だ、レオン。それは、ずるい」

 腕の中で、くぐもった声が聞こえる。
 その声が、ひどく嬉しそうに震えていることに気づいて俺もまた、幸せな気持ちでいっぱいになった。

 健康な身体を手に入れた彼は、もう何もかもが完璧なスパダリだと思っていた。
 けれど、時折こうして見せる不器用で可愛い一面が、俺はどうしようもなく好きなのだ。

 これからも、この人の色々な顔を俺だけが見つけていくのだろう。
 そう思うと、未来が楽しみで仕方がなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

処理中です...