ダンボール無双~実家を追放されたホームレスの俺が、ダンボールの妖精に導かれて鬼畜ゲーム世界で英雄やってるけど質問ある?~

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ホームレスと皇帝陛下

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「……という流れで行こうと思います」
 俺たちは、夕食の時間まで一緒に過ごして、作戦会議を続けていた。

 今日はローザンブルク料理だ。
 
 クジャクのソテー、赤かぶのスープ、野菜とひき肉をパン生地に包んで焼いたもの、野菜サラダ。

 贅沢な食事だ。要塞攻防戦中はずっとジャガイモ生活だったし……
 ウィリーが俺に気を使って、格式ばった食事にしないようにしてくれたようだ。ありがたいぜ。

「私もこういう飾らない食事の方が好きなのよね。王宮では食事まで儀礼的で肩が凝ってしまうもの」

 そう言いながら、赤いスープを彼女は上品に飲んでいく。女王陛下は、食事の仕草すらも気品が漂うな。

「やっぱり、ウィリーは笑っている時が一番だな」

「えっ!?」

「さっきの講和会議の時はずっと神経を使っていたのが分かるからさ。友達として少し心配していたんだよ。たぶん、俺くらいしか対等にしゃべることができる人いないだろう。俺の前では、肩の力を抜いておしゃべりしようぜ」

「もうそうやって……リーニャにだって、ちょっかいをかけているの聞いているんですからねぇ?」
 なんだかごにょごにょ言っている。

「えっ、なんだって?」

「なんでもないですよ」
 美少女は政治家のように鋼鉄の笑顔で俺を威圧した。

「いや、絶対今なんか言ってたよね?」

「なんでもないですよ!!」
 彼女は力強く断言した。これ以上の質問は無用だと笑顔が言っている。

「そっか……」
 俺は彼女の笑顔に圧倒されて口をつぐむことしかできなかった。

 ※

 食事も終わり、ローザンブルクの伝統的なデザートが運ばれてきた。
 白くてとろとろの酸味のある乳製品。

「ヨーグルトだ!!」
 一口食べただけで、それがなじみのあるものだと分かった。

「クニカズの世界にもあるデザート?」

「おう! もともとは外国の料理だったんだけどな。今では朝食の定番になってる料理だ」

「酸っぱいけど、口直しにちょうどいいですよね」

「そうだ、ちょっとした工夫で美味しくなる食べ方を教えてやるよ」

「ちょっとした工夫?」

 俺はヨーグルトの容器に魔力を伝える。
 ヨーグルトを氷魔力で、シャーベット状にしていった。

 軽くミントを添えて、本当は砂糖がいいんだがジャムをのせた。

「どうぞ? ヨーグルトのシャーベットだ」

「冷たくて気持ちいいわ」
 
「酸味も冷やしたことで和らいで、最高だよ」

「すごいわ。こんな工夫考えたこともなかった」

「まあ、俺の世界では結構有名だったんだけどな」

「クニカズの世界は、魅力的なものにあふれているのね? どんな王宮料理や世界の秘宝よりもおもしろいわ」

 俺たちは明日の地獄に備えて、一緒に英気を養った。

 ※

 翌日、講和会議が再開した。

「それでは、女王よ。昨日の我が提案を受け入れるかどうか教えてくれるかの?」
 腹黒タヌキは笑っていた。まるで結果はわかっていると言わんばかりの口ぶりだ。

「ええ、決まりました」

「ふむ、では1週間後までに軍を撤退するように要求する」
 勝ち誇った笑顔だ。

「陛下、お言葉ですが……我々はあなたの提案を受諾するとは言っておりませんが?」

「なんだとっ!!」
 余裕をもって話していた老人はいきなり激高した。

「私が決めたのは、皇帝陛下の提案を拒絶することです。勘違いしないでいただきたいですわ」
 この世界の列強国の長に、彼女は宣戦布告したのだ。
 彼女の眼は暗にこう言っている。

「老人たちの時代は終わった」と。

「であれば、ヴォルフスブルク包囲網を形成する国家群と全面戦争をするつもりか!? 少しは話が分かる小娘だと思っていたが、どうやら過信しすぎたようだなっ!!」

「ブラフはそこまでですよ、陛下? 我が忠臣クニカズ中佐から陛下に言いたいことがあるようです。発言をさせていただきますね。クニカズ、どうぞ?」

 女王陛下の眼は「やってしまえ」と笑っている。

「では、失礼ながら言わせていただきますよ、皇帝陛下? まず、あなたが発言しているヴォルフスブルク包囲網は本当に機能しているんですか?」

「な、なにを?」

「本来であれば、戦争が始まった瞬間、ヴォルフスブルク包囲網は連動して我が国に侵攻してこなくてはおかしいのです。ですが、戦端を開いたのは貴国のみだ。反・ヴォルフスブルク連合はむざむざ勝てるタイミングを逃している。おかしいじゃないですか? あなたは敗北してから包囲網を強調した。それもおかしい。どうして自国の軍隊の権威が失墜するのを防がなかったんですか? 同盟が機能しているなら盟主であるローザンブルクの敗北は許されないはずです」

 皇帝は苦虫を嚙み潰したような顔をして黙ってしまった。
 俺は目配せして女王陛下にバトンを渡す。

「よって、本当に追い詰められているのはローザンブルクです。私たちは包囲網が機能不全になっていると判断しております。陛下、2日目の講和会議の議題は、領土分割案と賠償金でいかがでしょうか?」

「くっ、返答は即決ではできない。もうしばらく時間が欲しい」
 一気に皇帝が劣勢になった瞬間だった。やはり、包囲網の件はブラフか。

 そこにウィリーがとどめを刺す。

「陛下、残念ながらあなたは敗者です。我々がそんな猶予を残す必要性がどこにありますか? 答えは簡単です。領土分割を受け入れるか否か。イエスかノーかです」

 ※

 講和会議の結果は、ヴォルフスブルク王国が完全に有利な条件で確定した。

・今回の戦争は、ローザンブルク軍団による暴走に端を発したものだと認める。
・戦後賠償に関しては、要塞の修理費用とその他を勘案して2億1000ゴールドとする。
・両国間で問題となっていたヴォルフス街道の領有権は、ヴォルフスブルク王国のもとする。この問題は不可逆的なものであると決定する。
・ローザンブルク帝国とヴォルフスブルク王国は10年間の不可侵条約を締結する。

 この4つの条件で講和は成立した。
 これで全てが終わった。ヴォルフスブルクが大陸の列強国を倒した瞬間だ。
 すべての非をローザンブルク帝国が認めて、国家予算の半分に近い額の賠償金がヴォルフスブルクに入る。さらに、今まで火種になっていた領土問題もすべて解決されて、不可侵条約によって東側の安全まで確保できた。完璧だ。

 さらに不可侵条約が締結されたことで、ヴォルフスブルク王国包囲網が瓦解を決定づけるだろう。同盟の盟主であるローザンブルクが戦争をしないことを明言したんだからな。

 これで、周辺諸国がすべて敵という最悪の状態は回避した。
 ヴォルフスブルクは大国への道を突き進む。

 賠償金による国家の近代化。
 旧秩序の打破と新国際秩序の形成。

 大国へと進むべき道は少しずつ形成されてきた。あとはもっと頑張るだけだな。

「やりましたね、クニカズ?」
 講和文章へのサインが終わって女王陛下は俺をねぎらうように語り掛けてくれる。

「ここからですよ、陛下!」

 アルフレッドも俺の肩に手を置いて力強くうなずく。

「今回の件はクニカズの功が一番大きいからな。新しい戦略を思いつき、歴戦の政治家のブラフも冷静に状況分析することで見破った。間違いなくクニカズは救国の英雄だ。これからもよろしく頼む」

 やっと、俺は居場所を見つけることができた。
 死ぬ気で頑張ってやっと、やっとだ。

 ここで俺はみんなを幸せにする。
 そう決意した瞬間……

 俺はローザンブルク皇帝に話しかけられた。

「クニカズ中佐といったかな? この老いぼれに少しだけ時間をくれないか? なに、暗殺などは考えていない。それができるならニコライがお前を殺しているはずだ。わしのような老いぼれが勝てるわけがないだろう? お茶でも飲みながら今後の世界の話をしたい」

 女王陛下はこくんとうなずいた。

「わかりました。陛下、よろしくお願いします」
 
 そして、俺はさっきまで帝国の大将だった人間と話し合うために中庭にでた。
 美しい庭園の中心部に、2人分のティーカップが置かれている。ずいぶんと雅なお茶会だ。

「さて、クニカズ君。茶を飲む前に念のため聞いておこう。キミは異世界から来た転生者だね?」

 ※

「それは答えなくてはいけない質問ですか?」
 下手に自分の立場を明かすべきではないと直感した。
 だからこそ、はぐらかすような方向へと持っていく。

「いや、強制ではないよ。あくまで答えることができる範囲で構わない」
 そう言って老人は笑いながら茶を飲む。

「では、ノーコメントでお願いします。俺の立場を簡単に明かすほど、ふたりの関係は進んでいないと思うので」

「それは残念じゃな」

 今度は俺が茶を飲んだ。

「では、酒でも飲みながら話をしようか。そのほうが仲良くなれるチャンスじゃろう? わしは、ヴォルフスブルクの酒である"ハーブ酒"をいただこうか。気分を変えたいからね。きみはどうする? わしが奢ろう」

 ハーブ酒は、ヴォルフスブルク名産の酒だ。健康効果があるとされて、薬のような役割を果たしているらしい。

 薬草入りワインみたいなものだな。
 あえて、敵国だった地の酒を飲むというのはなにかしらのメッセージみたいなものだろう。
 こちらは試されていると考えた方がいい。

 ならば……
 俺の世界で一番有名な酒の頼み方をしてやる。

「では、俺はマティーニを。ジンではなく、ウォッカで。オリーブではなくレモンを添えて……」

 どうだ、ニートをなめるなよ。時間が余りまくっていたから、映画は大量に見たんだ。
 
「ふむ、おもしろいな、きみは……。本来ならジンとハーブ入りのワインで作るマティーニを、我が国名産のウォッカで作れとは?」

 よかった。この世界でもマティーニがあったか。
 イチかバチかだったがうまく伝わったようだ。たしか、マティーニは20世紀に誕生したカクテルのはずだが? この世界の創造主はどうやら相当酒好きのようだ。

「ええ、陛下が我が国に配慮してくださったので……こちらもそれに応えようかと?」

 それで度数が高い酒を昼間から飲まなくてはいけなくなったんだけどな!?

 ※

 後世の歴史家は語る。
 
「ワル―シャ講和会議の直後、ローザンブルクのロバート帝とヴォルフスブルクの女王の懐刀とされたクニカズ・ヤマダ中佐の会談はおこなわれた。これがのちに言う"賢者会議"である。この会議はいくつもの絵画や小説で描かれており、歴史の転換点として今なお有名である。皇帝はヴォルフスブルク名産の「ハーブ入りワイン」をオーダーした。オーダーに両国間の安定についての願いをこめた皇帝に対して、クニカズ中佐は返礼としてローザンブルク名産の「ウォッカ」と自国の名産品「ハーブワイン」のカクテルを注文し両国の融和の意思を示したとされる。また、クニカズ中佐は『このカクテルにはマッシリア王国名産のレモンを添えるように』と注文した。これは暗に今後の国際秩序について一石を投じるメッセージを残したものだと考えられる。このようなエピソードから前半生に謎が多いクニカズ将軍だが、相応の文化人かつ教養豊かな人物だったと推測される。友人たちは、彼は特に小説と演劇を好み、即興で人を楽しませる物語を作るのがうまかったと証言している」

 ※

「それでは乾杯!」
「乾杯」

 さわやかなカクテルが俺の口に広がる。ハーブの味によってさわやかなものになったそのカクテルは、強い度数と共に俺を心地よい気分にさせてくれる。

「良い飲みっぷりだ」

「両国の今後の友好を願ってですからね。陛下」

「それでこそ、異界の英雄だ」

 だが、あまり酔いつぶれてはいけない。俺は試されているのだからな。

「それでは陛下。本題と行きましょう」

「うむ」

「さきほどの質問はあくまで会話のきっかけに過ぎないものでしょう。陛下の中では答えが出ているように聞こえました」

 そう問い詰めると彼はふふっと笑う。

「ああ、私はニコライの状況分析を信頼している。キミは間違いなく異世界から来た男だろう」

「では、何を聞きたいのですか?」

「おそらく、お主はニコライをキミしか知り得ない知識と工夫によって破ったのだろう。ローザンブルクの最高傑作をまさか失うとは私も思っていなかった」
 その言葉には悔恨がにじんでいる。
 ああ、そうだ。前世知識がなければ、あんな怪物と正面からは戦えなかったはずだ。もちろん、妖精の加護も大きいんだが。

「そして、これからヴォルフスブルクはキミの知識を使って大きな発展を遂げるだろう。キミの頭脳はおそらく200年から300年以上先の未来を生きているのだからね。ローゼンブルクとしてはこれ以上、無理に争いたくはないよ」
 よし、大陸最強の陸軍はこれで敵に回ることはなくなった。これは大きい前進だ。

「その言葉を聞けただけで、光栄に思います」

「これで東側の安全は確保されたというわけだな。ヴォルフスブルクは、覇権を目指して動き始めるのかな?」

「我が国は、国際秩序の安定を第一に考えております。覇権などは考えておりません」

「キミは教科書通りのコメントがうまい。実に素晴らしいキレモノだ」

「ありがたき幸せ」

「しかし、キミは大事なことを忘れているのではないかな?」

「大事なことですか?」

「まだ、思いつかないならいい。だが、キミの持つ知性は諸刃もろはの剣にもなるんだよ。すぐれた知性はそれだけで、持ち主の手すらも傷つけるかもしれない。我が甥のニコライ=ローザンブルクがはまったようにな?」

「ご忠告ありがとうございます。気をつけます」

 実際、キレモノが原因で破滅した国家は多い。気をつけなくてはいけないな。

「うむ。だが、キミのカクテルの注文でやりたいことはわかるよ。次は、南方のマッシリアを狙うのだろう。キミの手腕に期待しているよ」
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