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ほんの余計な一言 sideカイ
ほんの一言で、ここまでの事態になるとは思ってもみなかった。
「ラエル公爵様、ローズお嬢様とは普段どのような会話をされるのですか?」
中庭から校舎へと戻る際、ふと気になってラエル公爵様に尋ねた。
正直、性格が正反対なお二人が普段どのような会話をしているのか前から気になっていたのだ。
ローズお嬢様と出会ってから、ラエル公爵様は変わられた。捻くれていた性格も嘘のように穏やかになり、周囲を気遣える人間になっていた。
「特に特別なことはないよ。今日学校で何をしたかとか、休日はどう過ごす予定かとか、そんなたわいもない話だ」
そう言いながらも、ラエル公爵様の頬は緩んでいる。そんな公爵様の姿を見て、何だか俺まで嬉しくなる。
ずっとお側で仕えてきた方が、こんな風に幸せそうにされているのを見るのは気分がいい。
あの時、ラエル公爵様に対してかなり無礼な事を言ったのは自覚していたし、罰を受けるのも覚悟の上だった。それでも怒るどころか公爵様は俺に感謝してくれたのだ。
...正直、半分は私情もあったが。
頭の上に彼女の顔が浮かび、ぱぱっとそれを振り払った。
ラエル公爵様とローズお嬢様の婚約話が持ち上がった時の怒り狂った彼女の姿を思い出すと、今でも冷や汗が出てくる。
『なんでそんな遊び人が私の大事な親友の婚約者なのよ。許せないわ。ローズのことを泣かせたら、ただじゃおかないから』
穏やかで優しい彼女。いや、それは嘘ではない。しかしながら、彼女の逆鱗に触れたら終わり、あの剣幕に勝るのもはないだろう。
それでも普段は可愛い婚約者なのだ。抱き寄せれば可愛らしく顔を赤くするし、好きだと囁けば私も大好きよと可愛く返してくれる。
彼女の愛らしい顔を思い出し、ふと油断すれば緩みそうになる頬を押さえながら、ほんの出来心で聞いた。
そう、ほんの出来心だったのだ。
「ローズお嬢様はどのように愛情表現をされるのですか?」
今晩はラエル公爵様の公務から離れて久しぶりに彼女の元へ向かう予定だった。久しぶりに彼女に会えるかと思うと浮き足立っていたのもあったのだ。
普段は絶対に聞かないことを聞いてしまった。
「.........」
急に黙りこくる公爵様を見て、ふと我にかえる。しまった、と思った。
友人のように仲がいいとはいえ、主人に対して何て失礼なことを聞いてしまったんだ。
「こ、公爵様。大変無礼な質問をしてしまい申し訳ございませ....」
「婚約者はどうだ?」
「え?」
「お前にも婚約者がいるだろう。その御令嬢はどうなんだ?」
「どう、というのは...」
「お前が聞いた質問をそのまま聞いているんだ。どう愛情表現をする?」
「それは...私が好きだと言えば好きだと返してくれますし、急に会いにきたかと思えば会いたかったと抱きしめてくれますし、キスも....」
ここまで話して、羞恥心で顔がじわじわと赤くなる。これは何の罰ゲームだ。
俺はとんでもない質問をしてしまったと心の中で猛省し、もう一度謝ろうとラエル公爵様の方を見た。
「...ラエル公爵様?」
さっきの嬉しそうな表情はどこへやら、何故か苦しそうに顔をしかめている。
俺の話がそれほどまでに不快だったのだろうか。じわりと冷や汗が滲む。
そりゃそうだよな、使用人の恋路の話なんか聞いて誰が楽しいのか。
「公爵様、ご気分を阻害して大変申し訳ございませ...」
「彼女は一度もないんだ」
「え?」
「一度も、好きだと言われたことがない」
それは、初めて見る公爵様の傷ついたような顔だった。男の俺でも整っていると思う端正な顔が苦しそうに歪む。
信じられなかった。あれだけ女性から言い寄られ、愛の言葉を散々囁かれたであろうお方が。
「ろ、ローズお嬢様のことです。きっと公爵様のように容姿端麗なお方からぐいぐいと言い寄られて、恥ずかしがっておられるのでしょう」
「...私もそう思っていたのだが、そうでもない気がするんだ」
苦しそうな表情のまま、ラエル公爵様は続ける。
「元々、ローズからは出会った瞬間に婚約解消をお願いされていたんだよ。それを、私がなんだかんだ丸め込んで正式に婚約者にした」
そんなことがあったのか。
そんなことは全く知らなかった俺はどう声をかけていいか迷ってしまった。
いや、でも彼女から聞く限り、ローズお嬢様はどう考えてもラエル公爵様を好いているはず。
ただ、今の公爵様に俺の口からそれを伝えたところで何の意味も持たないだろう。
彼はローズお嬢様からの言葉を待っていたのだ。
...これは、俺もしかしてやってしまったのではないか。
チラッと脳裏に彼女の怒り狂う姿が浮かび、ゾゾッと寒気がした。
「こ、公爵様」
「なんだ?」
「今日は、馬車に乗ってお迎えに上がったらいかがでしょうか?ローズお嬢様もきっと、その方が喜ばれます」
「...わかった」
どうか、馬車の中でお二人で解決してくれと願いながらその場は収まったが、まぁもちろん俺の願いは儚くも砕け散るのだった。
「ラエル公爵様、ローズお嬢様とは普段どのような会話をされるのですか?」
中庭から校舎へと戻る際、ふと気になってラエル公爵様に尋ねた。
正直、性格が正反対なお二人が普段どのような会話をしているのか前から気になっていたのだ。
ローズお嬢様と出会ってから、ラエル公爵様は変わられた。捻くれていた性格も嘘のように穏やかになり、周囲を気遣える人間になっていた。
「特に特別なことはないよ。今日学校で何をしたかとか、休日はどう過ごす予定かとか、そんなたわいもない話だ」
そう言いながらも、ラエル公爵様の頬は緩んでいる。そんな公爵様の姿を見て、何だか俺まで嬉しくなる。
ずっとお側で仕えてきた方が、こんな風に幸せそうにされているのを見るのは気分がいい。
あの時、ラエル公爵様に対してかなり無礼な事を言ったのは自覚していたし、罰を受けるのも覚悟の上だった。それでも怒るどころか公爵様は俺に感謝してくれたのだ。
...正直、半分は私情もあったが。
頭の上に彼女の顔が浮かび、ぱぱっとそれを振り払った。
ラエル公爵様とローズお嬢様の婚約話が持ち上がった時の怒り狂った彼女の姿を思い出すと、今でも冷や汗が出てくる。
『なんでそんな遊び人が私の大事な親友の婚約者なのよ。許せないわ。ローズのことを泣かせたら、ただじゃおかないから』
穏やかで優しい彼女。いや、それは嘘ではない。しかしながら、彼女の逆鱗に触れたら終わり、あの剣幕に勝るのもはないだろう。
それでも普段は可愛い婚約者なのだ。抱き寄せれば可愛らしく顔を赤くするし、好きだと囁けば私も大好きよと可愛く返してくれる。
彼女の愛らしい顔を思い出し、ふと油断すれば緩みそうになる頬を押さえながら、ほんの出来心で聞いた。
そう、ほんの出来心だったのだ。
「ローズお嬢様はどのように愛情表現をされるのですか?」
今晩はラエル公爵様の公務から離れて久しぶりに彼女の元へ向かう予定だった。久しぶりに彼女に会えるかと思うと浮き足立っていたのもあったのだ。
普段は絶対に聞かないことを聞いてしまった。
「.........」
急に黙りこくる公爵様を見て、ふと我にかえる。しまった、と思った。
友人のように仲がいいとはいえ、主人に対して何て失礼なことを聞いてしまったんだ。
「こ、公爵様。大変無礼な質問をしてしまい申し訳ございませ....」
「婚約者はどうだ?」
「え?」
「お前にも婚約者がいるだろう。その御令嬢はどうなんだ?」
「どう、というのは...」
「お前が聞いた質問をそのまま聞いているんだ。どう愛情表現をする?」
「それは...私が好きだと言えば好きだと返してくれますし、急に会いにきたかと思えば会いたかったと抱きしめてくれますし、キスも....」
ここまで話して、羞恥心で顔がじわじわと赤くなる。これは何の罰ゲームだ。
俺はとんでもない質問をしてしまったと心の中で猛省し、もう一度謝ろうとラエル公爵様の方を見た。
「...ラエル公爵様?」
さっきの嬉しそうな表情はどこへやら、何故か苦しそうに顔をしかめている。
俺の話がそれほどまでに不快だったのだろうか。じわりと冷や汗が滲む。
そりゃそうだよな、使用人の恋路の話なんか聞いて誰が楽しいのか。
「公爵様、ご気分を阻害して大変申し訳ございませ...」
「彼女は一度もないんだ」
「え?」
「一度も、好きだと言われたことがない」
それは、初めて見る公爵様の傷ついたような顔だった。男の俺でも整っていると思う端正な顔が苦しそうに歪む。
信じられなかった。あれだけ女性から言い寄られ、愛の言葉を散々囁かれたであろうお方が。
「ろ、ローズお嬢様のことです。きっと公爵様のように容姿端麗なお方からぐいぐいと言い寄られて、恥ずかしがっておられるのでしょう」
「...私もそう思っていたのだが、そうでもない気がするんだ」
苦しそうな表情のまま、ラエル公爵様は続ける。
「元々、ローズからは出会った瞬間に婚約解消をお願いされていたんだよ。それを、私がなんだかんだ丸め込んで正式に婚約者にした」
そんなことがあったのか。
そんなことは全く知らなかった俺はどう声をかけていいか迷ってしまった。
いや、でも彼女から聞く限り、ローズお嬢様はどう考えてもラエル公爵様を好いているはず。
ただ、今の公爵様に俺の口からそれを伝えたところで何の意味も持たないだろう。
彼はローズお嬢様からの言葉を待っていたのだ。
...これは、俺もしかしてやってしまったのではないか。
チラッと脳裏に彼女の怒り狂う姿が浮かび、ゾゾッと寒気がした。
「こ、公爵様」
「なんだ?」
「今日は、馬車に乗ってお迎えに上がったらいかがでしょうか?ローズお嬢様もきっと、その方が喜ばれます」
「...わかった」
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