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初めての感情

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初めて彼女と出会った瞬間から、僕はきっと彼女のことを好きになっていたのだと思う。一目惚れ、とでも言おうか。


何故こんなにも彼女に溺れたのかは分からない。会う度に目を奪われ、愛しさが募ってゆく。日に日に美しくなるマリーを誰の目にも触れさせたくなかった。


「婚約者の男爵令嬢の事だが、一旦白紙に戻そうと思っている」


父上から突然そう告げられた時、大袈裟ではなく目の前が真っ暗になった。


婚約を白紙にする、だと?


そもそも男爵令嬢のマリーとの婚約を父上が決めたのは、彼女の父親の商売がとても繁盛していたからだ。


男爵家と侯爵家の政略結婚はかなり珍しいものだったが、父上はより利益のある令嬢との結婚を望んでいた。そこで白羽の矢が立ったのがマリーだったのだ。


歳の離れた兄二人はとにかく優秀だった。父上は、兄達ほど優秀ではない三男の僕を家の利益のために令嬢と政略結婚させると決めていた。


「父上...」


「なんだ?」


あからさまに表情を変えた僕に少し戸惑ったように父上は僕を見た。


「マリーとの婚約を白紙に戻すことはできません」


「何故だ?」


「彼女を愛しているからです」


父上は驚いたように僕を見た。今までこの想いを口にしたことはなかったからだ。それに、父上の決定に逆らうことはこれが初めてだったのだ。


「な、何を言っているんだ」


「父上、僕は本気です。だからお願いします、どうかマリーとの婚約を認めてください」


父上は最初は驚いたようだが、少し考え込むようにじっと僕を見て、しばらくして口を開いた。


「...わかった。その代わり、お前には今以上に私の公務を手伝ってもらう事にしよう。お前が兄と同じ量の仕事をこなせるのであれば認める。ただし、それが出来なければ婚約は白紙に戻す。よいな?」


「はい、ありがとうございます」


僕は父上に頭を下げてお礼を言った。



それから僕は必死だった。彼女との婚約を認めてもらうために。そして僕はマリーの父親に、彼女をパーティーには絶対参加させないように言った。


僕は三男とはいえ侯爵家の人間だ。今まで様々なパーティーに参加し、そこで男女の交流を嫌と言うほど見て来た。


様々な令嬢からしつこいほど誘われ、毎回やんわりと断るのも疲れてくる。


そんな場所に彼女が行くなんて考えただけでも辛かった。他の男の目には絶対に触れさせたくはなかった。


こうして、ようやく父上に認められる頃には僕は兄達以上に父上から期待される存在となった。


兄二人は既に家庭を持っており、僕のおかげで公務から少しの間解放され家族との時間が取れるようになったと感謝された。


マリーがようやく僕の妻になる。そう思うだけで胸が高鳴り、ドレスに身を包んだ彼女を見た時は泣きそうなほど嬉しかった。


こうして、僕は待ちに待った彼女との生活を手に入れたのだった。
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