あなたはずっと、私の光

ベル

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「今朝突然尋ねてきて、レイラにこの事を伝えてくれって言われたの。騎士団に入るって事と、あとは…自分のことをどうか覚えてて欲しいって言ってた。引き留めたんだけど、急遽入隊が決まったから時間がなかったみたいで…」


「…っ、ぅ」


「泣かないで、レイラ。覚えてて欲しいって言うくらいだから、またすぐに会えるわよ。ね?」


涙がとめどなく溢れてくる。

つい先日まで一緒にいたのに、何も知らなかった。そんな素ぶり一度もなかったのに、どうして最後の挨拶すらさせてくれなかったの?

覚えてて欲しいなんて、勝手すぎる。
もう一度、会えるかどうかも分からないのに。

せめて、文字の読み書きができたら良かった。そしたら、あなたに手紙を書けたのに。

しばらくレイラはその場から動けなかった。


***


マルクスが騎士団に入ってから、レイラは読み書きの勉強を始め、簡単な文章であれば読み書きができるようになっていた。
ある日を境に孤児院に本が寄付されるようになり、国の支援を受けて孤児院にいた子どもたちは勉強もできるようになったからだ。

レイラを引き取ってくれた孤児院のトップが変わり、お世話をしてくれる人たちも一掃された影響も大きかったようだった。

レイラが熱心に勉強を始めたのは、新聞を読むためだった。毎日、新聞に記載されている皇帝騎士団の記事を熱心に読んだ。
苦しく辛い訓練をしているであろうことがわかる記事を読むと、胸が痛んだ。


侯爵家の使用人として雇いたいと直接侯爵様が孤児院に迎えに来たのは、それから数年後のことだった。


「レイラっ!レイラ大変!!」


慌てたように、サシャがキッチンへと入ってくる。


「そんなに慌ててどうしたの?もうすぐ夕食ができる頃だけど…」


成長したレイラは、孤児院の中でも最年長の年齢となっていた。レイラの作る料理は好評で、料理人がお休みとなる土日だけは夕食担当を任されていた。

間も無く孤児院から出て行かなくてはいけないため、長年継続してきた新聞配達の仕事を辞め、サシャと共に新たに裁縫の仕事を見つけて住み込みで働く予定だった。


「夕食の準備どころじゃないわ!早くきてっ!」


サシャにものすごい勢いで腕を掴まれたかと思うと、エプロンをしたまま外へと連れ出される。

ようやく手を離してもらえたかと思ったら、目の前にずっと会いたかった人物が立っていた。

驚きすぎて、声が出なかった。

ずっと、忘れないようにメモに似顔絵をこっそりと描いてノートに挟んでいた。何度も何度も思い出しては、胸が苦しくなった。だけど忘れたくはなかった。

覚えていて欲しいって、言われたから。

記憶していたよりもずっと体格が良くなって、スラッと背が高い青年になっていた。冷たい眼差しに、表情を変えないのは相変わらず。


「マルクス…」

「君がレイラかい?」


絞り出すような声でマルクスの名前を読んだその時、綺麗な顔立ちの男の子が馬車の中から出てきた。

貴族のご子息だろうか、見るからに上質な生地の衣服を身につけ、優しそうな笑みをレイラへと向けた。

地位の高い貴族が乗る馬車が目の前に止まっていることにも、声をかけられるまで気が付かなかった。
それほどまでに、マルクスしか視界に入っていなかったのだ。

突然名前を呼ばれ、困惑した。
マルクスが伝えたのだろうか。


「ごめんね、突然名前を呼ばれても困るよね。僕はルカルド。マルクスは僕の護衛騎士をしてもらってるんだ。年齢も君たちとほとんど変わらない」


人懐っこい笑顔に、品の良さそうな立ち居振る舞い。男の人なのに、綺麗という言葉がピッタリなほど、ルカルドは輝いていた。隣にいたサシャが、彼のあまりの美貌にぼんやりと見つめてしまうほど。


「今日から、僕の邸宅で使用人として働いてもらいたい。もうすぐ孤児院から出て行かないといけない年齢だろう?給与は弾むよ」


「えっ?」


思いもよらない提案に驚き、思わずルカルドを見つめる。
貴族の家で、使用人として働く?
しかも、今日から?
どうして突然そんな…

とんでもない提案に驚きながらも、目の前にいるマルクスから視線が離せなかった。

護衛騎士をしているって言ってたわよね。
使用人として働くってことは、マルクスと同じ空間で一緒に働けるってこと?


「…お願い、します」

「本当に!?ありがとう、助かるよ。そうだ、君も一緒にどうだい?レイラと仲が良いんだろう?」

「えっ!良いんですか!」

「もちろん」


サシャは頬を赤らめて喜んでいる。

レイラは押し黙ったまま、深刻そうな表情をしているマルクスを見つめた。

どうして、そんな顔をするの?
久しぶりに会えたのに、嬉しくないの?

マルクスが何故このような表情をしているのか、この時のレイラは気づく由もなかった。
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