冷たい侯爵様の甘い視線

ベル

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「つまり、君の両親は私の父上と共に事業をしていて、重要な取引に向かうためにしばらく屋敷を離れることになった。ただ、君を屋敷に一人にするのは心配だった。そこで私の父上が君を屋敷に招いて今日私のところに来た、と。そういうことか」


「は、はい…。私も先ほど知りまして、てっきり侯爵様もご存じなのかと…」


彼女の声はとても弱々しく、さっきからずっと視線が合わない。


…正直今はその方が助かる。
さっきから胸の鼓動が止まらない。一体どうしたっていうんだ。


思わずはぁっと息を吐くと、何を勘違いしたのか彼女が立ち上がった。


「や、やっぱり私帰ります」


「…いや、いい。こちらから招いたんだ。こんな夜更けに返すわけにはいかない」


「でもっ…」


「いいと言っているだろう。何度も言わせるな」


「は…い」


そんなに強く言いすぎただろうか。震える彼女を見て、不安を覚えた。


どうすればいいんだ。
扱い方が分からない。


今まで私の周りにいたのは、キーキーと騒がしい令嬢ばかりだったからだろうか。目の前にいる彼女は弱々しく儚げで、今にでも消えてしまいそうだ。


「今日は疲れただろう。部屋でゆっくり休んでくれ。彼女を客室に案内してくれ」


「はい、かしこまりました」


「あのっ」


近くにいたメイドに彼女を案内するよう伝え、部屋を出ようとした時、彼女に呼び止められた。


「何だ?」


「明日、自分の屋敷に戻ります。両親に言われたとはいえ、本当に突然尋ねて来てしまって…」


「いや、ここにいろ」


自分でも驚くほど、瞬時に答えていた。どうしたというんだ?


食い気味な返事に驚いたのか、彼女はえっ?という表情をして、私を見た。


彼女と視線が合うと、心臓が再びドクドクと波打ち始めた。


あぁ、くそっ。
本当に何なんだこの感情は。


「ルーカス侯爵様…?」


「ち、父上が君を呼んだんだ。私がそれを無視して君を返すわけにはいかない。言われた通りにここにいていい。…帰ることは許さないからな」


そう言い残し、私は部屋を出た。心臓がドクドクと脈打ち、何故か頬が赤くなる。


この込み上げてくるものは何だ。私は何で彼女がここにいることを許したんだ?正気か?


「ルーカス侯爵様、よろしいのですか?」


「…父上が決めた事だ。私が約束を破るわけにはいかない」


執事が意味ありげな表情で私を見ていたが、私はその視線から逃げるように自室へと戻るのだった。
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