冷たい侯爵様の甘い視線

ベル

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ウィルが出て行った後、私は執事にマーガレット男爵令嬢に洋室に来るように伝えろと言い、本を読みながら先に部屋で待機していた。


「入れ」


ドアをノックする音が聞こえ、答えると恐る恐るドアを開けながら怯えるような瞳で私の顔色を伺っていた。
何かしてしまったのではないか、どうしようという不安げな表情が一目でわかる。 


こんな遅くまで学校にいるなんて令嬢がする行為ではない、明日から早く帰宅するようにと伝えるはずだったんだが。


今にも何か怒られるのではないかと怯える表情の彼女に、なんだかいたたまれない気持ちになる。


「…書庫でいつも何を勉強しているんだ?」


気がつくと、全く違う言葉が口から飛び出していた。一体私は何を言っているんだと自分に呆れそうになった時、彼女の瞳がぱあっと輝いていたことに驚いた。


「私、将来は研究者になりたいんです。両親のように人の生活の役に立つ仕事に就きたいんです。流行病や治療薬などの研究をして、多くの人を救うお手伝いがしたいんです。そのためには勉強しなければと思っていて、来年の研究者試験に向けて頑張っているところで、それで…」


ポカンとする私の顔を見てハッとしたのか、彼女は急に話すことを止めて再び俯き加減になった。


「も、申し訳ございません。私、つい余計なことまで話しすぎてしまいまして…」


「いや…構わない」


そんなことよりも、大人しそうな彼女がそこまで考えて勉学に励んでいることに驚いた。


通常、令嬢たちは結婚相手を見つけるために躍起になり、いかに地位と名誉の高い相手を見つけるかが勝負だと言わんばかりにみな外見の装飾ばかりに気を配る。しかし彼女はそれよりも自分で成し遂げたいことがあり、努力しているという。


凄いことだと思った。
私は、いずれは父上の跡を継ぐ後継としての自覚はあるものの、彼女のように意思を持って取り組んできたのだろうか。


「ルーカス侯爵様?」


しばらく沈黙が続いたからか、彼女が不安そうに私を呼ぶ。


「凄いな」

「え?」

「立派だ」

心の底から感心してそう呟くと、彼女はとても嬉しそうに、恥ずかしそうに微笑んだ。


ドクンっ


その笑顔を向けられた瞬間、胸が高鳴るのを感じた。そしてようやく自覚する。


ウィル、お前の気持ちが何となくだが理解できそうだ。
おそらく私も、お前と同じだ。


この感情がなんなのか、自覚した途端に彼女へと意識が集中し、ドクドクと心臓が音を鳴らす。


これが、人を好きになるということか。


そして私は嫌というほど思い知らされることになる。父上から受け継いだ遺伝子がさらに強化され、私の中に組み込まれていたということに。
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