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7.アリシアの想いに触れて
「なあ、あいつからの返信はまだか?」
「はい、それがまだ何も……」
「そうか、何か届いたらすぐ持ってきてくれ」
「かしこまりました」
ケインが頭を下げて、部屋を出ていく。
事件から10日。
マークとアリシアの婚約が無かったことになってからは一週間が経っていた。
この一週間、マークは毎日自分で書いた手紙とアリシアのために用意させた花束をブルーベル子爵家へ送った。
けれどアリシアからの返信はまだない。
ずっと部屋に閉じ込められているマークは、ケインに言ってこれまでアリシアから送られてきた手紙を持って来させた。
そうしてこの数日、退屈しのぎにあれこれと手に取っては目を通している。
◇
『私の一番すきな色は、マークさまのひとみと同じきみどり色です』
(ふーん……)
『マークさまのすきな色も私のひとみの色でしょう? なーんて、ほんとは知っております。マークさまはオレンジ色がお好きでしょう?』
(なぜ知っているんだ。まあ、お前の瞳の色も別に嫌いじゃないけどな)
『お風邪を召されたと聞きました。心配で夜も眠れません。できるなら代わって差し上げたい。どうか早く良くなって、元気なお顔を見せてください』
(……仮病だ、馬鹿が)
『贈ってくださった髪飾り、とっても気に入りました! 嬉しくて毎日着けています』
(どんな髪飾りだったんだ? ケインに聞けばわかるだろうか?)
『ハンカチに刺繍を入れました。たくさん送るので入学したら学園で使って頂けませんか? ちなみに私とお揃いです』
(ああ、あれか……)
『今年の誕生日もお祝いをありがとうございました。でも、贅沢を言わせて頂けるなら、ひと目でもマーク様にお会いしたかったです』
(………………)
『来週から学園生活が始まりますね。これからは毎日マーク様にお会いできるなんて、もう嬉しすぎて倒れそう!』
(…………おいおい)
『マークさま、だーいすき』
『マーク様、大好きです』
『マーク様、お慕いしております』
◇
ーーコンコン
「ケインです」
「入れ」
言いながらマークは自らドアを開けてやった。
なんとなくいい知らせのような気がしてケインを見ると、手にはピンクの封筒を持っている。
「来たか!」
「あ、それが……」
待ちきれずにケインの手から封筒を奪い、便箋を取り出す。
『もー、サイアク~。マークがいなくて超つまんない。
あ、でもアリシアがいないのはサイコーだよ! あの人、あれからまだ学校来てないんだよ? どうせならこのままずっと来ませんように☆
またラヴィアンのいちごタルト食べたいなぁ。あ、ブルースターの新作ネックレスも買ってくれたらキャロル喜ぶかもよ?
夏の舞踏会にはキャロルをエスコートしてね。ドレスはまたブティック「レリアーヌ」のオーダーメイドがいいなぁ。色はピンクがいいかも。オレンジはやめてね、嫌いなの。グリーン系もキャロルには似合わないからダメ。
あと4日だよね?
じゃあその日は放課後デートだよ☆
あなたのかわいいキャロルより』
「なんだこれは……」
「キャロル様から、です」
「そんなことわかっている」
マークはガックリと項垂れた。
「すみません」
ケインが謝ると、マークが苦笑しつつ言った。
「いや、僕の早とちりだ。それにしてもキャロルってこんなだったか?」
「こんな、とは?」
「なんというか……」
それ以上言葉が出てこなかった。直前までアリシアからの手紙を読んでいたからか、内容にしても書かれた字の丁寧さにしても、アリシアとの差が際立ってしまった。
「お慕いしております……か」
「はい?」
「いや、あいつもまだ学園に来ていないらしい。僕のせいだな……婚約も無くなってしまって、辛くて伏せっているのかもしれん」
キャロルの手紙を丸めてくずかごに投げ込んだマークは、アリシアに想いを馳せながら長い長い溜息をついた。
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