アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん

文字の大きさ
18 / 28
続編 クライドル学院にて

5. まさかの……

しおりを挟む


(私ったらあの時どうしてあんなこと……)

 朝、ギルベルトとのことがあってから、アリシアはかなり緊張して登校したのだけれど。

「おっ、おはようございます」
「ああ」

 すでに着席し、窓の外を見つめていたギルベルトだったが、いつもの無表情で返事をするとすぐにまた窓の外へと視線を戻した。

 
 ギルベルトのことはまだ何も知らないアリシアだけれど、どうしてか今、彼はあえて素気なく振る舞ってくれているのだとそんな気がした。

(ギルベルト様だって驚いたでしょうに……)

 短く刈られた彼の銀髪を見つめている自分に気づいて、アリシアはぶんぶんと首を横に振った。


「おはよー、アリシアちゃん」
「おはよう、アリシア嬢」

「あ、ユリウス様にヨルン様、おはようございます。本日もよろしくお願いします」

 そして、彼らと共に過ごす転入四日目が始まった。

 



「あの、もし良かったら今日は僕達とランチをご一緒しませんか?」

 昼時間。
 ランチルームに着くとアリシアは同じクラスの男子にそう声を掛けられた。
 
 実は彼、ずっと前のほうの席からチラチラと振り返ってはアリシアのことを気にかけていた。そのことにアリシア自身も気がついていたのだが。

「そういうの困るなぁ」
「そうですよ、僕達もまだアリシア嬢との信頼を構築している段階ですからね」

 ユリウスとヨルンが、提案してきた男子生徒にそう答えた。

 少し離れたテーブルには、こちらの様子を伺う三人の男子生徒がいる。
 きっと彼の友人達なのだろう。

(転校生だから、前後左右だけでなく皆さんで気を遣ってくださるのかしら……??)


「君達はもう何日も彼女と同席させてもらっただろう? そろそろ交代してもいいんじゃないか? 僕らにもチャンスをくれないと」

 食い下がる彼の言葉に、アリシアは少し違和感を覚えた。


「えー、いやだね」
「まだ四日目ですよ?」

 ユリウスとヨルンがそれぞれ断りを伝える。

「……はぁ。わかったよ。じゃあ来週から僕らと交代ってことで頼むよ。アリシアさんも、来週からよろしくね」

 そう言って、彼はニコッと笑って仲間達の待つテーブルへと戻って行った。
 アリシアがそのまま彼らを見ていると、残りの三人が手を振ってきたので、とりあえず手を振り返そうとしたのだが。


「行こう」
「あっ」

 アリシアが振りかけた右手を、ギルベルトがその大きな手でそっと掴んだ。
 
「あっ、ちょっ、ギルベルト!」
「抜け駆けとはずるいですよ!」

 ユリウスとヨルンが、慌ててついてくる。

「飯食う時間がなくなる」
「わわっ」

 アリシアはそのままギルベルトに優しく手を引かれながら、いつも座るテーブルへと連れて行かれてしまった。



 
「ギルベルトはもっと女性に対する接し方を学ぶべきですよ?」
「そうだ、そうだ。こないだもそうだったけど、君はいちいち距離が近いんだよ。あと、いきなり女の子の手に触れちゃダメだから!」

 食事を取りながら、ヨルンとユリウスが先程のギルベルトの行動を注意している。

 そんな二人の注意を素知らぬ顔で抜け流し、今日もギルベルトは目の前の山盛りランチを黙々と食べ進めていた。


(手が……大きいのね)

 背の高いギルベルトは手も随分大きかった。
アリシアは先程彼の手に包まれた右手に、自分の左手でそっと触れてみた。
 
(違う、こんなに柔らかくなかったわ……)


「ーーシア嬢?」
「おーい、アリシアちゃん?」

 呼ばれてハッと顔を上げると、ヨルンとユリウスが心配そうにアリシアを見ていた。

「あ、ごめんなさい。考え事をしていました」

 アリシアは答えながら何となくギルベルトを窺うと、彼もこちらを見ていたようだったが、アリシアと目が合った途端ふいと逸らされてしまった。


「何か悩みごと?」

 まさかギルベルトの手の大きさと手のひらの感触について考えていたなんて言えるわけもなく。
 アリシアは先程の男子生徒からの誘いについて聞いてみることにした。
 

「あの、先程の彼のお誘いなのですが、やっぱり私の学生生活をサポートする目的があってのことですよね?」

「ん? どゆこと?」
「と、言いますと?」
「……??」

 三者三様の答えが返ってきて、とりあえずアリシアは続ける。

「その、ロスヴィータ様たちが教えてくださったのですが、皆さまが私に良くしてくださるのは全て学院の方針である、『紳士教育の一環』だと伺いましたが……違うのでしょうか?」

 アリシアは喋りながらも、彼ら三人の表情が残念な子を見る時のメリルのそれを彷彿させて、なんだか最後は小声になってしまった。


「あー、そうだね。確かに学院の方針ではあるね」
「ですがあくまで名目上ですよ。実際の目的はまあ、他にあるんです」

 ユリウスからヨルンへリレーしての説明に、アリシアは心のどこかに引っ掛かっていた違和感が浮上してくるのを感じた。


「それは……つまり……」

 どう切り出していいものか迷っていると、左からギルベルトが一言、スパンと気持ち良く言い切った。


「婚活だ」
「へ?」

 一番意外な人物からそんな言葉が聞こえて、思わずアリシアは聞き返してしまった。

しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

処理中です...