Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

文字の大きさ
12 / 76

9

「ルノー・メリアと申します。若輩者ではございますが、精一杯尽力して参ります。皆様ご指導のほど、何卒よろしくお願い致します」

昼休憩を挟み、皆が揃ったところで新人の紹介があった。
多くの者が居並ぶ中、堂々と、だが実に柔らかな表情でほわりと微笑む姿に、誰かが「ほぅ……」と感嘆の溜め息を零した。

(……可愛らしい子だな)

ルノー・メリア──彼に抱いた第一印象はそれだった。
見るからに柔らかそうなミルクティー色の髪の毛と、明るい月を思わせるような金色の瞳は、それだけで甘やかな印象を受けた。
ぱっちりと大きな瞳を縁取る睫毛は長く、柔和に微笑む唇は瑞々しく、整った顔立ちと色白の肌も相まって、まるで愛くるしい人形のようだった。
とはいえ骨格は男性のそれで、決して少女のような可憐さはないのだが、それでも真っ先に『可愛らしい』という感想を抱いた。
成人男性相手に失礼かもしれないが、チラリと周りを見渡せば、恐らく皆も似たような感想を抱いているのだろうことが手に取るように分かった。

「よろしくね、メリアくん」
「よろしくお願い致します、フラメル財務長」

傍らで和やかに挨拶を交わす二人を見ていると、彼が体ごと向きを変え、こちらを向いた。

「よろしくお願い致します、アルマンディン様」
「……ああ、よろしく」

身長差がある分、自然とこちらは彼を見下ろし、彼は自分を見上げる形になるのだが、微笑む金色の瞳に真っ直ぐに見つめられ、少しばかり狼狽えた。

(……ちゃんと、目を見て話す子なんだな)

驚きのような感情に、心臓がトクトクと鳴っている間に、フラメルの朗らかな声が響き渡った。

「メリアくんは今年学園を卒業したばかりの新人くんだ。初仕事で戸惑うこともあるだろう。皆には自分が成人したばかりの頃を思い出して、若い芽を伸ばす為の手助けをしてほしい。年の離れた弟や息子の成長を見守る気持ちで、色々教えてあげておくれ」

ニコニコといつもと変わらぬ様子でフラメルが語りかければ、皆口々に了承の返事を返し、メリアの挨拶は終わった。

「それじゃあ、午後の仕事を始めようか。ベルナールくん、後はお願いね」
「はい。いってらっしゃいませ」
「いってきま~す」

軽やかな足取りで部屋を出て行くフラメルの背を見送ると、傍らに佇むメリアに向き直った。

「メリアくん、まずは一通り部署の中や棟内を案内して、それから仕事の説明をしたいと思うんだが、いいかな?」
「はい」
「うん、それじゃあ行こうか」
「……アルマンディン様が、ご案内してくださるのですか?」

キョトリとした表情の彼に目を細めつつ、コクリと頷いた。

「新人の初日の案内は、財務長がする決まりなんだ。今日はフラメル様がいらっしゃらないから、私が代役だけどね」

流石に日々の教育や指導は他の者に任せるしかないが、だからこそ初日の案内だけは、新人との交流を深めるための一環として、父の前の代から長の仕事として決まったのだそうだ。
各部署の長や副長が新人の案内をするなど、なかなか無いことなのだろうな、とメリアの驚いた表情を見て察した。

「フラメル様のように上手くできないと思うんだが……分からないことがあれば、遠慮なく聞いてくれ」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」

ふんわりと微笑むメリアにホッと肩の力を抜くと、部屋の中から案内すべく、並んで歩き出した。



「こっちが資料室で、手前から奥に向かうほど年号が古い。持ち出す時はこちらに記帳して──」

それなりの広さがある部署を端から端まで周りつつ、所々で説明を挟んでいく。
メリアは真剣な表情で相槌を打ちながら、時たま質問を投げかけてくれた。黙って聞いてるだけということもできただろうに、あえて質問をしてくるのは、上司である自分の顔を立ててくれているのだろうと思うと、居た堪れない気持ちになった。

(気を遣わせてしまっているな……)

筋肉質で上背のある体は百九十cm近くある。隣を歩くメリアの頭が肩より少し上にあることを考えても、見下ろされた時の威圧感はそれなりにあるだろう。
流石に財務部のメンバーはもう慣れたもので、怖がられることもないが、初対面となれば話は別だ。マルクに「黙っていると怖い」と言われた顔も健在で、その気がなくとも相手を萎縮させてしまう。
メリアもさぞ居心地が悪いだろう、と説明はなるべく簡潔に済ませ、早く案内を終わらせようとしたのだが……

「アルマンディン様、あちらに置いてある書籍はなんでしょう?」
「こちらのお部屋はなんですか?」
「アルマンディン様、大変申し訳ございません。少しだけ歩くペースを落として頂いてもよろしいでしょうか?」

要所要所の説明だけに留めるつもりが、メリアからの質問は細かく、そのたびに足を止めた。
その分、気持ちが急いて、無意識の内に歩みが速くなれば、申し訳なさそうにメリアに指摘されハッとした。

「……すまない。言いにくいことを言わせてしまったな」
「いいえ、どうしても歩幅が合いませんから……失礼致しました」
「いや、言ってくれてありがとう」

……まさか、歩幅の違いではないとは言えない。
観念してゆったりとした歩みに切り替えれば、メリアがホッと表情を和らげた後、僅かに眉を下げた。

「お忙しい中、時間を割いてくださり、ありがとうございます。……もし、お急ぎのようであれば、気にせず仰ってくださいませ。分からないことがあれば、改めてどなたかに伺いますので……」
「いや、私のことは気にしなくていい。君の案内役を務めるのが、今の私の仕事だ。何か気になることがあれば、なんでも聞いてくれ」

一瞬「案内役を他の者に代わってほしいのだろうか」という邪推が過ったが、まるでメリアの表情に、気づけば思ったままを口にしていた。

「……ありがとうございます。嬉しいです、アルマンディン様」

嬉しいです──その言葉の意味がよく分からず、目を丸くするも、金色の瞳を輝かせて微笑むメリアは本当に嬉しそうで、その表情に少しばかりドキリとした。

(……本当に、可愛らしい子だ)

年上ばかりの部署で、きっと皆に可愛がられることだろう──そんなことをぼんやりと考えながら、案内を再開すべく、二人並んでゆっくりと歩き出した。
感想 37

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。