Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

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「おはようございます、アルマンディン様」
「アルマンディン様、何かお手伝いできることはございますか?」
「お茶はいかがですか? よろしければ、僕の分と一緒にお持ちします」

「……ありがとう。お願いしようかな」

メリアと私的な会話を交わしてから数日。あの日から、彼との距離は劇的に縮まった。



メリアの想い人について聞いた翌日、誰にも話さないから安心してほしい……と、そう伝えるつもりで話しかければ、パァッと花が咲いたような笑顔が返ってきた。

「アルマンディン様!」
「……、今、少しいいだろうか?」
「ええ、勿論です」

なぜそんなに嬉しそうなのだろう?
ニコニコと微笑むメリアを不思議に思いながらも、僅かに身を屈め、声のトーンを落としてコソリと話しかけた。

「昨日は、色々話してくれてありがとう。聞いたことは、誰にも言わないから安心してくれ」
「! ……ありがとうございます。是非、内緒のお話しにしてくださいませ」

困ったように笑うメリアに「勿論」と返しながら、それで話を終えるつもりだった。ところがそこでメリアに引き留められ、短い時間だが他愛もない話をした。
些細な会話だった。それでも初日以降、会話らしい会話はなく、前日の恋愛話が唯一だったことを思えば、その些細な会話すら新鮮に思えた。
もしや昨日の一件で、多少でも親しみを感じてくれたのだろうか──そうであったなら嬉しいな、と暢気に考えていたのだが、この日を境に、メリアから話し掛けられることが急激に増えていった。



(秘密を共有すると、親近感が湧くものだが……)

いつの間に好みを把握したのか、お気に入りの茶葉で淹れられた甘めのミルクティーを飲みながら、側を離れたメリアの姿を目で追った。
棟の中に備えられている簡易キッチンには専属メイドがいて、給仕をしてくれるのだが、一時は騎士団で生活していたこともあり、自分のことは自分でやった方が気が楽で、茶を淹れるくらいなら自身で用意していた。
どうやらその様子を見ていたらしいメリアが、ある日から「僕の分と一緒にご用意しますよ」と言って、お茶を淹れてくれるようになったのだ。
毎回という訳ではない。ただかなりの頻度で、メリアが淹れてくれるお茶を口にするようになった。
あくまで『メリアが自分の分を淹れるついでに』という体ではいるが、毎回「そろそろ一息つこうかな」と思ったタイミングで声を掛けられるのだ。
どう考えても、“ついで”というのは口実な気がしてならなかったが、野暮なことを言う気はなく、こちらが戸惑うほど懐いてくれた彼の好意に、素直に甘えることにした。

(彼の想い人について聞いただけで、何か手助けができた訳でもないんだがな……)

特別な助言をした訳でもない。応援する気はあるが、具体的に何かした訳でもない。にも関わらず、何事かと疑問に思うほど彼との距離は縮まった。
ただ話を聞いただけなんだが……と、恐縮してしまうほどの献身ぶりに、一度は「私のことは気にしなくていいよ」とやんわりと遠慮したのだが、見るからに落ち込み、悲しげな表情で俯かれ、あまりにも胸が痛むその姿を見て以降は、彼の望むまま、させたいようにさせているのが現状だった。
そうして気づけばメリアと会話をする機会は増え、彼が側にいる時間が自然と増えていた。
嫌ではないのだ。むしろとても助かっている。なにより、メリアが側にいるのは不思議と心地が良かった。

フラメルに「懐かれたねぇ」と言われて否定できないくらい、慕ってくれているのが分かる彼からの好意的な態度を、自分でも驚くくらい素直に嬉しいと思い、受け入れていた。
十代の頃は他者との関わりを怖がり、二十代前半でも他者を遠ざけ、半ばを過ぎてようやく他人ひとと関わることの楽しさと喜びを少しずつ学んだ。
二十代後半になって友人と呼べる者が数人できて、三十代になった今、真っ直ぐ向けられる親しみを込めた情を、素直に喜ばしいことだと受け取れるようになった。
我ながら遅い成長だと思うが、威圧的な見た目をものともせず懐いてくれるメリアに対し、自分も少しずつ絆されていたのだ。

恐らくは、メリアの容姿も関係していた。
柔らかそうなミルクティー色の髪の毛と、可愛らしい面立ち。嬉しそうに微笑む笑顔は愛らしく、それでいて甲斐甲斐しい姿に、感情が揺れないはずがないのだ。
まるで人懐っこい仔犬か仔猫が、懸命に後を追って駆けてくるような微笑ましさに、勝手に頬が緩んだ。
とは言え、メリアが成人男性であることは理解しているし、必要以上に頼るのは良くない。そう思いつつ、なかなか断れない彼の申し出に、どうしたものかと贅沢なことを悩むようになった。

(……美味しい)

いつの間にか飲み慣れていたメリアの淹れるミルクティーは、甘い蜜を溶かしたような味がした。



「アルマンディン様、途中までご一緒してもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ」

仕事を終え、帰り支度をしているところにメリアから声を掛けられ、共に部屋を出た。
こうしてメリアに誘われ、馬車に向かうまでの短い道のりを並んで歩くことにも、いつからかすっかり慣れてしまった。

「メリアくん、今日はありがとう。助かったよ」
「お役に立てて光栄です」

メリアが勤めるようになって早二ヶ月。一通りの作業はそつなくこなせるようになったメリアは、元からの優秀さも相まって、既に戦力として充分過ぎるほどの働きをしていた。今日も細々とした雑務を手伝ってくれ、非常に助かったのだ。

「帰りが遅くなってしまって、すまなかったね」
「いいえ、アルマンディン様とご一緒できるお時間が増えて嬉しいです」
「……そう、か。それなら……」

(……良かったのか?)

メリアに慕われている自覚はあるが、最近では彼の言葉も随分とストレートになってきて、いちいちドキリとすることが増えた。

(勘違いしてしまう者もいるよ、と言うべきだろうか? いや、流石に差し出口が過ぎるかな……)

う~ん……と悩みつつも、あえて余計なことは言わないでおこう、と話を切り替えた。

「明日は、メリアくんの歓迎会だな」
「はい。皆様にはとても良くして頂いて、感謝しております」

既にメリアが配属されてから二ヶ月が過ぎているが、なにかと忙しい春先で時間が取れず、随分と遅くなってからの新人歓迎会となってしまった。
それでも、既に馴染んだとはいえ、最年少のメリアは相変わらず皆に可愛がられており、今回の歓迎会も財務部のの者が参加予定だと聞いていた。

「食事がとても美味しい店らしいね」
「はい。フラメル様のご紹介だと聞いているので、とても楽しみです」

フラメルは美味しい物に目が無い。よくあちらこちらの店を出入りしているらしい。きっとメリアも楽しみにしていたのだろうと、頬が緩んだ。

「メリアくんの歓迎会だ。

そう何気なく呟いた途端、それまでニコニコと微笑んでいたメリアの顔からフッと笑顔が消え、歩みが止まった。

「……アルマンディン様は、いらっしゃらないのですか?」
「あ、ああ……明日は予定が入っていて……」

すまないね──そう続けるはずだった言葉は、眉を下げ、悲しげな表情で悄気しょげ返るメリアを前に、あまりの罪悪感からすぐに口にすることができなかった。
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