22 / 76
18
「……王弟殿下に、ご挨拶申し上げます」
叶うことならば無視してこの場を立ち去りたかったが、相手が相手ではそうもいかない。
リオネルと共に頭を下げれば、ジッとこちらを見つめる視線が突き刺さった。
「黒獅子様からご挨拶を頂けるとは光栄だな」
「お戯れを。懐かしい名ではございますが、しがない文官には些か荷が重く、汗顔の至りでございます」
「何を言う。姫を救った英雄がそのように謙遜をするな。嫌味に聞こえるぞ?」
「心からの誠にございます、王弟殿下」
どう答えてもつっかかってくるのはそちらだろう……そんな思いを淡い微笑みで整えた表情筋の下に隠し、心の内で盛大に溜め息を吐いた。
オードリックの弟であり、第二王子であったマクシミリアン王弟殿下は、どうにも自分と反りが合わなかった。というより、一方的に目の敵にされていた。
一歳年上のマクシミリアンは、学生時代、一学年上に在籍していた。第二王子が在籍していたことは知っていたが、学年も異なり、自分自身、他者との関わりを最小限にしていた為、その存在をまったく気にしていなかった。
だが周囲にDomと勘違いされていたこの頃、Sub性の令嬢や子息からは熱いアプローチを受け、山のように縁談の話が来ていたのだが、どうやらこのことが、Domであることを公言していたマクシミリアンのプライドを刺激してしまったらしいのだ。
第二王子である彼にも、多くの縁談話があっただろうに、同じだけSubの関心を引いてしまっていた自分に、一方的なライバル心を燃やしていたのだそうだ。
そんなこととは露知らず、なるべく他人との距離を取ろうとしていた為に、縁談話も全て断っていたのだが、断った者の中にはこちらがダメならあちらに……とマクシミリアンに鞍替えした者も多く、それがまた彼にとっては面白くなかった。
面倒なことに、成績も自分のほうが良く、第二王子である彼よりも高く評価されていたことで、自分の知らないところで勝手に敵視されていたらしい──という話を、オードリックを含めた複数人から過去のこととして教えられた。
それでもこの頃はまだ何事もなかった。
だが六年前、お仕えしていた王女殿下の輿入れの日に起こった事件がキッカケで、彼の態度は一変した。
国を上げての凱旋パレードで、自分は一時的に注目を集めしまい、それと相反するように、マクシミリアンの影は薄くなった。
間の悪いことに、婚約を発表したばかりだったマクシミリアンの話題は、あっという間に塗り替えられ、人々は口々に『ベルナール・アルマンディン』の名を上げ、褒めそやした。
それまで積み重なっていた自分に対する鬱憤が、この時に彼の中で爆発したのだろう。
以降は顔を合わせれば難儀なつっかかりを受け、いつしか勝手に付けられた『黒獅子』という二つ名を嫌味のように呼ばれるようになった。
六年も前の出来事で、今は騎士団からも退いた者に対し、その名で呼ぶ者はもういない。
流石に覚えている者はまだ多く、平民達の間では英雄譚のように脚色して語られているが、少なくとも王城内では今はただの文官だ。にも関わらず、相変わらず敵対心剥き出しで絡んでくるマクシミリアンに、流石にうんざりしていた。
(私だって、目立ちたくて目立った訳じゃない……)
上からの命令でどうしようも無かったのだ。文句なら前国王である貴方の父君に言ってくれと思う。
勿論、そんなことが言えるはずもなく、微笑みと殊勝な態度で、マクシミリアンが立ち去るのを待つだけだった。
結局、婚約の話も白紙となり、それからは自分と同じ独り身だが、数多の相手との噂が絶えない色男に何故こんなにもやっかみを受けなければいけないのか、心底理解できなかった。
見目麗しい男盛りなのだから、いい加減こんな大男のことなど取るに足らないものとして放っておけばいいだろうに……そう思うも、立場的に言えないのが歯痒い。
オードリックに苦情でも言いにいこうか……そんなことを考えている間も、マクシミリアンの嫌味は続いていた。
「相変わらず騎士団にも顔を出しているようだが、少し出しゃばりが過ぎるのではないか? 英雄だからと大きい顔をしたいのかもしれないが、もう少し恥じというものを知った方が身の為だぞ」
「左様でございますね。ご忠告、痛み入ります」
騎士団に出入りしているのは貴方の兄君の付き添いなのだが……やれやれと思っている隣で、リオネルが眉を顰め、マクシミリアンを睨めつけていた。
聞いてて気持ちの良いものではないだろうが、その表情は流石にまずい。そう思い、早々にこの場を立ち去るべく、マクシミリアンの話を遮った。
「申し訳ございません、殿下。私も彼も人を待たせておりますので、これにて失礼致します」
普段はこのように無理やり話を切り上げたりしないのだが、同行者がいては話は別だ。会釈をし、リオネルを伴ってその場を離れようとした。
「待て! その態度はなんだ、無礼だぞ」
背後からマクシミリアンの不機嫌な声が聞こえ、呆れ半分で振り返る。
大した話などしていないのだからこのまま行かせてくれ……そう思いながら振り返れば、マクシミリアンの腕がこちらに伸びてくるのが見えた。
「──ベルナール様」
マクシミリアンの手が腕を掴もうと触れそうになった瞬間、背後から聞こえた声に、パッと後ろを振り返った。
「……メリアくん」
「如何なさいましたか? 陛下がお待ちでいらっしゃいますよ」
にっこりと微笑んだメリアは、チラリとマクシミリアンに視線を移すと瞳を細めた。
「……王弟殿下、ベルナール様はお急ぎでいらっしゃいます。何かご用事であれば、私が代わり承りましょう」
柔らかな声なのに、体の芯がスゥッと冷えるような不思議な響きに、ふるりと身を震わせていると、背後から小さな舌打ちが聞こえた。
「……お前なんぞに用はない」
「ふんっ」と鼻を鳴らし、去っていくマクシミリアンを茫然と見つめていると、メリアが近づいてくる音が聞こえた。
「大丈夫ですか? ベルナール様」
「あ……ああ、大丈夫だ」
「アルマンディン様、本当に大丈夫ですか?」
「ああ。……リオネルも、嫌な話を聞かせてしまって悪かったな」
「俺は全然大丈夫です! それより、王弟殿下はなぜあのような……」
「申し訳ございません。そのお話はまた改めて……」
言葉を遮るようなメリアの声に、リオネルはハッとして半歩下がった。
「失礼しました! お急ぎのご用事があるのでしたよね!」
「いや……うん、そうだな。休憩前にすまなかったな」
「いえ、俺のことはお気になさらず! アルマンディン様も、王弟殿下の仰ってたことはお気になさらないでくださいね」
「ああ、ありがとう」
彼の気遣いに礼を言えば、綺麗な騎士の礼を取り、リオネルもその場を去っていった。そうして人気が無くなるのを待ってから、隣に立つメリアを見つめた。
「……助けてくれて、ありがとう」
声を掛けるタイミングから、マクシミリアンの粘着から助けてくれたのは明らかだった。
安堵と共に感謝の気持ちを伝えれば、金色の瞳が嬉しそうに微笑んだ。
「ベルナール様がお困りのようでしたので……お役に立てたのなら嬉しいです」
「とても助かったよ」
「……王弟殿下は、いつもあのようにベルナール様を困らせていらっしゃるのですか?」
「いつもというか……うん、まぁ……」
否定ができないのがなんとも言えない。苦笑しつつ言葉を濁せば、メリアの表情が僅かに曇った。
「よろしければ、またお話を聞かせてくださいませ。僕でよければ、いくらでもお力になります」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで心強いよ」
メリアの優しさにほわりと胸が温かくなるのを感じながら、さて、と姿勢を正した。
「そろそろ行こうか。フラメル様がお待ちだ」
「ふふ、そうですね」
人を待たせていたのは本当だが、待ち人はオードリックではなくフラメルだ。あそこで陛下の名を出したのは、マクシミリアンを追い払う為のメリアの機転だろう。
互いに内緒話を楽しむように笑い合うと、並んで廊下を歩き出した。
──視界の下、自分の見えないところで、メリアがマクシミリアンが立ち去った方角を冷めた目で睨んでいたことなど、これっぽっちも気づかなかった。
叶うことならば無視してこの場を立ち去りたかったが、相手が相手ではそうもいかない。
リオネルと共に頭を下げれば、ジッとこちらを見つめる視線が突き刺さった。
「黒獅子様からご挨拶を頂けるとは光栄だな」
「お戯れを。懐かしい名ではございますが、しがない文官には些か荷が重く、汗顔の至りでございます」
「何を言う。姫を救った英雄がそのように謙遜をするな。嫌味に聞こえるぞ?」
「心からの誠にございます、王弟殿下」
どう答えてもつっかかってくるのはそちらだろう……そんな思いを淡い微笑みで整えた表情筋の下に隠し、心の内で盛大に溜め息を吐いた。
オードリックの弟であり、第二王子であったマクシミリアン王弟殿下は、どうにも自分と反りが合わなかった。というより、一方的に目の敵にされていた。
一歳年上のマクシミリアンは、学生時代、一学年上に在籍していた。第二王子が在籍していたことは知っていたが、学年も異なり、自分自身、他者との関わりを最小限にしていた為、その存在をまったく気にしていなかった。
だが周囲にDomと勘違いされていたこの頃、Sub性の令嬢や子息からは熱いアプローチを受け、山のように縁談の話が来ていたのだが、どうやらこのことが、Domであることを公言していたマクシミリアンのプライドを刺激してしまったらしいのだ。
第二王子である彼にも、多くの縁談話があっただろうに、同じだけSubの関心を引いてしまっていた自分に、一方的なライバル心を燃やしていたのだそうだ。
そんなこととは露知らず、なるべく他人との距離を取ろうとしていた為に、縁談話も全て断っていたのだが、断った者の中にはこちらがダメならあちらに……とマクシミリアンに鞍替えした者も多く、それがまた彼にとっては面白くなかった。
面倒なことに、成績も自分のほうが良く、第二王子である彼よりも高く評価されていたことで、自分の知らないところで勝手に敵視されていたらしい──という話を、オードリックを含めた複数人から過去のこととして教えられた。
それでもこの頃はまだ何事もなかった。
だが六年前、お仕えしていた王女殿下の輿入れの日に起こった事件がキッカケで、彼の態度は一変した。
国を上げての凱旋パレードで、自分は一時的に注目を集めしまい、それと相反するように、マクシミリアンの影は薄くなった。
間の悪いことに、婚約を発表したばかりだったマクシミリアンの話題は、あっという間に塗り替えられ、人々は口々に『ベルナール・アルマンディン』の名を上げ、褒めそやした。
それまで積み重なっていた自分に対する鬱憤が、この時に彼の中で爆発したのだろう。
以降は顔を合わせれば難儀なつっかかりを受け、いつしか勝手に付けられた『黒獅子』という二つ名を嫌味のように呼ばれるようになった。
六年も前の出来事で、今は騎士団からも退いた者に対し、その名で呼ぶ者はもういない。
流石に覚えている者はまだ多く、平民達の間では英雄譚のように脚色して語られているが、少なくとも王城内では今はただの文官だ。にも関わらず、相変わらず敵対心剥き出しで絡んでくるマクシミリアンに、流石にうんざりしていた。
(私だって、目立ちたくて目立った訳じゃない……)
上からの命令でどうしようも無かったのだ。文句なら前国王である貴方の父君に言ってくれと思う。
勿論、そんなことが言えるはずもなく、微笑みと殊勝な態度で、マクシミリアンが立ち去るのを待つだけだった。
結局、婚約の話も白紙となり、それからは自分と同じ独り身だが、数多の相手との噂が絶えない色男に何故こんなにもやっかみを受けなければいけないのか、心底理解できなかった。
見目麗しい男盛りなのだから、いい加減こんな大男のことなど取るに足らないものとして放っておけばいいだろうに……そう思うも、立場的に言えないのが歯痒い。
オードリックに苦情でも言いにいこうか……そんなことを考えている間も、マクシミリアンの嫌味は続いていた。
「相変わらず騎士団にも顔を出しているようだが、少し出しゃばりが過ぎるのではないか? 英雄だからと大きい顔をしたいのかもしれないが、もう少し恥じというものを知った方が身の為だぞ」
「左様でございますね。ご忠告、痛み入ります」
騎士団に出入りしているのは貴方の兄君の付き添いなのだが……やれやれと思っている隣で、リオネルが眉を顰め、マクシミリアンを睨めつけていた。
聞いてて気持ちの良いものではないだろうが、その表情は流石にまずい。そう思い、早々にこの場を立ち去るべく、マクシミリアンの話を遮った。
「申し訳ございません、殿下。私も彼も人を待たせておりますので、これにて失礼致します」
普段はこのように無理やり話を切り上げたりしないのだが、同行者がいては話は別だ。会釈をし、リオネルを伴ってその場を離れようとした。
「待て! その態度はなんだ、無礼だぞ」
背後からマクシミリアンの不機嫌な声が聞こえ、呆れ半分で振り返る。
大した話などしていないのだからこのまま行かせてくれ……そう思いながら振り返れば、マクシミリアンの腕がこちらに伸びてくるのが見えた。
「──ベルナール様」
マクシミリアンの手が腕を掴もうと触れそうになった瞬間、背後から聞こえた声に、パッと後ろを振り返った。
「……メリアくん」
「如何なさいましたか? 陛下がお待ちでいらっしゃいますよ」
にっこりと微笑んだメリアは、チラリとマクシミリアンに視線を移すと瞳を細めた。
「……王弟殿下、ベルナール様はお急ぎでいらっしゃいます。何かご用事であれば、私が代わり承りましょう」
柔らかな声なのに、体の芯がスゥッと冷えるような不思議な響きに、ふるりと身を震わせていると、背後から小さな舌打ちが聞こえた。
「……お前なんぞに用はない」
「ふんっ」と鼻を鳴らし、去っていくマクシミリアンを茫然と見つめていると、メリアが近づいてくる音が聞こえた。
「大丈夫ですか? ベルナール様」
「あ……ああ、大丈夫だ」
「アルマンディン様、本当に大丈夫ですか?」
「ああ。……リオネルも、嫌な話を聞かせてしまって悪かったな」
「俺は全然大丈夫です! それより、王弟殿下はなぜあのような……」
「申し訳ございません。そのお話はまた改めて……」
言葉を遮るようなメリアの声に、リオネルはハッとして半歩下がった。
「失礼しました! お急ぎのご用事があるのでしたよね!」
「いや……うん、そうだな。休憩前にすまなかったな」
「いえ、俺のことはお気になさらず! アルマンディン様も、王弟殿下の仰ってたことはお気になさらないでくださいね」
「ああ、ありがとう」
彼の気遣いに礼を言えば、綺麗な騎士の礼を取り、リオネルもその場を去っていった。そうして人気が無くなるのを待ってから、隣に立つメリアを見つめた。
「……助けてくれて、ありがとう」
声を掛けるタイミングから、マクシミリアンの粘着から助けてくれたのは明らかだった。
安堵と共に感謝の気持ちを伝えれば、金色の瞳が嬉しそうに微笑んだ。
「ベルナール様がお困りのようでしたので……お役に立てたのなら嬉しいです」
「とても助かったよ」
「……王弟殿下は、いつもあのようにベルナール様を困らせていらっしゃるのですか?」
「いつもというか……うん、まぁ……」
否定ができないのがなんとも言えない。苦笑しつつ言葉を濁せば、メリアの表情が僅かに曇った。
「よろしければ、またお話を聞かせてくださいませ。僕でよければ、いくらでもお力になります」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで心強いよ」
メリアの優しさにほわりと胸が温かくなるのを感じながら、さて、と姿勢を正した。
「そろそろ行こうか。フラメル様がお待ちだ」
「ふふ、そうですね」
人を待たせていたのは本当だが、待ち人はオードリックではなくフラメルだ。あそこで陛下の名を出したのは、マクシミリアンを追い払う為のメリアの機転だろう。
互いに内緒話を楽しむように笑い合うと、並んで廊下を歩き出した。
──視界の下、自分の見えないところで、メリアがマクシミリアンが立ち去った方角を冷めた目で睨んでいたことなど、これっぽっちも気づかなかった。
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。