Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

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理性と欲と本能と ※微R18

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(ああ、やってしまった)

首筋まで赤く染め、くったりとベッドの上に横たわるベルナール様を前に、無理をさせてしまったことを反省しつつも見惚れる。
厚い睫毛の先に付いた涙の雫。その光る粒に誘われるように指先を伸ばすと、小さな粒を掬い取り、舐め取った。
ほんのりとしょっぱくて、どうしようもなく甘美な味に、胸には幸福感が広がった。

(本当に、夢みたいだ)

たった今まで、夢にまで見た愛しい人の素肌に触れ、胸の小さな粒を弄り、鼓膜を犯していた。
露わになった胸は盛り上がり、綺麗に割れた腹筋はすべらかな肌で覆われ、眩暈がしそうなほど美しかった。
初めて触れた肌は、見た目よりも柔らかくて、ほんの少し表面を撫でただけで淡く染まり、愛らしく震えた。
漏れる嬌声はどうにかなってしまいそうなほど可愛くて、泣いて真っ赤に染まった顔はひどく扇情的で、正直それだけで達してしまいそうなほど興奮した。

(ベルが気を失ってくれて良かった)

本当は胸の粒だって、もっと虐めて、舐めて噛んで、泣いて嫌がるのを無視して、延々とイかせたかったが、初めてでそんなことをしたら、ベルナール様の身が保たなかっただろう。
言葉と吐息で耳を犯したのは、胸と同時に責めることで快楽の相乗効果を狙ったのだが、敏感な体には刺激が強すぎたようだ。

(もっと慎重にいじめてあげないと)

じっくり、ゆっくり、少しずつ快感に慣らしていき、強い絶頂を迎えても、意識を保っていられるように。
それでいて、うぶで純粋なまま、自分だけを求めるいやらしい生き物になるように──……

「……ッ」

ゾクリと背筋に走った快感に、奥歯を噛み締める。
漏れそうになったGlareグレアを抑える為、瞼を閉じると、ベッドに横たわるベルナール様に背を向けた。
千切れそうな理性と共に、ドクリ、ドクリと脈打つ熱が局部に集まる。既に固くなっていたそこは、簡単に屹立してしまいそうで、ゆっくりと深呼吸を繰り返すことで、気を落ち着かせた。
ベルナール様を襲いたくはない。いや、既に襲った後なのだが、先ほどのはちょっとした『お仕置き』のつもりで、それ以上手を出す気は最初からなかった。

(愛らしいが、純情すぎるのも考えものだな……)

ベッドに腰掛けながら、警戒心の欠片もなく楽しげに微笑んでいたベルナール様を思い出し、ふっと息を吐いた。



初めてのデートの日を迎えた今日。ベルナール様は、緊張と喜び、恥じらいを混ぜ合わせた面持ちで出迎えてくれた。
愛らしいその様子を目に焼き付けつつ、側に控えた家令と侍女長と思しき二人にチラリと視線を移す。
それとなく含みを持たせた言動でベルナール様を誘えば、二人とも僅かに表情を変えたが、次の瞬間には使用人の仮面を被っていた。
流石、侯爵家に仕えているだけのことはある。主人の『付き合い』に余計な口を挟まず、目を瞑る。
それでいて鋭い眼光は、もしも自分が『悪い虫』だったなら、即刻追い払われていたのだろうと察するには充分だった。

侯爵家の使用人達は、ベルナール様のダイナミクス性を知っていて、その上で誰もが固く口を閉ざしてきたのだ。
それが前当主による命令なのかどうかは定かではないが、少なくともSubという第二性に苦しんできたベルナール様を知っているからこそ、皆がこれ以上ベルナール様が傷つくことがないように、と秘密を守ってきたのだろう。
ベルナール様は、彼らが笑って見送ってくれることを純粋に喜んでいらっしゃったが、その水面下では、なんとも言えない緊張感が漂っていた。
ベルナール様を傷つけるようなことをすれば、ただでは済みませんよ──そんな声が聞こえてきそうな視線に見送られ、侯爵邸を出発した。


食事処に着き、ケーキを食べながらベルナール様の教育について話し始めれば、可愛い人は目に見えてしょんぼりとしてしまった。
話の内容はとても大事なことで、だからこそ一番始めに覚えてもらう為に、あえて『勉強』という言葉を使ったのだが、デートを勉強会と勘違いしてちまちまとケーキを食べる姿が愛らしくて、状況も忘れて興奮した。
ケーキを載せたフォークを差し出せば、素直に口を開け、『セックス』という単語だけで頬を赤らめ、動揺する。可愛さと色気が混じった様に、欲望と本能は簡単に膨れ上がった。

二人にとって初めての『Kneelおすわり』は、言葉にし難いほどの高揚感を生んだ。
カクリと膝から崩れ落ちるように足元に膝をついたベルナール様は、怯えと悦びに身を震わせながら呼吸を乱していた。
情交を思わせるその姿に、ドクドクと心臓が高鳴り、まるでそうすることが当然のように、噛み付くようにキスをした。
ベルナール様の口の中で、甘い唾液と自身の唾液を混ぜ合わせ、『飲め』という命令代わりに喉仏を撫でれば、コクリと嚥下する音が聞こえた。
糸を引く舌先をゆっくりと離せば、とろりと蕩けた臙脂色が間近に見えた。

「ルゥく、ルゥくん……っ」

──ああ、本当になんてお可愛らしいのだろう。
軽度のSub spaceに落ちているベルナール様に、本能が満たされていくのが分かった。
ベルナール様は、恐らくSub性の気質が濃い。にも関わらず、これまでSub特有の欲求不満や体調不良もなく過ごせてこれたのは、それだけ本能を拒絶する気持ちや恐怖心が強かったのだろう。
KneelおすわりとキスだけでSub spaceに入るSubは珍しく、よほどDomへの信頼と愛情が深くなければ、そうそう陥るものではない。
体を重ねたこともなければ、互いの相性確認も終えていない中、既に自分に対してそこまで身を委ねてくれていることに、ゾクリとした悦びが湧いた。

「気持ち良かった」と素直に口にするベルナール様が可愛くて、同時にきちんと自分のことも想ってくれている言葉が嬉しくて、本心から奉仕することで満たされるのだと伝えた。
肉欲は勿論ある。だがそれとは別に、ベルナール様が気持ち良くなられている姿を見るのが好きなのだ。
叶うならば、身も心もドロドロになるまで気持ち良いことだけを与えて、泣かせていじめたいと思っている。
そんな本心を柔らかな言葉で包み込んで伝えれば、返ってきたのは「好きにしてくれていいよ」という返事で、喜びよりも危うさに眉が下がった。

ああ、本当に、こんなに危うくて、よく今まで誰にも穢されず、清いまま生きてこれたものだ。
奇跡のような存在に感謝すると共に、きちんと教育を施そう、と改めて胸に留めた。


それから自身がオーナーを務める店に向かい、ベルナール様の装いを全身自分好みに変えた。
ベルナール様は、普段から一切の飾り気と色味を省いた服ばかりお召しになっている。
ストイックな装いも、凛々しい面立ちのベルナール様にはとても似合っていたが、自分の知る柔らかな雰囲気のベルナール様にはもっと可愛らしい服が似合う。そう思い、ベルナール様に似合うだろう色の布を集め、デザインを依頼し、刺繍を施した服を片っ端から作っていった。
サイズは侯爵家御用達の店に「内緒の贈り物にしたい」とベルナール様の身丈で一着拵えてもらい、それをバラすことでおおよその寸法を既に割り出していた。
そうして約三ヶ月、店の針子以外に、馴染みの工房にも依頼を出し、山のような服と装飾品を揃えてもらったのだ。そのどれもが少しだけデザインを変えた自分と揃いの一点物で、気づく者はすぐに気づくだろう装いにした。
そんなこととは知らず、着慣れていないデザインや色合いにばかりベルナール様は戸惑っていたが、必ず似合うだろうと確信を持って仕立てた服は、事実ベルナール様にとてもよく似合っていて、あまりの可愛らしさに惚れ惚れとした。
黒やグレーといった色合いの服ばかりお召しになっていたベルナール様が、アイボリーやピンクベージュという柔らかな色合いを纏っていると、それだけでガラリと雰囲気が変わる。
落ち着かない様子で恥じらう姿は、妙に色気があり、自分の色に染めることができた満足感と共に、僅かな焦りが生まれた。
ベルナール様の愛らしさに、周囲の者達も気づいてしまう──好意を向けられるのも、性的な目で見られるのも、想像するだけで我慢ならなかった。

「嬉しいですか? ベル」

湧いた独占欲から堪らず言葉を吐けば、愛しい人は僅かに目を見開いた後、愛しげに瞳を細めて微笑んでくれた。

「……私は、ルゥくんのものだって、言ってもらえてるみたいで、嬉しいよ」

優しい声は蜜よりも甘くて、湧き上がった濁った感情をサラリと溶かした。

ベルナール様は僕のものだ。

自分ばかりが愛しい、愛しいと求めているのではない。そんな自信と満足感に満たされたのだが……



ベッドの上、心地良く鼓膜を揺らす寝息を聞きながら、愛らしい寝顔を瞬きすら忘れて眺めた。
可愛い、可愛い、僕の恋人。身が焦がれるほど求めた愛しい人が、自分の領域であるベッドで眠る姿に、口角が上がるのを抑えられなかった。

恋愛事情に疎く、性知識に対してもどこか幼いベルナール様は、自身が性欲を向けられる対象であるという自覚がまるでない。
あまりにも無邪気な様子は、もしや自分をそういう対象として見ていないのではないかと不安になるほどで、焦燥感からつい『お仕置き』をしてしまったが、後悔はしていなかった。
ベルナール様の思考も理解できたし、気持ちも聞けた。
肉体の感度の良さも、いじめられて悦ぶSubの気質も、その濃さも確認できた。
ベルナール様からの愛情も、言葉と行動の両方で、深く感じられた。けれど──……

(まだ足りない)

もっともっと意識してほしい。
もっともっと欲してほしい。
僕から求めずとも、ベルナール様から自分を求め、「愛して」と甘えて鳴くように……

「っ……!」

今はまだ性に対して幼な子のようなベルナール様を、自分の手で淫らな生き物に変えていく過程は、想像するだけで気が昂り、ふるりと身が震えた。
深呼吸で昂りを抑えながら、ベルナール様の寝顔から視線を逸らすと、淫靡な妄想をゆっくりと思考から切り離した。

(焦るな。じっくり進めないと)

性行為に慣らしつつ、同時にセーフワードを言う練習もさせなければいけないのだ。
セーフワードとは、Domのプレイが行き過ぎてしまった場合に、Subが行為を中断させる為の大事な言葉だ。
予めセーフワードとなる単語を決めておき、Domはその単語を言われたら即座にプレイをやめなければいけない。
Subの望んでいない躾や、恐怖を覚える行為を避ける為のセーフワードだが、一部のSubはDomを想うあまり、セーフワードを口にすることそのものが精神的苦痛になってしまう。そして恐らく、ベルナール様はこの“一部のSub”に該当するはずだ。
『言っていいことなんですよ』と、そこから教え、躾ける必要があるだろう。

それと同時に、警戒心というものも覚えてもらわないといけない。
自身の魅力をまったく理解していないベルナール様は、無自覚な上に無防備だ。
Sub性を受け入れたことで、以前より格段に雰囲気の柔らかくなった可愛い人に、悪い虫が山ほど寄ってくるだろう。
本当は、その首を彩るcollar首輪を贈って、恋人がいるのだと、DomのいるSubなのだと、周りに知らしめてやりたい。「僕のものだ」と宣言して囲ってしまいたい。
だが今はまだ秘密の関係な上に、Sub性であることを公にすることで、わざとベルナール様を傷つける言葉を投げつける者が出てくる可能性があった。どこかの馬鹿王弟殿下のように。

だからと言って、可愛らしいベルナール様をなんの護りもないままになどしておけない。その為のお揃いの服だ。
さりげなく、だが堂々と揃いの服を身に付けていれば、薄く、広く、自分とベルナール様の仲をアピールができて、極上の花に近寄ろうとする虫除けもできる。素晴らしい策だ。

(あとは……)

眠るベルナール様を見つめ、額に流れる艶やかな黒髪をそっと撫でた。

(貴方を手放す気はないと、きちんと分かってもらわないと)

ベルナール様は、二人の未来について話をする時、必ず少しだけ視線を落とすのだ。恐らく無自覚だろうその仕草から読み取れるのは諦念だ。
告白をしたあの日、ベルナール様は「断らなきゃ」と口にした。その言葉に含まれている意味や、ベルナール様の性格から考える不安や思考はなんとなく読める。だが読めるだけだ。到底受け入れられるものでも、許せるものでもない。

「……絶対に、離しませんよ」

指先に濡羽色の髪の毛を絡ませ、囁くように呟く。
例え周囲の誰がなんと言おうと、離れる気もなければ、手放す気もないのだ。勿論、ベルナール様から離れていこうとすることだって許せない。
いざとなれば、二人で国を出てもいいのだ。侯爵家の跡取り問題については、解決済みだとベルナール様から聞いている。なんとかなるだろう。
ベルナール様は頑なに拒むだろうが、そうなったら攫ってしまって、攫った後に説得したっていい。説得させられるだけの自信はあるし、逃避行の為の資金だって潤沢にある。店を持ったのは、何もベルナール様の服を好きに作る為だけではないのだ。

(まぁ、それは最終手段かな)

己の欲望ばかりを優先して、ベルナール様を傷つけたくないし、嫌われたくもない。
言葉と行動と態度で、きちんと己の愛情を示して、分かってもらうつもりだ。

眠るベルナール様の額にキスを落とすと、ふと視界に映ったグラスを手に取り、中に残っていた水を飲み干した。
ベルナール様が飲み残した水。その唇が触れたグラスの縁をそっと舐めれば、感じるはずのない甘みが舌先に広がった。
視線を戻せば、毎日自分が眠っているベッドの上、布団に包まって眠るベルナール様が映る。
今夜、自分がベッドに入った時、ベルナール様の残り香に全身包まれる様を想像し、堪らず全身が粟立った。きっと今夜は興奮して眠れないだろう。精神的にも、肉体的にも。
純粋なベルナール様は、己が自慰行為のにされるなど露ほども思っていないだろう。

「……を目の前に、我慢したんですから、いいですよね?」

ささやかな『お仕置き』以上のこともしていないし、眠るベルナール様を襲うこともしていない。我慢した分のご褒美くらいはもらってもいいだろう。
ベルナール様を屋敷に帰した後も続く楽しみに口角が上がるのを感じつつ、今後のベルナール様の教育について考える。
性的なことを覚えさせるのは勿論だが、体も思考も、少しずつ自分の色に染めていかなければ……そうして思考を巡らせ、ポツリと呟く。

「……自慰行為を禁止しようかな」

ベルナール様のことだ。自慰行為も最低限、生理現象を処理する程度だろう。初めての『命令』にしては少々ハードルが高めだが、禁止したところで、苦痛を生むような負担にはならないはずだ。
ベルナール様は支配されている状態を静かに維持でき、その上で、どうしても吐精が必要になったら、ベルナール様から求めてもらうことで、自身の欲求も満たされる。なかなか良い案に思えた。

(言ったら驚きそうだけど)

それでもベルナール様なら、きっと驚いた後に、顔を真っ赤にしながら頷いてくれるのだろう。
鮮明に想像できる愛らしい姿にクスリと笑みを零しつつ、眠る愛しい人を起こさぬよう、ベルナール様が目覚めるまで、静かにその寝顔を堪能し続けた。



約一時間後、目覚めたベルナール様とゆったりとお茶を楽しむと、夜の鐘が鳴る十分前に侯爵邸へとお送りした。
帰る馬車の中、自慰行為の禁止を『躾』として伝えれば、予想通り、ベルナール様は顔を真っ赤に染めた後、震えながら小さく頷いてくれた。

その姿は、想像していたよりもずっとずっと可愛くて、帰りの馬車で告げて良かったと心底思うほど、『もっといじめて』と言わんばかりの“僕のSub”の顔をしていた。










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内容的にえっちなことはしていないのですが、メリアくんの思考がセウト気味だったので、微R18にしました(*´∀`; )
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