Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

文字の大きさ
59 / 76

51 ※R18

しおりを挟む
「ひっ、あ、あ……!」

お仕置き宣言をされてから、どれほど時間が経っただろう。
あらゆる自由と時間感覚を奪われた暗闇と恐怖の中、延々と続く快楽に泣き続けていた。



あの後、ルノーに命じられるまま全裸になると、視線だけでベッドに行くよう命令された。
初めての命令らしい命令に怯えながら、震える足を奮い立たせ、なんとかベッドまで辿り着くと、ノロノロとその上に乗り上げた。
ここからどうすればいいのか……そう考える間もなく、手足を拘束され、視界を塞がれ、半ばパニックになりながらも耐える他なかった。

『僕の好きにしていいのでしょう?』

そう言われ、グッと唇を噛んだ。
好きにしていい、そう告げたのは紛れもなく自分で、それを嘘にする訳にはいかなかったからだ。
足を広げられ、局部をすべて曝け出す姿で体の自由を奪われ、心臓がはち切れんばかりに鼓動した。
羞恥と恐怖が綯い交ぜになり、Glareの圧とは異なる意味で体が震えたが、泣き言は言えなかった。
何をされるのか、これからどうなるのか、何もかも分からず、けれど問い掛けることも許されない中、荒々しい愛撫が始まり、そこからはただ鳴くことしかできなくなった。

いつもなら優しい手つきで撫でられる胸を強く揉まれ、僅かな痛みに眉根を寄せたのも束の間、寄せられた肉に鋭い痛みが走り、思わず悲鳴が漏れた。
ルノーに咬まれた──そう認識するよりも早く、痛みとショックで反射的に「やだ!」と言ってしまい、即座に後悔する。

『嫌がることは許さないと、言いましたよね』

責めるような声音に、また反射的に謝りそうになり、慌てて唇を噛んだ。

言いつけを破ってごめんなさい。
咬まれることが嫌な訳じゃない。
ただ少し、怖いだけ……

そう伝えたいのに、伝える術がなく、かと言って首を振って違う意味に捉えられてしまうことも恐ろしく、小さく唸ることしかできなかった。
その行為が正解だったのか、不正解だったのか、それすらも分からないまま、無言のまま愛撫が再開され、喘ぐ以外、何もできなくなった。

乳首を撫でられ、指先で捏ねられ、固くなった粒を強く吸われ、痛みに呻けば優しく舐め回された。その気持ち良さに少し気を抜けば、それを咎めるように歯を立てられ、そのたびに四肢が引き攣った。
視界を遮られた肌はいつもよりもずっと敏感で、痛みに対しても弱くなってしまう。
血が出るような鮮烈な痛みはない。けれど、間違いなく噛み跡が残るであろう強さで咬まれた肌は戦慄き、次にいつその衝撃がくるのだろうと身構えているだけで、精神が削れていくのが分かった。

ルノーの手によって完全な性感帯となった乳首をしつこいほどに弄られ、吸われ、充血して固くなった粒を咬まれ、痛みでジンジンと泣く肉を優しく舐められる。
痛みと快楽を交互に与えられ、怯えている間に幾度となく絶頂し、胸への愛撫だけで何度も吐精した。
胸周りや首筋、肩口、腹筋と、ありとあらゆる部位を強く吸われ、咬まれ、全身に痛みが広がっていく。
一瞬の痛みが過ぎれば、残るのは熱だけで、気づいた時には全身から汗が吹き出し、髪の毛は汗と涙でぐっしょりと濡れていた。
その間、ルノーは一言も声を発することなく、塞がれた視界では彼がどんな表情でいるのかも分からず、その心情を読み取ることは少しも叶わなかった。
気持ち良さと痛みと絶頂で体力も奪われていく中、なによりも恐ろしかったのは、拘束されていることでも、視界を塞がれていることでもなかった。


会ってから一度も、褒めてもらえない。


それが寂しくて、悲しくて、苦しくて、『心』がどんどんすり減っていった。
自分が悪いことをしたのだから、仕方ない……そう思う反面、いつもなら些細なことでも「良い子」と言って褒めてくれるルノーが、ただの一度も褒めてくれず、『お仕置き』だけを強要されている今に、言葉にし難い恐怖が滲み出す。
普段から、痛いことも、苦しいこともしないと言ってくれるルノー。そんな彼から与えられる初めての苦痛は、ただただ恐ろしかった。
ちゃんと言いつけを守ってるのに、ちゃんと反省してるのに、どうして褒めてくれないのか……褒められることは愛されることと同義であるSubとしての本能は耐え難い飢えに乾き、与えられる愛情不足から思考が鈍り始めた。



「やだ……! もうやだ……っ!」

ほとんど意識もないまま発した声に、愛撫が止む。けれど、それで安心できるはずがない。むしろ不安が増しただけだった。

「……どうして言いつけを守れないの?」
「ひっ、ご、ごめんなさ……、あっ!? やっ、いあぁぁっ!」

考える力など、ほとんど残っていなかった。
Glareの圧で潰され、絶頂で精神と体力は削られ、心はすり減っていく……そんな限界の中で、自身のカウパー液と精液でしとどに濡れ、調教済みのアナルに突然指を挿入され、驚愕から体が跳ねた。
いきなり二本の指で後孔を広げられ、驚きと息苦しさから反射的に足を閉じようとするも叶うはずはなく、拘束する布がギチリと鳴いただけだった。

「や、嫌だ! まって、まって……っ、ルゥくん……!」

乱暴に孔を広げられ、ナカに潤滑剤を注がれ、一気に指を三本に増やされて、抵抗する言葉を止められない。
潤滑剤で滑りの良くなった孔は、ほんの少し掻き混ぜられただけで柔らかくなり、グチュグチュと淫靡な音を漏らすだけの性器に変わった。

「ひっ!? や、まって! そこダメッ、ダメだから……!!」

ぐぷぐぷと奥を掻き混ぜていたルノーの指が、何かを探るように浅いところを撫で回し、ある箇所で抜き差しを止めた。
会陰の裏側、ペニスの付け根よりも浅い部分の膨らみ──前立腺と呼ばれるそこをグリグリと押され、拘束された手足がブルブルと震えた。

「ああぁぁぁっ!! ダメッ、そこダメ!! そこやめてぇ……っ!!」

初めて会陰を責められた時からバレていた弱い部分。そこを一点集中で苛められ、弱点を隠すことも、快楽を逃すこともできず、膨れた肉を容赦なく抉られるたびに絶頂し続けた。

「ダメ、ダメ、ダメ……ッ、イッちゃ……! ……あっ、やっ、やだ! ごめんなさいっ、ごめんなさい……!」

ルノーの言いつけを守る余裕なんてない。
途切れない絶頂に、恥もすべてかなぐり捨て、泣きながら動かせない手足をバタつかせた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、ルゥくん……っ!」

今こうしている間も、ルノーがどんな顔をしているのか、どういう気持ちでいるのか分からない。それが怖くて、謝ることを止められなかった。

「ごめんなさ……っ、ルゥく、こわい……っ、怖いから、もうやめてぇ……!」

情けないだとか、そんなことを考える余裕もない。
仕置き中だということも忘れて泣きじゃくれば、前立腺を押し潰していた指先の力がふっと緩んだ。

「……ベル」
「っ……!」

名前を呼んでもらえた。ただそれだけで、嬉しくてペニスの先端から涙が零れた。

「ル、ルゥく……」
「貴方は僕のものでしょう」
「え……?」

突然の発言に、一瞬呆ける。
なぜ、そんな当たり前のことを聞くんだろう──その一瞬の反応の遅さがいけなかったのか、Glareのオーラが強くなり、再び前立腺をグリリと潰された。

「ひっ!? やっ、まっで、ダメェ!!」
「違うの? ベルは僕のものじゃないの?」
「アッ、ルゥくっ、ルゥくんのものです! ルゥくんのものだから……っ!!」

そう答えても、指の動きは止まらず、強すぎる刺激に筋肉は引き攣り、肌がゾクゾクと粟立った。

「ルゥぐ……ッ、ルゥくんのものです……!」
「……僕のものなのに、どうして勝手なことするの?」
「ごめ、ひっ、ごめんなひゃい……っ」
「どうして僕の知らないところで、他の男と会うの?」
「あっ、ダメ、イクッ、ごめんなしゃ……!」
「どうして、僕を怒らせるの?」
「ごめんなさい……っ、ごめんなさ……!」
「こんなこと、したくないのに……!!」
「──!」

慟哭にも似た悲痛な叫びと共に、それまで全身に浴びていた怒りの感情が、別の色に変わった。


「ベルは僕のものなのに……っ、どうして僕から離れようとするんだ!!」


泣き声のようなその音に、連続絶頂でふやけていた思考が一瞬でクリアになる。

ああ、昨日の自分の行動は、愛するDomへの裏切り行為であり、ルノーを悲しませるものだったのだ──それに気づいた瞬間、火照っていた体が一気に冷えていった。
ルノーは、ただ怒っていたのではない。自身のSubの行動にショックを受け、深い悲しみが怒りに変わってしまうほどの激情に呑まれたのだ。

(……私のせいだ)

これまで一度も声を荒げたことがないルノーの大きな声が、鼓膜の奥でくわん……と反響する。
ああ、自分は本当に、なんて愚かなことをしてしまったのだろう。
罪悪感という言葉では言い表せないほどの後悔が押し寄せる中、きちんとルノーに謝りたくて、必死に声を振り絞った。

「ルゥ……ルゥくん、目隠しを、取ってく、ひゃうっ!?」

布で遮られたままの視界では、ルノーの顔が見えない。
愛しい人の顔が見たくて、泣いていないか心配で、目隠しを取ってほしいと願おうとするも、乱暴に引き抜かれた指によって嬌声が漏れた。
短時間で解された孔は刺激にヒクつき、軽く達してしまった衝撃に爪先が丸まった。

「……貴方に嫌われたら、生きていけないのに」
「はぁ……はぁ……、……?」

自身の荒い息遣いだけが聞こえる中、掠れた声がポツリと落ちた。
自分がルノーに嫌われてしまうならまだ分かる。だが、その逆なんて絶対にあり得ない。
ルノーがなぜ突然そのようなことを呟いたのか分からず、困惑している間に反応が遅れた。

「ルゥくん……? 何を言っ──ッ!?」

直後、ルノーが移動したような気配がして、その気を追うも、彼の体が広げた股の間に収まり、ヒュッと喉が鳴った。

「まって……待って、待ってくれ! ルゥくん!」

まさか、いや、そんな──即座に否定するような考えが浮かぶも、焦る気持ちが先に立つ。
よもや、このまま挿入するつもりでは……一瞬浮かんだ考えを肯定するように、解れた孔に固い肉が触れ、ビクリと体が跳ねた。

(嘘、待って、やだ!!)

咄嗟に叫んでしまいそうになった声をギリギリのところで飲み込むも、体はルノーを拒絶するように動いてしまう。

「待って!! ルゥくん待ってくれ!!」
「……そんなに僕に抱かれるのが嫌ですか?」
「違う!! そんなことない……っ!」

違うのだ。ルノーと繋がることも、抱かれることも、少しも嫌じゃない。
むしろ本来であれば、嬉しくて嬉しくて、これ以上ないほど幸せな気持ちになるはずだ。初めて互いの体を繋げる大事なことならば尚更、そうあってほしいのだ。

だからこそ、ルノーを悲しませ、怒らせ、謝罪も愛情も、何も渡すことができないまま、罰のように『初めて』を失いたくなかった。

「まってくれ! ルゥくん、違うんだ……!!」

その想いを伝えたいのに、焦る気持ちと行為を止めさせたい気持ちが拮抗して、「待って」と「違う」しか言えない。けれど「やめて」とルノーを拒絶するような言葉は言いたくなくて、いつの間にか止まっていたはずの涙が再び溢れた。

「お願い……! ルゥくん、話しを……っ」

待って、止まって、話しを聞いて……懇願する間も、眩暈がするような気持ち悪さに脳が揺れ、体がガクガクと震え出す。
こんな風に愛されるのは嫌だ──Subとしての本能か、ルノーへの愛情がそう思わせるのか、それすら分からない中、後孔に押し当てられた肉の先によって孔を広げられるような感覚がして、喉の奥で引き攣った音が鳴った。

お願い、お願い、やめて──緊張が限界まで達した刹那、思考が弾けた。



「ッ……!! 『ルノー』!!」
「──!!」



泣き叫ぶように発した二人のセーフワードに、空気が止まった。

シン……と静まり返った部屋の中、広がったのは安堵ではなく後悔だった。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...