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「ひっ、あ、あ……!」
お仕置き宣言をされてから、どれほど時間が経っただろう。
あらゆる自由と時間感覚を奪われた暗闇と恐怖の中、延々と続く快楽に泣き続けていた。
あの後、ルノーに命じられるまま全裸になると、視線だけでベッドに行くよう命令された。
初めての命令らしい命令に怯えながら、震える足を奮い立たせ、なんとかベッドまで辿り着くと、ノロノロとその上に乗り上げた。
ここからどうすればいいのか……そう考える間もなく、手足を拘束され、視界を塞がれ、半ばパニックになりながらも耐える他なかった。
『僕の好きにしていいのでしょう?』
そう言われ、グッと唇を噛んだ。
好きにしていい、そう告げたのは紛れもなく自分で、それを嘘にする訳にはいかなかったからだ。
足を広げられ、局部をすべて曝け出す姿で体の自由を奪われ、心臓がはち切れんばかりに鼓動した。
羞恥と恐怖が綯い交ぜになり、Glareの圧とは異なる意味で体が震えたが、泣き言は言えなかった。
何をされるのか、これからどうなるのか、何もかも分からず、けれど問い掛けることも許されない中、荒々しい愛撫が始まり、そこからはただ鳴くことしかできなくなった。
いつもなら優しい手つきで撫でられる胸を強く揉まれ、僅かな痛みに眉根を寄せたのも束の間、寄せられた肉に鋭い痛みが走り、思わず悲鳴が漏れた。
ルノーに咬まれた──そう認識するよりも早く、痛みとショックで反射的に「やだ!」と言ってしまい、即座に後悔する。
『嫌がることは許さないと、言いましたよね』
責めるような声音に、また反射的に謝りそうになり、慌てて唇を噛んだ。
言いつけを破ってごめんなさい。
咬まれることが嫌な訳じゃない。
ただ少し、怖いだけ……
そう伝えたいのに、伝える術がなく、かと言って首を振って違う意味に捉えられてしまうことも恐ろしく、小さく唸ることしかできなかった。
その行為が正解だったのか、不正解だったのか、それすらも分からないまま、無言のまま愛撫が再開され、喘ぐ以外、何もできなくなった。
乳首を撫でられ、指先で捏ねられ、固くなった粒を強く吸われ、痛みに呻けば優しく舐め回された。その気持ち良さに少し気を抜けば、それを咎めるように歯を立てられ、そのたびに四肢が引き攣った。
視界を遮られた肌はいつもよりもずっと敏感で、痛みに対しても弱くなってしまう。
血が出るような鮮烈な痛みはない。けれど、間違いなく噛み跡が残るであろう強さで咬まれた肌は戦慄き、次にいつその衝撃がくるのだろうと身構えているだけで、精神が削れていくのが分かった。
ルノーの手によって完全な性感帯となった乳首をしつこいほどに弄られ、吸われ、充血して固くなった粒を咬まれ、痛みでジンジンと泣く肉を優しく舐められる。
痛みと快楽を交互に与えられ、怯えている間に幾度となく絶頂し、胸への愛撫だけで何度も吐精した。
胸周りや首筋、肩口、腹筋と、ありとあらゆる部位を強く吸われ、咬まれ、全身に痛みが広がっていく。
一瞬の痛みが過ぎれば、残るのは熱だけで、気づいた時には全身から汗が吹き出し、髪の毛は汗と涙でぐっしょりと濡れていた。
その間、ルノーは一言も声を発することなく、塞がれた視界では彼がどんな表情でいるのかも分からず、その心情を読み取ることは少しも叶わなかった。
気持ち良さと痛みと絶頂で体力も奪われていく中、なによりも恐ろしかったのは、拘束されていることでも、視界を塞がれていることでもなかった。
会ってから一度も、褒めてもらえない。
それが寂しくて、悲しくて、苦しくて、『心』がどんどんすり減っていった。
自分が悪いことをしたのだから、仕方ない……そう思う反面、いつもなら些細なことでも「良い子」と言って褒めてくれるルノーが、ただの一度も褒めてくれず、『お仕置き』だけを強要されている今に、言葉にし難い恐怖が滲み出す。
普段から、痛いことも、苦しいこともしないと言ってくれるルノー。そんな彼から与えられる初めての苦痛は、ただただ恐ろしかった。
ちゃんと言いつけを守ってるのに、ちゃんと反省してるのに、どうして褒めてくれないのか……褒められることは愛されることと同義であるSubとしての本能は耐え難い飢えに乾き、与えられる愛情不足から思考が鈍り始めた。
「やだ……! もうやだ……っ!」
ほとんど意識もないまま発した声に、愛撫が止む。けれど、それで安心できるはずがない。むしろ不安が増しただけだった。
「……どうして言いつけを守れないの?」
「ひっ、ご、ごめんなさ……、あっ!? やっ、いあぁぁっ!」
考える力など、ほとんど残っていなかった。
Glareの圧で潰され、絶頂で精神と体力は削られ、心はすり減っていく……そんな限界の中で、自身のカウパー液と精液でしとどに濡れ、調教済みのアナルに突然指を挿入され、驚愕から体が跳ねた。
いきなり二本の指で後孔を広げられ、驚きと息苦しさから反射的に足を閉じようとするも叶うはずはなく、拘束する布がギチリと鳴いただけだった。
「や、嫌だ! まって、まって……っ、ルゥくん……!」
乱暴に孔を広げられ、ナカに潤滑剤を注がれ、一気に指を三本に増やされて、抵抗する言葉を止められない。
潤滑剤で滑りの良くなった孔は、ほんの少し掻き混ぜられただけで柔らかくなり、グチュグチュと淫靡な音を漏らすだけの性器に変わった。
「ひっ!? や、まって! そこダメッ、ダメだから……!!」
ぐぷぐぷと奥を掻き混ぜていたルノーの指が、何かを探るように浅いところを撫で回し、ある箇所で抜き差しを止めた。
会陰の裏側、ペニスの付け根よりも浅い部分の膨らみ──前立腺と呼ばれるそこをグリグリと押され、拘束された手足がブルブルと震えた。
「ああぁぁぁっ!! ダメッ、そこダメ!! そこやめてぇ……っ!!」
初めて会陰を責められた時からバレていた弱い部分。そこを一点集中で苛められ、弱点を隠すことも、快楽を逃すこともできず、膨れた肉を容赦なく抉られるたびに絶頂し続けた。
「ダメ、ダメ、ダメ……ッ、イッちゃ……! ……あっ、やっ、やだ! ごめんなさいっ、ごめんなさい……!」
ルノーの言いつけを守る余裕なんてない。
途切れない絶頂に、恥もすべてかなぐり捨て、泣きながら動かせない手足をバタつかせた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、ルゥくん……っ!」
今こうしている間も、ルノーがどんな顔をしているのか、どういう気持ちでいるのか分からない。それが怖くて、謝ることを止められなかった。
「ごめんなさ……っ、ルゥく、こわい……っ、怖いから、もうやめてぇ……!」
情けないだとか、そんなことを考える余裕もない。
仕置き中だということも忘れて泣きじゃくれば、前立腺を押し潰していた指先の力がふっと緩んだ。
「……ベル」
「っ……!」
名前を呼んでもらえた。ただそれだけで、嬉しくてペニスの先端から涙が零れた。
「ル、ルゥく……」
「貴方は僕のものでしょう」
「え……?」
突然の発言に、一瞬呆ける。
なぜ、そんな当たり前のことを聞くんだろう──その一瞬の反応の遅さがいけなかったのか、Glareのオーラが強くなり、再び前立腺をグリリと潰された。
「ひっ!? やっ、まっで、ダメェ!!」
「違うの? ベルは僕のものじゃないの?」
「アッ、ルゥくっ、ルゥくんのものです! ルゥくんのものだから……っ!!」
そう答えても、指の動きは止まらず、強すぎる刺激に筋肉は引き攣り、肌がゾクゾクと粟立った。
「ルゥぐ……ッ、ルゥくんのものです……!」
「……僕のものなのに、どうして勝手なことするの?」
「ごめ、ひっ、ごめんなひゃい……っ」
「どうして僕の知らないところで、他の男と会うの?」
「あっ、ダメ、イクッ、ごめんなしゃ……!」
「どうして、僕を怒らせるの?」
「ごめんなさい……っ、ごめんなさ……!」
「こんなこと、したくないのに……!!」
「──!」
慟哭にも似た悲痛な叫びと共に、それまで全身に浴びていた怒りの感情が、別の色に変わった。
「ベルは僕のものなのに……っ、どうして僕から離れようとするんだ!!」
泣き声のようなその音に、連続絶頂でふやけていた思考が一瞬でクリアになる。
ああ、昨日の自分の行動は、愛するDomへの裏切り行為であり、ルノーを悲しませるものだったのだ──それに気づいた瞬間、火照っていた体が一気に冷えていった。
ルノーは、ただ怒っていたのではない。自身のSubの行動にショックを受け、深い悲しみが怒りに変わってしまうほどの激情に呑まれたのだ。
(……私のせいだ)
これまで一度も声を荒げたことがないルノーの大きな声が、鼓膜の奥でくわん……と反響する。
ああ、自分は本当に、なんて愚かなことをしてしまったのだろう。
罪悪感という言葉では言い表せないほどの後悔が押し寄せる中、きちんとルノーに謝りたくて、必死に声を振り絞った。
「ルゥ……ルゥくん、目隠しを、取ってく、ひゃうっ!?」
布で遮られたままの視界では、ルノーの顔が見えない。
愛しい人の顔が見たくて、泣いていないか心配で、目隠しを取ってほしいと願おうとするも、乱暴に引き抜かれた指によって嬌声が漏れた。
短時間で解された孔は刺激にヒクつき、軽く達してしまった衝撃に爪先が丸まった。
「……貴方に嫌われたら、生きていけないのに」
「はぁ……はぁ……、……?」
自身の荒い息遣いだけが聞こえる中、掠れた声がポツリと落ちた。
自分がルノーに嫌われてしまうならまだ分かる。だが、その逆なんて絶対にあり得ない。
ルノーがなぜ突然そのようなことを呟いたのか分からず、困惑している間に反応が遅れた。
「ルゥくん……? 何を言っ──ッ!?」
直後、ルノーが移動したような気配がして、その気を追うも、彼の体が広げた股の間に収まり、ヒュッと喉が鳴った。
「まって……待って、待ってくれ! ルゥくん!」
まさか、いや、そんな──即座に否定するような考えが浮かぶも、焦る気持ちが先に立つ。
よもや、このまま挿入するつもりでは……一瞬浮かんだ考えを肯定するように、解れた孔に固い肉が触れ、ビクリと体が跳ねた。
(嘘、待って、やだ!!)
咄嗟に叫んでしまいそうになった声をギリギリのところで飲み込むも、体はルノーを拒絶するように動いてしまう。
「待って!! ルゥくん待ってくれ!!」
「……そんなに僕に抱かれるのが嫌ですか?」
「違う!! そんなことない……っ!」
違うのだ。ルノーと繋がることも、抱かれることも、少しも嫌じゃない。
むしろ本来であれば、嬉しくて嬉しくて、これ以上ないほど幸せな気持ちになるはずだ。初めて互いの体を繋げる大事なことならば尚更、そうあってほしいのだ。
だからこそ、ルノーを悲しませ、怒らせ、謝罪も愛情も、何も渡すことができないまま、罰のように『初めて』を失いたくなかった。
「まってくれ! ルゥくん、違うんだ……!!」
その想いを伝えたいのに、焦る気持ちと行為を止めさせたい気持ちが拮抗して、「待って」と「違う」しか言えない。けれど「やめて」とルノーを拒絶するような言葉は言いたくなくて、いつの間にか止まっていたはずの涙が再び溢れた。
「お願い……! ルゥくん、話しを……っ」
待って、止まって、話しを聞いて……懇願する間も、眩暈がするような気持ち悪さに脳が揺れ、体がガクガクと震え出す。
こんな風に愛されるのは嫌だ──Subとしての本能か、ルノーへの愛情がそう思わせるのか、それすら分からない中、後孔に押し当てられた肉の先によって孔を広げられるような感覚がして、喉の奥で引き攣った音が鳴った。
お願い、お願い、やめて──緊張が限界まで達した刹那、思考が弾けた。
「ッ……!! 『ルノー』!!」
「──!!」
泣き叫ぶように発した二人のセーフワードに、空気が止まった。
シン……と静まり返った部屋の中、広がったのは安堵ではなく後悔だった。
お仕置き宣言をされてから、どれほど時間が経っただろう。
あらゆる自由と時間感覚を奪われた暗闇と恐怖の中、延々と続く快楽に泣き続けていた。
あの後、ルノーに命じられるまま全裸になると、視線だけでベッドに行くよう命令された。
初めての命令らしい命令に怯えながら、震える足を奮い立たせ、なんとかベッドまで辿り着くと、ノロノロとその上に乗り上げた。
ここからどうすればいいのか……そう考える間もなく、手足を拘束され、視界を塞がれ、半ばパニックになりながらも耐える他なかった。
『僕の好きにしていいのでしょう?』
そう言われ、グッと唇を噛んだ。
好きにしていい、そう告げたのは紛れもなく自分で、それを嘘にする訳にはいかなかったからだ。
足を広げられ、局部をすべて曝け出す姿で体の自由を奪われ、心臓がはち切れんばかりに鼓動した。
羞恥と恐怖が綯い交ぜになり、Glareの圧とは異なる意味で体が震えたが、泣き言は言えなかった。
何をされるのか、これからどうなるのか、何もかも分からず、けれど問い掛けることも許されない中、荒々しい愛撫が始まり、そこからはただ鳴くことしかできなくなった。
いつもなら優しい手つきで撫でられる胸を強く揉まれ、僅かな痛みに眉根を寄せたのも束の間、寄せられた肉に鋭い痛みが走り、思わず悲鳴が漏れた。
ルノーに咬まれた──そう認識するよりも早く、痛みとショックで反射的に「やだ!」と言ってしまい、即座に後悔する。
『嫌がることは許さないと、言いましたよね』
責めるような声音に、また反射的に謝りそうになり、慌てて唇を噛んだ。
言いつけを破ってごめんなさい。
咬まれることが嫌な訳じゃない。
ただ少し、怖いだけ……
そう伝えたいのに、伝える術がなく、かと言って首を振って違う意味に捉えられてしまうことも恐ろしく、小さく唸ることしかできなかった。
その行為が正解だったのか、不正解だったのか、それすらも分からないまま、無言のまま愛撫が再開され、喘ぐ以外、何もできなくなった。
乳首を撫でられ、指先で捏ねられ、固くなった粒を強く吸われ、痛みに呻けば優しく舐め回された。その気持ち良さに少し気を抜けば、それを咎めるように歯を立てられ、そのたびに四肢が引き攣った。
視界を遮られた肌はいつもよりもずっと敏感で、痛みに対しても弱くなってしまう。
血が出るような鮮烈な痛みはない。けれど、間違いなく噛み跡が残るであろう強さで咬まれた肌は戦慄き、次にいつその衝撃がくるのだろうと身構えているだけで、精神が削れていくのが分かった。
ルノーの手によって完全な性感帯となった乳首をしつこいほどに弄られ、吸われ、充血して固くなった粒を咬まれ、痛みでジンジンと泣く肉を優しく舐められる。
痛みと快楽を交互に与えられ、怯えている間に幾度となく絶頂し、胸への愛撫だけで何度も吐精した。
胸周りや首筋、肩口、腹筋と、ありとあらゆる部位を強く吸われ、咬まれ、全身に痛みが広がっていく。
一瞬の痛みが過ぎれば、残るのは熱だけで、気づいた時には全身から汗が吹き出し、髪の毛は汗と涙でぐっしょりと濡れていた。
その間、ルノーは一言も声を発することなく、塞がれた視界では彼がどんな表情でいるのかも分からず、その心情を読み取ることは少しも叶わなかった。
気持ち良さと痛みと絶頂で体力も奪われていく中、なによりも恐ろしかったのは、拘束されていることでも、視界を塞がれていることでもなかった。
会ってから一度も、褒めてもらえない。
それが寂しくて、悲しくて、苦しくて、『心』がどんどんすり減っていった。
自分が悪いことをしたのだから、仕方ない……そう思う反面、いつもなら些細なことでも「良い子」と言って褒めてくれるルノーが、ただの一度も褒めてくれず、『お仕置き』だけを強要されている今に、言葉にし難い恐怖が滲み出す。
普段から、痛いことも、苦しいこともしないと言ってくれるルノー。そんな彼から与えられる初めての苦痛は、ただただ恐ろしかった。
ちゃんと言いつけを守ってるのに、ちゃんと反省してるのに、どうして褒めてくれないのか……褒められることは愛されることと同義であるSubとしての本能は耐え難い飢えに乾き、与えられる愛情不足から思考が鈍り始めた。
「やだ……! もうやだ……っ!」
ほとんど意識もないまま発した声に、愛撫が止む。けれど、それで安心できるはずがない。むしろ不安が増しただけだった。
「……どうして言いつけを守れないの?」
「ひっ、ご、ごめんなさ……、あっ!? やっ、いあぁぁっ!」
考える力など、ほとんど残っていなかった。
Glareの圧で潰され、絶頂で精神と体力は削られ、心はすり減っていく……そんな限界の中で、自身のカウパー液と精液でしとどに濡れ、調教済みのアナルに突然指を挿入され、驚愕から体が跳ねた。
いきなり二本の指で後孔を広げられ、驚きと息苦しさから反射的に足を閉じようとするも叶うはずはなく、拘束する布がギチリと鳴いただけだった。
「や、嫌だ! まって、まって……っ、ルゥくん……!」
乱暴に孔を広げられ、ナカに潤滑剤を注がれ、一気に指を三本に増やされて、抵抗する言葉を止められない。
潤滑剤で滑りの良くなった孔は、ほんの少し掻き混ぜられただけで柔らかくなり、グチュグチュと淫靡な音を漏らすだけの性器に変わった。
「ひっ!? や、まって! そこダメッ、ダメだから……!!」
ぐぷぐぷと奥を掻き混ぜていたルノーの指が、何かを探るように浅いところを撫で回し、ある箇所で抜き差しを止めた。
会陰の裏側、ペニスの付け根よりも浅い部分の膨らみ──前立腺と呼ばれるそこをグリグリと押され、拘束された手足がブルブルと震えた。
「ああぁぁぁっ!! ダメッ、そこダメ!! そこやめてぇ……っ!!」
初めて会陰を責められた時からバレていた弱い部分。そこを一点集中で苛められ、弱点を隠すことも、快楽を逃すこともできず、膨れた肉を容赦なく抉られるたびに絶頂し続けた。
「ダメ、ダメ、ダメ……ッ、イッちゃ……! ……あっ、やっ、やだ! ごめんなさいっ、ごめんなさい……!」
ルノーの言いつけを守る余裕なんてない。
途切れない絶頂に、恥もすべてかなぐり捨て、泣きながら動かせない手足をバタつかせた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ、ルゥくん……っ!」
今こうしている間も、ルノーがどんな顔をしているのか、どういう気持ちでいるのか分からない。それが怖くて、謝ることを止められなかった。
「ごめんなさ……っ、ルゥく、こわい……っ、怖いから、もうやめてぇ……!」
情けないだとか、そんなことを考える余裕もない。
仕置き中だということも忘れて泣きじゃくれば、前立腺を押し潰していた指先の力がふっと緩んだ。
「……ベル」
「っ……!」
名前を呼んでもらえた。ただそれだけで、嬉しくてペニスの先端から涙が零れた。
「ル、ルゥく……」
「貴方は僕のものでしょう」
「え……?」
突然の発言に、一瞬呆ける。
なぜ、そんな当たり前のことを聞くんだろう──その一瞬の反応の遅さがいけなかったのか、Glareのオーラが強くなり、再び前立腺をグリリと潰された。
「ひっ!? やっ、まっで、ダメェ!!」
「違うの? ベルは僕のものじゃないの?」
「アッ、ルゥくっ、ルゥくんのものです! ルゥくんのものだから……っ!!」
そう答えても、指の動きは止まらず、強すぎる刺激に筋肉は引き攣り、肌がゾクゾクと粟立った。
「ルゥぐ……ッ、ルゥくんのものです……!」
「……僕のものなのに、どうして勝手なことするの?」
「ごめ、ひっ、ごめんなひゃい……っ」
「どうして僕の知らないところで、他の男と会うの?」
「あっ、ダメ、イクッ、ごめんなしゃ……!」
「どうして、僕を怒らせるの?」
「ごめんなさい……っ、ごめんなさ……!」
「こんなこと、したくないのに……!!」
「──!」
慟哭にも似た悲痛な叫びと共に、それまで全身に浴びていた怒りの感情が、別の色に変わった。
「ベルは僕のものなのに……っ、どうして僕から離れようとするんだ!!」
泣き声のようなその音に、連続絶頂でふやけていた思考が一瞬でクリアになる。
ああ、昨日の自分の行動は、愛するDomへの裏切り行為であり、ルノーを悲しませるものだったのだ──それに気づいた瞬間、火照っていた体が一気に冷えていった。
ルノーは、ただ怒っていたのではない。自身のSubの行動にショックを受け、深い悲しみが怒りに変わってしまうほどの激情に呑まれたのだ。
(……私のせいだ)
これまで一度も声を荒げたことがないルノーの大きな声が、鼓膜の奥でくわん……と反響する。
ああ、自分は本当に、なんて愚かなことをしてしまったのだろう。
罪悪感という言葉では言い表せないほどの後悔が押し寄せる中、きちんとルノーに謝りたくて、必死に声を振り絞った。
「ルゥ……ルゥくん、目隠しを、取ってく、ひゃうっ!?」
布で遮られたままの視界では、ルノーの顔が見えない。
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短時間で解された孔は刺激にヒクつき、軽く達してしまった衝撃に爪先が丸まった。
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「はぁ……はぁ……、……?」
自身の荒い息遣いだけが聞こえる中、掠れた声がポツリと落ちた。
自分がルノーに嫌われてしまうならまだ分かる。だが、その逆なんて絶対にあり得ない。
ルノーがなぜ突然そのようなことを呟いたのか分からず、困惑している間に反応が遅れた。
「ルゥくん……? 何を言っ──ッ!?」
直後、ルノーが移動したような気配がして、その気を追うも、彼の体が広げた股の間に収まり、ヒュッと喉が鳴った。
「まって……待って、待ってくれ! ルゥくん!」
まさか、いや、そんな──即座に否定するような考えが浮かぶも、焦る気持ちが先に立つ。
よもや、このまま挿入するつもりでは……一瞬浮かんだ考えを肯定するように、解れた孔に固い肉が触れ、ビクリと体が跳ねた。
(嘘、待って、やだ!!)
咄嗟に叫んでしまいそうになった声をギリギリのところで飲み込むも、体はルノーを拒絶するように動いてしまう。
「待って!! ルゥくん待ってくれ!!」
「……そんなに僕に抱かれるのが嫌ですか?」
「違う!! そんなことない……っ!」
違うのだ。ルノーと繋がることも、抱かれることも、少しも嫌じゃない。
むしろ本来であれば、嬉しくて嬉しくて、これ以上ないほど幸せな気持ちになるはずだ。初めて互いの体を繋げる大事なことならば尚更、そうあってほしいのだ。
だからこそ、ルノーを悲しませ、怒らせ、謝罪も愛情も、何も渡すことができないまま、罰のように『初めて』を失いたくなかった。
「まってくれ! ルゥくん、違うんだ……!!」
その想いを伝えたいのに、焦る気持ちと行為を止めさせたい気持ちが拮抗して、「待って」と「違う」しか言えない。けれど「やめて」とルノーを拒絶するような言葉は言いたくなくて、いつの間にか止まっていたはずの涙が再び溢れた。
「お願い……! ルゥくん、話しを……っ」
待って、止まって、話しを聞いて……懇願する間も、眩暈がするような気持ち悪さに脳が揺れ、体がガクガクと震え出す。
こんな風に愛されるのは嫌だ──Subとしての本能か、ルノーへの愛情がそう思わせるのか、それすら分からない中、後孔に押し当てられた肉の先によって孔を広げられるような感覚がして、喉の奥で引き攣った音が鳴った。
お願い、お願い、やめて──緊張が限界まで達した刹那、思考が弾けた。
「ッ……!! 『ルノー』!!」
「──!!」
泣き叫ぶように発した二人のセーフワードに、空気が止まった。
シン……と静まり返った部屋の中、広がったのは安堵ではなく後悔だった。
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