Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

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ある日の職場。いつもと変わらぬ風景の中、いつもと同じように職務に取り組んでいた。

「ベルナール様、こちらの確認は終わりました」
「ああ、ありがとう、メリアくん」

不意に声を掛けられ、目を通していた資料から顔を上げると、机の正面に立つルノーから書類を受け取った。用件を済ませ、自席に戻るルノー。その背を見送り、また資料に目を落とした。

これまでと変わらない、いつもの風景、いつものやりとり、いつもの呼び方。一件、何も変わっていないように見えるが、実は大きく変わったことが一つある。

「二人とも真面目だねぇ。別に恋人らしく呼び合ってもいいんだよ?」
「……職場ですし、けじめですので」

のほほんとしたフラメルの声に、内心羞恥に襲われながら、なんとか平静を装って返事をした。
大きく変わったこと……それは、ルノーと付き合っていることが、周囲にバレたことだった。



ルノーと体を交えたあの夜、初めての行為だったにも関わらず、挿入されただけで絶頂し、その後も後ろだけで何度も達した。
愛した人と肉体的も精神的にも繋がれたことが嬉しくて、幸せで、彼に望まれるまま、己の限界も忘れて行為に耽ってしまったのだが、流石に途中からイキ過ぎて辛くなり、行為を終えようとした。
ところが、完全にDomのスイッチが入ってしまったルノーは止まらず、本当に朝まで離してもらえなかったのだ。いや、離してもらえなかっただけならいい。問題は、意識が飛ぶまで抱き潰されたことだ。

延々と後孔をペニスで突かれ、嬲られ、何度も中に精を出され、苦しいからやめてと言っても止めてもらえず、途中から意識が朦朧としていた。
途中までは覚えているのだ。初めてのセックスにも関わらず連続で絶頂し、これ以上はおかしくなるという恐怖から、泣いて懇願したところまでは覚えている。だが、その最中にルノーのGlareを浴びた後から、『気持ちいい』という感覚と、ずっと喘いでいたという記憶しか残っていないのだ。
何かとてつもなく大変な思いをした気がするのだが、脳みそが強烈な出来事を自動的に消してしまったかのように、断片的なことしか覚えていない。そうして次に意識が戻った時には、もう朝日が昇っていた。

全身信じられないほどの鈍痛と倦怠感に襲われ、立ち上がることもままならず、声は枯れ、身体中にキスマークと歯形が残っていた。
とてもじゃないが仕事ができるような状態ではなく、結局仕事を休んだのだが、その欠勤連絡をルノーが行ったのだ。
その際、あろうことか「無理をさせてしまって、ベルナール様はベッドから起き上がれませんので、本日はお休みをいただきます。僕も看病のためにお休みしますね」と堂々と言ってきたらしい。
そんなこととは露知らず、ルノーのベッドに寝かされたまま、朝から晩まで嬉しそうに世話をする彼に甘やかされ、一日かけてなんとか回復したのだが、翌日、出勤した時にはもうルノーと付き合っているという噂が広まっていた。

フラメルには「まぁ、良い仲になったんだろうなぁとは思ってたけどね」と衝撃の告白をされ、その上で「ほどほどにね」と注意をされ、恥ずかしさで倒れるかと思うほどだった。
部署の皆からも生暖かい目で見られ、中にはルノーに対し「おめでとう!」と声を掛ける者までいて、何が起こっているのかまったく分からないまま、その日は仕事を終えた。
すぐにルノーを捕まえ、帰りの馬車の中でどういうことかと問い正せば、「もう隠す必要がありませんから」と実にあっさりとした返事が返ってきた。

『交際していることを公にしておけば、ベルに近づく輩を減らせますし、僕も堂々と追い払うことができます。いずれは皆さん知ることですし、疾しいことはないのですから、隠れて付き合う必要もありません。愛し合って恋人になったのですから、恥ずかしがらなくていいんですよ』

そう笑顔で言われ、何も言えなくなった。
「もっと違う伝え方があっただろう」とか「他に恥ずかしいことがあるだろう」とか、言いたいことは多々あったが、体を交えてから一層強くなったルノーのDomのオーラに負けてしまったのだ。
事実、結婚を前提に付き合っているのだから、交際していることを隠す必要はない。自身のダイナミクス性についても、もう受け入れているので、あえて隠そうという気もない。
正式に婚約すれば、いつかは周りにバレることだし、それが遅いか早いかだけの問題なのかもしれないが……だとしても、もう少し言い方というものがあるのではないかと思ってしまう。

結局、ルノーの「勝手なことをしてごめんなさい」という悄げた顔と、「でも、ベルは僕のものだって、皆に知ってほしかったんです」という言葉に絆され、最終的には許してしまった。勿論、以降は二人の褥事情を明かすような発言は控えてほしいと約束をした上で、だ。



それが数日前のことなのだが、気づけば部署内はおろか、城内全体にルノーと交際している話が広まっていた。

(そこまで噂になるようなことなのか……?)

好奇の目に晒されるであろうことは、ある程度は覚悟していた。が、それにしても噂の広がる速度の速く広いこと。
他人の恋愛事情など、そこまで気にするものでもないだろうに……と思うのだが、現侯爵家の当主と男爵家の嫡男という身分差、十四歳という歳の差、そして、ルノーがDomであるということから推測される自身の性別のこと……話題性抜群とまではいかないにしても、噂話をするにはちょうどいいのだろう。
チラチラと何かを探るような視線を送られ、正直落ち着かなかったが、いずれは通る道だったのだ、と自分を納得させ、気にしないことにした。

城内全体がそんな雰囲気の中、部署内はと言えば、なぜか逆にお祝いムードで、これはこれで落ち着かなかなかった。
フラメルのからかっているのか本気なのか判断がしにくい発言はともかく、他の者達も妙に優しく、理解があることが不思議でならなかったのだが、これについても、ルノーが原因だった。

今から数ヶ月前のルノーの歓迎会。その席で、あろうことかルノーは「ベルナール様にお会いしたくて、王城まで追いかけてきてしまったんです」と周囲に明かしていたのだ。
話の流れは、やはりルノーに婚約者がいないことから始まったそうなのだが、そこから恋愛話になり、躊躇うことなく自分に対する恋慕の情を打ち明けたらしい。
堂々と、しかし内緒の話として打ち明けたルノーに、周囲の者は皆、『こっそり応援しつつ見守る』という態勢になったという。
十四歳年上の男に、成人したばかりの子が恋をしている──正直、そこはうら若き青年の将来を考え、諭すべきではないのか……と思うのだが、年嵩の者が多く、皆がルノーを可愛がっていたがために、一途に一人を想う彼の恋心に絆され、応援する方向になってしまったのだろう。

そこからはもう己だけが何も知らない中、皆が密かにルノーの恋を見守るという異常事態だ。いや、見守る以外、誰も何もしていないので、何も起こってはいないのだが、それでもこの数ヶ月間、どんな目で皆に見られていたのかと思うと恥ずかしくて、平静を装うのがやっとだった。

とはいえ、祝福してもらえることは純粋に嬉しかった。部署内に限ったこととはいえ、嫌悪の視線を向けられることも、奇異の目で見られることもなく、これまでと変わらぬ日常を過ごせる。それがただただ有り難かった。
だからこそ、公私の区別はきちんと分けるのがけじめだろうと思い、職場での呼び方も、接し方も、これまで通りでいたいとルノーに相談すれば、彼も同意してくれた。
そうして今は、内心ドキドキしながらも、表面上はこれまで通り、上司と部下として職場では過ごしていた。

勿論、目が合えば互いに笑みを送るし、休憩中は堂々と二人でいるし、ルノーはこれまで以上に積極的に仕事を手伝ってくれるので、何かと周囲の視線は生暖かいが、居心地が悪いということもなく、日々は平穏に過ぎていた。
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