6 / 24
6
しおりを挟む
受付の女性は、少し困ったような顔で首を傾げた。
「聞いていらっしゃらないのですか?」
そのとき、後ろから声がかかった。
「本当に来たの?」
振り返ると、資料で見た写真と同じ青年がそこに立っていた。エリック・ターナーだ。
「エリックさんですね、私……」
不機嫌そうな顔で睨みつけられ、私は戸惑った。話は通してあるんじゃないのか。本人が引き抜きの件を知らないとしても、睨みつけられるような話ではない。エルドレッドは何をやったんだ。
「せっかく来てくれたところ悪いけど、帰ってくれないかな」
「え?そ、それは困ります!」
『行ってみたら本人からお断りされたので無理でした』では、さすがに困る。でも、これはエルドレッドの手落ちじゃないのか。根回しが最悪だ。だいたい、私はなんの目的でここに来たことになっているのだろう。
「そりゃ困るだろうね。でもさ、もうちょっとやりようがあるんじゃないの?」
「何の話ですか?」
「何の話って、そっちが知ってることだろう?」
彼は、スタスタと歩き出していた。私は、慌てて追いかける。とにかく、話を聞き出さなければ、何もしようがない。
「……申し訳ないんですけど、私、どういうお話なのか何も聞いていないんです。急にこちらへ行くように言われましたので」
「……知らないの?」
「ですから、何の話なんですか?」
私がさらに訊ねると、彼はようやく立ち止まった。何も知らない女性が連れてこられたと判断したのかもしれない。実際、私も最終的に彼を引き抜きたいという話以外何も知らないのだから、間違ってはいなかった。
「監視に来たんだろ?」
「はあ?そんな話、誰がしたんですか?」
「本当に知らないんだね。まあ、どっちにしてもそれなら帰った方がいいよ。俺は監視されるようなことはしてないし」
「ちょっと待ってください。おかしいでしょう、監視のために助手をつけるって」
「俺もおかしいとは思ってるよ」
そこまで聞いて、これはエルドレッドの嫌がらせなのではないかと思った。軍──いわゆる本部──から監視をつけられるような人間と認識された青年が、3ヶ月後に『王都から引き抜きがあるような人間』に変わるわけがない。
『代わりになるやつを連れて来い』と言いながら、そんなつもりはなかったのではないか。
絶対にできもしないことを頼んでおいて、『それなら戻って来い』とでも言うつもりなのだろうか?そうだとすれば、あまりにも私を馬鹿にしている。
「……ちょっと待ってください!詳しく話を聞かせてくれませんか」
「聞いていらっしゃらないのですか?」
そのとき、後ろから声がかかった。
「本当に来たの?」
振り返ると、資料で見た写真と同じ青年がそこに立っていた。エリック・ターナーだ。
「エリックさんですね、私……」
不機嫌そうな顔で睨みつけられ、私は戸惑った。話は通してあるんじゃないのか。本人が引き抜きの件を知らないとしても、睨みつけられるような話ではない。エルドレッドは何をやったんだ。
「せっかく来てくれたところ悪いけど、帰ってくれないかな」
「え?そ、それは困ります!」
『行ってみたら本人からお断りされたので無理でした』では、さすがに困る。でも、これはエルドレッドの手落ちじゃないのか。根回しが最悪だ。だいたい、私はなんの目的でここに来たことになっているのだろう。
「そりゃ困るだろうね。でもさ、もうちょっとやりようがあるんじゃないの?」
「何の話ですか?」
「何の話って、そっちが知ってることだろう?」
彼は、スタスタと歩き出していた。私は、慌てて追いかける。とにかく、話を聞き出さなければ、何もしようがない。
「……申し訳ないんですけど、私、どういうお話なのか何も聞いていないんです。急にこちらへ行くように言われましたので」
「……知らないの?」
「ですから、何の話なんですか?」
私がさらに訊ねると、彼はようやく立ち止まった。何も知らない女性が連れてこられたと判断したのかもしれない。実際、私も最終的に彼を引き抜きたいという話以外何も知らないのだから、間違ってはいなかった。
「監視に来たんだろ?」
「はあ?そんな話、誰がしたんですか?」
「本当に知らないんだね。まあ、どっちにしてもそれなら帰った方がいいよ。俺は監視されるようなことはしてないし」
「ちょっと待ってください。おかしいでしょう、監視のために助手をつけるって」
「俺もおかしいとは思ってるよ」
そこまで聞いて、これはエルドレッドの嫌がらせなのではないかと思った。軍──いわゆる本部──から監視をつけられるような人間と認識された青年が、3ヶ月後に『王都から引き抜きがあるような人間』に変わるわけがない。
『代わりになるやつを連れて来い』と言いながら、そんなつもりはなかったのではないか。
絶対にできもしないことを頼んでおいて、『それなら戻って来い』とでも言うつもりなのだろうか?そうだとすれば、あまりにも私を馬鹿にしている。
「……ちょっと待ってください!詳しく話を聞かせてくれませんか」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる